第百十三話 水光のアルフェリナ(二)
カーナの制止を振り切り、フレディアの怒りは止まりません。
「バズエルが堕天使になったのも、あの女神のせいだわ!」
「ダレス様が愛したバズエルの母親を、あの女神が死に追いやったせいよ!」
「それだけでも許せないのに、今度はルナにまで!」
「あんなヤツに、女神の資格など・・・」
「それ以上言ってはダメよ!」
激高するフレディアを止めたのは、ルナでした。
フレディアを落ち付かせようと、ギュッと抱きしめて言いました。
「フレディア、もうそれ以上言ってダメですわ!」
「わたくしのために、怒ってくれるのは嬉しいけれど、それ以上言ってはダメ!」
「それ以上言っては、あなたはもう、天使ではいられなくなってしまいますわ!」
「フレディア落ち着いて!」
「いまのルナは不幸じゃないわ!」
カーナも必死になって、フレディアを落ち着かせようとします。
フレディアは身体を怒りで震わせながら、ポロポロと涙を流していました。
これほどの激しい感情が生まれたのは、フレディアの身体に流れる闇の力のせいなのか、それとも、フレディアの知らないもう一つの理由からなのか・・・。
ですが、フレディアが後者の理由を知るのは、まだ少し先の話なのです。
セレイヤ様はフレディアが口を閉じると、「ふぅ」とため息をつきました。
「フレディアの気持ちはよく分かります」
「確かに、あの御方の所業には困ったものです・・・」
女神であるセレイヤ様が、フレディアの言葉を咎めなかったので、ルナもカーナも安心しました。
「ですが、今はそれよりも、ザキュエルの事です」
「はい、セレイヤ様」
「わたくしも、そのためにセレイヤ様の力を授かりに来たのです」
「わかりました!」
「ですがルナよ、あなたがわたくしの加護を授かれば、もはや人ではなくなりますよ?」
「それを承知で参ったのですね?」
「はい!」
「えっ?!」
「人ではなくなるとは、どういう意味でしょうか?」
驚いてカーナが尋ねました。
「ルナは元の精霊に戻り、そしてわたくしの加護を授かる事で、新しく生まれ変わるのです」
「水光のアルフェリナへ」
「そ、それはいったい?」
「神の存在に近い、高位の精霊となるのです」
「えぇ~~っ!」
「ですが安心なさい、姿かたちは変わりません」
「ルナはそれでいいの?」
落ち着いたフレディアが、ルナに尋ねました。
「えぇ、もちろんですわ!」
「大切な人たちを守るために、わたくしが望んだのですから」
「わかった!」
フレディアはルナの決心を聞いて、心に誓いました。
このままではダメだ!自分もルナと同じく、強く生まれ変わらなければならないと。
「では、儀式を続けましょう」
「なんじゃと?」
「ルナが女神様の加護をもらうと、すごい人になるのかの?」
「それって、どれぐらいすごくなるのじゃ?」
ポンポンがリーファに尋ねました。
「う~~~ん・・・」
「エルデリーナ様と同じぐらい!」
「「えぇ~~っ!!」」
「マジかよ?」
ジャックも驚いて目をクルクルと回しています。
「ジャックは気づかなかったの?」
「ルナ様が、高位の精霊だったことを?」
「いや、ただ者じゃない事は、分かっていたけど・・・」
「えっへん!リーファは初めて会った時から、分かっていたよ!」
リーファはポンポンがするように、胸を張って自慢しました。
「あっ、そう言えば、リーファはいつも『ルナ様』って呼んでおったのぉ!」
「よし、今から偉くなったルナを見に、教会に行くのじゃ!」
ポンポンの提案に、ジャックもノリノリです。
「オイラもルナ様におべんちゃらを言って、引き立ててもらおうっと!」
「おぬし、本当に精霊なのか?ちと、人間臭くないかの?」
「まさか怪異や、ものの怪のたぐいではあるまいの?」
ポンポンが疑いの目でジャックを見ました。
「違うわい!オイラは人間との付き合いが長いからだよ!」
「ジャック、実は俗物!」
ジャックの言い訳を、リーファは一言で切り捨てました。
ポンポンたちが教会に着くと、すでにカレンとモルティナが入り口の前にいました。
「なんと、カレンもルナを見にきたのかの?」
「あっ、ポンポン」
「いや、オレは見に来たと言うより、用事があってね!」
そう言うとカレンは、マグナ・グラビティの魔法書を高々と掲げました。
「ジャ~~ン!これを見よ!!」
「おっ!何やら美しい本じゃの?」
「何の本なのじゃ?宝石の本かの?」
「ふっ、ふっ、ふっ・・・。聞いて驚け!」
「これはマグナ・グラビティの魔法書だよ!」
「イエ~~~~イ!!」
「ほぉ?」
「・・・・・・」
「えっ?」
「それだけ?」
「カレン!ポンポンは、甘いお菓子にしか興味がないの!」
「ガ~~~ン!」
リーファに言われたカレンは、ガックリと肩を落としました。
しばらくすると、教会の扉が開いて三人が出て来ました。
その様子を見て真っ先に口を開いたのは、ポンポンです。
「なんじゃ、ルナはちっとも変わっておらんではないか!」
「いや、ルナのオーラが、以前とは比べ物にならないほど輝いているよ!」
カレンが驚いて言いました。
「なんじゃリーファよ、そうなのか?」
「うん、ポンポンの目は節穴なの!」
「あっ、はっ、はっ、はっ・・・」
「相変わらず容赦ないな、リーファは!」
ジャックは笑い転げています。
カレンはルナに駆け寄ると、嬉しそうに声を掛けました。
「ルナ!見違えるほど力が増しているね?」
「無事にセレイヤ様の加護をもらえたんだね!」
「ええ、カレン、心配してくれてありがとう」
「そっか!じゃあ、セレスフィア様の泉の探索は任せても大丈夫だな!」
「ええ、もちろんですわ!」
「よし!これでオレは安心してフレディアのために頑張れるぜ!」
「ルナ、これを見てくれ!」
カレンはルナにマグナ・グラビティの魔法書を見せました。
「まぁ、カレン!いったいこれをどうして?!」
「へっ、へっ、へ~!」
「オレの師匠が、持って来てくれたんだよ!」
「まぁ!すごいですわ!」
「フレディア!あなたのために、カレンが用意してくれましたわ!」
ルナはフレディアの肩にそっと手を置き、カレンの前に促しました。
「フレディア!この魔法書を受け取ってくれ!」
「カレン、これは?」
「これはね!」
「はい、魔女ママ、フレディアに説明して!」
そう言うとカレンは、後ろにいたモルティナを、フレディアの前に押し出しました。
「えっ?あたしが説明するのかえ?」
「ま、まあ、いいけど・・・」
モルティナはフレディアに、この魔法を覚える事で、ザキュエルの持つ天地創造の杖に対抗出来る事を、詳しく説明しました。
「うん!わかった!」
「わたし頑張る!」
「ルナの気持ちに答えるために!!」
「そして、カレンの優しさを裏切らないために!!」
「そ、そんな!オレの優しさって・・・」
「うわ~~~ん!」
「フレディア、ありがとう~!!」
この日を境に、フレディアは生まれ変わる事を決意しました。
そしてフレディアの言葉を聞いたルナとカーナは、安心して泉の探索に旅立って行きました。




