第百五話 バルモスの戦い(五)
「オレに任せろ!」
「って、調子こいて来たけど・・・」
「魔女ママ、どうやって監獄の中に入るんだよ?」
「う~~~ん、そうさね~」
「実は、あたしもそれは考えていなかったさね・・・」
「なんだそりゃ?中に入れなければ、意味ねえじゃん!」
ジャックがブスッとした顔で言いました。
3人の会話を聞いていたカーナが、驚いてカレンに尋ねました。
「えっ?じゃぁ、カレンの秘策は使えないの?」
「ごめんカーナ!ダンジョンの中での攻略しか考えてなかったわ!」
「え~~~っ!」
カレンは恥ずかしそうに、頭をかきながら答えますが、すぐにある事に気付きました。
「あっ、そうだ!」
「スージーの土魔法で、監獄の壁に穴を空けられるんじゃないのか?」
「土の女神テラシア様の加護をもらって、パワーアップしたんだろ?」
カレンの問いに、オリビアが答えました。
「そうやねん!」
「実はうちらも、その手を使って突撃しようと話してたんよ!」
「なんだ、そっか!」
「じゃぁ、スージー頼むわ!」
「了解ですカレンさん!」
「やってみるね!」
スージーはオリビアに連れられて、監獄の壁際まで飛んでゆくと、土魔法を発動しました。
「大地の理に従い、硬き殻を砕きほどけ!岩よ、古き姿へ還れ!」
「サンド・ディスインテグラ!!」
ザ、ザ、ザ、ザ・・・・・
魔法の発動と共に、表面の岩がサラサラと砂になって崩れ落ちました。
しかし、それは表面がわずかに剥がれ落ちただけで、壁を崩す事は出来ませんでした。
「えっ!どうして?」
見るとスージーが魔法で崩した岩も、すぐに再生を始めて元の姿に戻ってゆきます。
「うわっ!やっかいやなぁ~!」
「あの大魔女さんが言うように、この監獄は生きているようやわ!」
オリビアとスージーは、ガックリと肩を落としました。
突撃作戦が失敗し、その場にいる全員が深い海の底へ引き込まれるように、どこまでも重く沈んでいました。
「くそっ!中にさえ入る事が出来たら・・・」
口惜しそうに歯嚙みをするカレンでしたが、ふと、ある事を思い出します。
「魔女ママって、グリーンホロウの戦いで、敵の魔物を町の中に引き入れたよね?」
「えっ?」
「ちょ、ちょっと、カレン嬢!」
「何もこんな時に、あたしの失敗を公表しなくても!」
「あっ、ははは!」
「あの時のモルティナ様の顔、真っ青になっていたよね!」
ジャックも愉快そうにモルティナを茶化します。
「こらジャック!」
「あんたも、あたしをバカにするのかい?!」
「違うよ、魔女ママ!」
「オレが言いたいのは、魔女ママの魔法で、魔物を違う場所へ転移させたって話だよ!」
「うん?あたしのアストラルゲートの魔法かい?」
「そう、それ!」
「あの魔法でさ、オレたちを監獄の中に転移出来ないかなって・・・」
「ゲゲッ!」
「それは無理さね!」
「いや、転移はさせられるけど、移動先が分からないと、大変な事になるさね!」
「どういう事?」
「だってカレン嬢、もし転移した先が、岩の中だったらどうなるのさ!」
「あっ、転移先の情報が無ければ、ヤバイってことか?」
「でも、あの監獄の中に転移する事は可能なんだろ?」
「そうさね~・・・」
「アストラルゲートの魔法は、次元の狭間に移動する魔法だから、結界やバルモスの干渉は受けないはずさね」
「じゃあ、後は安全な転移先を確保すればいいんだね?!」
「まぁ、そうだけど、そんな方法はあるのかね?」
カレンとモルティナの話を聞いていたカーナ達も、必死になって考えますが、見えない先の状態を知る方法など、まったく思いつきません。
諦めムードが漂い始めた時、突然カレンが声を上げました。
「コル助!グリムホルンを連れて、こっちへおいで!」
すると木にとまっていたカラスとフクロウが、急いで地上へ降りてきました。
「カア~~~~~ッ!!」
ボン!
シュルルル・・・
「オレ様の名はコルヴァス!」
「カラスの王様だぞ!カァ~~~ッ!!」
「「「うわっ!!カラスが大きくなって、しゃべった!!」」」
ゴツン!!
「いて~~~~っ!!」
「このバカ!なんでいちいち、みんなを驚かすのよ!!」
「だってアネゴ!」
「あっしも目立ちたいでやんす~!」
「あっははは・・・」
「また怒られてやんの!こりないヤツだな~」
ジャックがコルヴァスを見て、大笑いしています。
「はぁ、もう分かったから・・・」
「いい?コル助!」
「オレの言う事を、グリムホルンへ伝えてくれよ」
「がってんで~!」
カレンはそう言うと、拳ほどの大きさの石を拾い、魔女ママに言いました。
「魔女ママ、この石を監獄の中に転移させてみてよ」
「えっ、この石をかい?」
「うん、そしてコル助!グリムホルンに、石の音が聞こえるかどうか聞いてよ!」
「がってんで~!」
「石の落ちる音が聞こえたら、その場所は空間があるって事だろ?」
「もし、岩や土の中なら、音はしないよね!」
「なるほど!そう言う事さね!?」
「ちょっとカレン、あんなに遠くの場所に落ちた石の音が、分かったりするの?」
「しかも、建物の中だよ?」
カーナがビックリして尋ねました。
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「天使のお嬢さん、心配ないさね!」
「グリムホルンは、耳が良くてね」
「暗闇の中で3キロ先にいる獲物の音を、瞬時に聞き分ける能力を持っているのさ」
「えっ、すご~い!」
「じゃぁ、やるよ!」
モルティナは、複雑な印を結ぶと、呪文を唱えました。
「虚空よ、開け!アストラルゲート!」
ヴオ~~~~ン・・・・
するとカレンの持っていた石が瞬時に消えました。
「・・・・・・・」
「コル助どうだった?」
「音は聞こえないって、言っていやす!」
「そう?じゃあ魔女ママ、場所を変えてもう一度お願いね!」
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「魔物を1000匹吹っ飛ばすことを思えば、何度でも出来るさね!」
こうして何度も調査を繰り返し、カレン達は確実に空間を確保できる場所を割り出す事に成功しました。
「よし!じゃあ、行くか!」
カレンが作戦を実行しようとした時、ルナが声を掛けました。
「カレン、わたくしも一緒に行きますわ!」
「えっ、いや、オレ達だけで大丈夫だよ?」
「いえ、相手は悪魔でしょう?」
「わたくしが使う能力は、悪魔の天敵である精霊の加護ですわ!」
「だから問題なく発動できると思うの!」
「へっ、へっ、へ~っ!」
「そうさ!オイラたち精霊の力は最強だぜぃ!」
ジャックが胸を張って自慢しました。
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「そりゃあ、心強いね!」
「カレン嬢、お嬢さんも連れて行ってあげるさね!」
「わかった!どうせルナは一度言い出すと、絶対に後には引かないからな~」
「一緒に行こうぜ!オレの可愛い妹ちゃん!」
「じゃぁ、行くよ!」
「虚空よ、開け!アストラルゲート!」
ヴオ~~~~ン・・・・
カレン達襲撃チームの姿が消え去った後、スージーは早速堀の水を抜くための大穴作りを始めました。
「裂けよ大地!奈落の口を開け!グランドホール!!」
ゴ、ゴ、ゴ、ゴ・・・・・
見る見るうちに、巨大なアリ地獄のような穴が作られて行きました。




