第百十八話 地上に降りた女神様(一)
技術と創作の神様と、恋を取り持つ神様を捕まえ損ねたオリビアは、星詠みの女神ルミナテス様の神殿に来ていました。
「ふん、ふん、ふ~~~ん・・・」
ルミナテス様は鼻歌を歌いながら、鏡の前で綺麗な衣装を、次々と着替えています。
(えらい、楽しそうにしてはるけど?なんで?)
「あの~、ルミナテス様・・・」
「さっきから、えらい服装を気にしているみたいやけど?」
自分のお茶でびしょ濡れにしてしまった事を、オリビアは気にしていたのですが、どうも様子が変なので、ルミナテス様に尋ねてみました。
「だって~!」
「わたくし、地上に降りるなんて初めてなんですもの~!」
「女神として恥ずかしくない服装でないと、困るでしょ?」
(え~~~っ!!)
(それって、まるで旅行にでも行くノリやんか?)
「あ、あの~ルミナテス様?」
「神様って、人間の前に姿を現してもええのん?」
「えっ!?」
「い、いや、うちの知っている神様は、あかんみたいな事を言っていたような気が・・・」
「え~~~っ!ダメなのですか?」
(えっ!なにそれ?うちに聞くんかいな?)
「いやぁ~、聞いた話やねんけど・・・」
「なんか昔、セレイヤ様が人間と恋に落ちて、大変な事になったとか・・・」
「それにダレス様も、どえらい事をしでかして・・・」
「あっ!そうでしたわね!」
「人間の世界に、直接干渉してはダメでしたわね!」
(あっ、やっぱり、あかんのや!)
「そやけどセレノス様は、この前マラドガードで戦ってはったけどな?」
「あぁ、あれは仕方がありませんわ!」
「聖獣マラードと、グラビティストーンを守ると言う、大義がありましたから!」
「あっ!それならこの度も、世界をザキュエルから守るという大義がありますわね!」
「そうやね、それなら問題はあらへんと思いますわ」
「あらっ?ちょっと待って!」
「オリビアさん、セレノス殿は神様の姿で干渉されたのですか?」
「いえ、あの時は巨大な魔物の姿で戦ったって聞いたわ!」
「それに、普段の姿はネコやったな~」
「まぁ!セレノス殿も、その辺はわきまえているのですね?」
「う~~~ん、でしたらわたくしも、見習わなくてはなりませんねぇ・・・」
「うちも、その方がええと思いますわ」
「もしルミナテス様が、その美しいお姿のままで地上に降りたら、どえらい事になると思うので・・・」
「まぁ!オリビアさんったら、お上手ね!」
「うふふ・・・」
「そうですね!」
「では、わたくしも姿を変えて地上に降りましょう!」
「おわ?ルミナテス様も変身出来るのですか?」
「いいえ、ですからまずは、セレノス殿の所へ行きましょう」
「そして力の杖で変身させてもらうのですわ!」
「うふふっ!どんな姿に変えてもらおうかしら~」
「ふん、ふん、ふ~~~ん・・・」
(いや、遠足気分丸出しやん!)
「はぁ、そうですね、分かりました」
「それでは、ご案内いたします」
こうしてオリビアはルミナテス様を伴って、ミントの町の教会へ降り立ちました。
教会へ着くと、オリビアは人間の姿に変身し、ルミナテス様は人には姿が見えない状態で、セレノス様を捜しに行きました。
「ルミナテス様は、人間界に降りるのは初めてなのですね?」
「・・・・・・・・」
「えっ?」
返事が無いので後ろを振りむくと、ルミナテス様は雑貨屋の店先に座り込んで、店に並べられている陶芸品をジ~ッと眺めていました。
オリビアは、慌ててルミナテス様のおそばへ行きます。
「ルミナテス様、どないしたんですか?」
「みて!この陶器で出来たお人形!」
「可愛いでしょ?」
見ると、幼い少女が綺麗なドレスを着て、ダンスを踊っている姿の人形でした。
「あ~っ、それな!?」
「ルミナテス様、この人形はオルゴールやで!」
「まぁ、それはどういった物なのでしょうか?」
「まぁ、見てて!」
オリビアはそう言うと、その人形の台座についているネジを、キリキリと回しました。
すると美しい音色を演奏しながら、お人形がクルクルと回りだします。
「まぁ!何て素晴らしいの!?」
「素敵ですわ~!!」
ルミナテス様はその人形にすっかり魅了されて、座り込んだまま動こうとしません。
(そう言えば、天界にはこういった物はあらへんもんなぁ~)
「ルミナテス様、この人形が気に入ったのですか?」
「よかったら、うちが買ってあげましょか?」
「ええっ!!」
「買ってくれるのですか?!」
「本当に?!」
「え、ええ・・・」
「それほど高価な物と違うので・・・」
オリビアは7ゴールドを払って、人形をルミナテス様にプレゼントしました。
すると大喜びで、早速ネジを回そうとするので、オリビアは慌てて止めます。
「あっ!あかん、あかん!」
「ルミナテス様の姿は人に見えへんねんから!」
「宙に浮いた人形が踊っていたら、みんなビックリするわ!」
「これはうちが預かって、後で差し上げますから!」
そう言って人形を取り上げると、まるで小さな子供からオモチャを取り上げたような、すごく悲しそうな顔をしたので、オリビアは驚いて、つい余計な事を言ってしまいました。
「ル、ルミナテス様、ほかに気にいった物があったら、遠慮なく言うてね!」
「うち、結構お金を持ってるから、何でも買ってあげるで~!」
「まぁ!ほんとに?!」
その言葉を聞いた途端、ルミナテス様の顔はパ~ッと明るくなりました。
「じゃぁ~、お付きの天使たちの分のお土産も買っていい?」
「ええでぇ~!」
「わ~~~~い!」
「やった~~~!」
ルミナテス様は大はしゃぎで、町中のお店で買い物を始めました。
(え~~~っ!ウソやろ?どんなけ買うのよ!?)
(って言うか、ルミナテス様、完全に下界に来た目的を忘れているやん!)
それから散々お買い物に付き合わされて、オリビアがクタクタになった頃、ようやくルミナテス様は目的を思い出したようです。
「オリビアちゃん、お買い物も良いのですが、本来の目的を忘れちゃダメよ~」
「そろそろセレノス殿を捜しましょうか?」
「は、はい~!」
(アンタが、それを言うんかい!)
「それで、セレノス殿の居場所は分かるのですか?」
「あっ、それなら心配せんでもええよ!」
「きっといつもの所に居るはずやから~!」
そう言うとオリビアは、モモちゃんの働いているレストランへ向かいました。
そしてお店の前まで来ると、指をさして言いました。
「ほら!おったで~!」
見ると灰色に黒のトラ模様が入ったネコが、お店の窓にヤモリのように貼り付いて、腰をクネクネと動かしています。
「えっ?」
「あの奇妙な動きをしているネコが、セレノス殿なのですか?」
ルミナテス様は目を細めて、まるで奇妙な生き物を見るような顔をして言いました。
「そやで~!」
「いつもここに来たら、あんな感じでおるわ!」
「ちょっと、待っててね!呼んで来るから!」
そう言うとオリビアは、セレノス様に気付かれないようにそ~っと近づくと、いきなり大声で叫びました。
「わっ!!」
「どひゃ~~!!」
ドスン!!
驚いたセレノス様は、そのまま地面に墜落してしまいました。




