第百六話 バルモスの戦い(六)
その頃バルモスの牢獄の中では、身体を思うように動かせないフレディアは、シルヴィーの膝に頭を預けながら、静かに看護を受けていました。
「ごめんね、シルヴィー」
「わたしがダメなばっかりに・・・」
「何を言っているのですか、フレディア様!」
「今回は、私たちの情報力が足りなかっただけで、誰の責任でもありませんわ!」
「それに大切な御方が、夢の中で教えてくれたのでしょ?」
「フレディア様の身体に流れる闇の力は、やがてフレディア様の力になるって!」
「うん・・・」
「とても優しい声で、教えてくれたの」
「どんな御方だったの?」
「とっても美しい、まるで女神様のような御方だった」
「でも、目が覚めたら、それが思い出せないの」
「そうなの?」
「でも、きっとフレディア様の事を、とても大切に想っている人に違いないわ!」
「だから元気を出して!」
「それに大丈夫ですよ!きっと仲間が助けに来てくれますって!」
「うん!」
そのフレディアとシルヴィーの傍らでは、ポンポンがブイブイと文句を言っていました。
「わしを縛るとは、何事じゃ!」
「これ、ロック!早く縄を解くのじゃ!」
「無茶を言うなよ!」
「オレも手枷と足枷で動けないんだから、無理に決まってるだろ」
「それに縄を解いたら、またオレを叩くだろ?」
「あたりまえじゃ!」
「バルモス様に逆らう者が悪いのじゃ!」
ジタバタ!ジタバタ!・・・・
「はぁ~!参ったなぁ・・・」
「ポンポンはこの有様だし・・・」
「オレ達は鎖に繋がれて、動けもしねえ」
「しかし、まさかここの岩が使えないなんて・・・」
「くそっ!今度から魔法のアイテムボックスに、いっぱい岩を詰め込んでおくぞ!」
ロックは今回の経験を、次に生かす事を考えていました。
ヴオ~~~~ン・・・・
薄暗い神殿の空間に、突然陽炎のような揺らぎが発生し、カレン達襲撃チームが姿を現しました。
「おっ!ここは?!」
カレンは咄嗟に腰の剣に手をやり、攻撃態勢を取ります。
ルナは無言のまま、いつでも攻撃出来るように身構えました。
「どうやら、上手く行ったようだね!」
モルティナは注意深く辺りを見回して様子を探ると、カレンに言いました。
「ここにバルモスの権能は感じられないねぇ・・・」
「恐らくこの場所は、バルモスのために作られた神殿のようだね」
「という事は、ここはまだバルモスの生息域ではないと言う事だね」
「よし、コル助!元の姿に戻っていいよ!」
「カア~~~~~ッ!!」
ボン!
シュルルル・・・
「カラスの王、コルヴァス様参上だぞ!」
「カア~~~~~ッ!!」
「コル助、グリムホルンに、人の声のする方向を調べさせて!」
「監守の声ではなく、捕らわれている囚人たちの声を聞き分けてね!」
「がってんで~!」
「・・・・・・・・」
「アネゴ、こっちでさぁ!」
バサ、バサ、バサ・・・
コルヴァスとグリムホルンの飛んで行く後を、カレン達は追いかけます。
その頃牢獄では7人の監守が、フレディア達の尋問のためにやって来ていました。
「へっ、へっ、へっ・・・」
「さぁ、どいつから拷問・・・いや、尋問を始めるかな」
「俺はあの青い髪の女が好みだぜ!」
「おぉ、いい女じゃねえか!」
「よし、まず初めにあの女をいただくか!」
牢獄の扉を開け、中に入ろうとする監守達に向かって、ロックが吠えました。
「おい!お前らシルヴィーに近づいてみろ!」
「オレがぶっ殺すからな!!」
「はぁ?ぶっ殺すだと~?」
「何もできないクソガキが!でかい口叩きやがって!!」
「これでも食らいやがれ!」
ザシュッ!!
監守の1人がロックに向かってムチを振り下ろそうとした時、その男の腹を貫いた剣先が、ロックの目の前に現れました。
「すまんなロック!我慢できなくて、オレが先にヤッちまったよ!」
「カレンさん!!」
「むっ!貴様ら何者だ!!」
「黙れ!お前らよくもオレの仲間を!!」
「オレの大切なフレディアを泣かしたな!!」
ロックの声に気付いた監守たちは、慌てて反撃の態勢を取ろうとしますが、激怒したカレンによって、一瞬の間に斬り倒されてしまいました。
「あわわわ・・・」
「あたしゃ、こんな怖いカレン嬢を見たのは初めてさね!」
鬼の形相で監守たちを斬ったカレンを見て、モルティナは驚きの声を上げました。
「当り前ですわ!」
「カレンがやらなければ、わたくしがやっていましたもの!」
ルナはカレンの攻撃の前から、指先から弾丸を発射するクリスタルアクア・バレットの準備を、すでに完了させていたのです。
(うわ~~っ!このおしとやかなお嬢様も、怒ると超ヤベ~な!)
ジャックはカレンとルナの様子を見て、完全にビビッてしまいました。
「ジャック!例の作戦を開始するさね!」
「お、おう!」
モルティナは牢獄から少し離れた場所へ移動すると、魔法のアイテムボックスの口を広げ、次々と超巨大バクダンオオアリを放っていきました。
(すげえな!一体どれだけの数がいるんだよ?)
放たれた超巨大バクダンオオアリは、瞬く間に壁に穴を空けて潜って行きます。
その時でした、牢獄の周囲に不気味な声が響き渡ったのは・・・。
暗い影が、天井から雨のように降り注ぐと、辺りを照らしていたロウソクの明かりが、黒い炎で燃え始めました。
“我が名はバルモス!我が領域を犯したる愚かな者どもよ・・・”
“死を持ってその罪をあがなうがよい!”
「ふざけるな!この臆病者が!!」
「ゴタゴタ寝言を言ってないで、さっさと姿を現しやがれ!」
「このオレがぶった斬ってやる!!」
「ほんとうに、情けない悪魔ですこと!」
「わたくし達が怖くて、出て来られないのですね?」
「腰抜けもいいとこですわ!」
カレンがバルモスに向かって罵声を浴びせ、ルナがわざと挑発をしました。
すると、さすがにバルモスも頭に来たらしく、すぐに監守達を呼び寄せました。
「お嬢さんたち、あたしはもう魔法が使えないからね!」
「後は任せたよ!」
「ジャック!あたしの護衛を頼んだよ!」
「おぉ~!ここはオイラに任せて、作戦の方を頼んだぜ!」
ジャックはモルティナの呼び掛けに応じて、身構えます。
「カァ~~~ッ!!」
「アネゴ!あっしも戦いたいでやんす!」
「ダメ!コル助はグリムホルンと一緒に、大事な役目があるでしょ!」
「こんな雑魚どもは、オレたちに任せておけばいいんだよ!」
「合点承知の助~!」
カレンに言われたコルヴァスは、グリムホルンに超巨大バクダンオオアリの動きを探るように言いました。




