第百四話 バルモスの戦い(四)
薄っすらと夜が明けてきました。
藍色の空がわずかにほどけ、東の薄明がやがて赤みを帯びる頃、一番鶏の鳴く声が寒々とした空に響きました。
「とうとう夜が明けてしまったわ!」
「フレディア達、どうしちゃったのかしら?」
「ねえ!どうすればいいの?」
カーナがオロオロしながら、オリビアに助言を求めましたが、オリビアもどうしていいのか分からず、同じ所を行ったり来たりしています。
「わ、わからへん!」
「どないしょう?!」
「こうなったら強行突破で、監獄に穴を空けて突撃しますか?」
スージーが過激な意見を出しましたが、ルナがその意見に待ったをかけました。
「少し考えにくいのだけれど・・・」
「もし、なにか大事な事を見落としていて、作戦がうまく行かなかったのなら、強引なやり方は危険ですわ」
「まさか、あの4人が失敗するなんて・・・」
「でも、可能性は捨てきれないのかぁ~!」
スージーも頭を抱えてしまいました。
「もう少し様子を見るしかありませんね!」
「だって、あの4人ですよ!きっとうまくやるはずですよ!」
シラが焦って行動しても、よくないと説明します。
「そやな!ここで無茶をしても、きっとろくな事にならへんわ!」
オリビアもシラの意見に賛成し、もう少し様子を見る事にしました。
そして太陽が真上に来た頃、カーナが声を上げました。
「もう、これ以上は待てないわ!」
「きっと、何か不測の出来事が起きたのよ!」
「そやな、やるしかないな!」
オリビアも決心したので、他のメンバーもそれに従い、行動を起こそうと立ち上がりました。
その時です、南の空に巨大なドラゴンが姿を現しました。
「あっ!あれはイレーネだよね!?」
スージーが見つけて手を振りました。
「ほんとだ!カレンが手を振っているよ!」
カーナも大喜びで飛び跳ねています。
作戦に行き詰り、焦燥に駆られていたカーナ達にとって、カレンの出現はまさに救いの神のように感じたかもしれません。
カレン達は通常4日かかる日程を、昼夜休まず飛び続け、3日で到着したのでした。
そしてお互いの情報を共有するため、全ての作戦を中断し、緊急の対策会議を開く事になりました。
その会議で皆を驚かせたのは、大魔女モルティナが発言した、バルモスの監獄の秘密でした。
「「「「えっ!バルモスの監獄って、悪魔バルモスが支配するダンジョンなの?!」」」」
「そうさね!」
その一言で、全ての作戦を白紙に戻す必要を迫られたのです。
モルティナは、カーナ達から作戦の詳細を聞き、その結果を推測して結論を導き出しました。
「まず初めに、ポンポンという召喚士は、真っ先にバルモスに支配され、役目を果たす事が出来ないだろうね・・・」
「それは、ポンポンの属性が『闇』だからですか?」
カーナの質問に、モルティナはハッキリと答えます。
「そうだよ!古代の悪魔バルモスは、闇を支配する力を持っているのさ」
「それは悪魔を崇拝する『ネグラディア教団』の、古い文献に記されているさね!」
「まぁ、その召喚士がよほど強い意志を持っているなら、その限りではないがね・・・」
「そうなのですね・・・」
カーナは力なく答えました。
「そして、ゴーレムマスターの、ロックルーラーじゃが・・・」
「あたしは岩の支配者の事は良く知らないけど、ダンジョンの中の岩は、支配しているバルモスのコアの一部と考えるべきだろうね・・・」
「それはつまり、我らロックルーラーでも、操る事は出来ぬと言う事ですかな?」
「そう!支配権はバルモスにあるからね!」
「ぐぬぬ・・・見識が甘かったわい!」
ロックの父親のギリガンが、険しい顔で唸りました。
「次に風の魔法を操る娘さんじゃが・・・」
「バルモスの支配するダンジョンでは、全ての魔法は無効化されるのじゃよ」
「したがってダンジョンの中から、魔法による脱出は不可能じゃな!」
「そんな!?」
「魔法が使えないなんて、そんな事があるのでしょうか?」
炎の使い手のシラが、信じられないと言う顔で尋ねました。
「ダンジョンの中では、バルモスのルールがすべてなのじゃ!」
「あの悪魔が、そう決めているのであれば、それに従わざるをえないのじゃよ」
ここまでの話を聞いたスージーが、悔しそうに言いました。
「つまりこれは、無知な私たちが招いた、当然の結果だと・・・」
「あっ!でも、ちょっと待って!」
「まだフレディアがいるじゃない!」
オリビアも声を上げました。
「そうや、フレディアがおるやん!」
「あの子やったら、きっと何とか出来るはずやわ!」
オリビアが希望を口にした時でした。
それまで黙って聞いていたルナが、とんでもない事を口にしたのです。
「あの、その事で少しお話がありますの・・・」
「あれっ、どうしたのルナ?」
「そんな浮かない顔をして・・・」
いつもと違うルナの様子に、カレンが心配して声をかけました。
ルナは以前、ライトブリーズのメンバーで、アルガのギルドに行った時の話を始めました。
「実はアルガのギルドにあった、属性を測る機械を使った事がありましたの」
「うん、それで?」
「それで、フレディアも測定したのだけど、その結果が少しおかしかったのですわ」
「えっ、おかしいって、なにが?」
「それは・・・」
「フレディアの属性が、光りの属性以外に、闇の属性も検知されましたの」
「「「「ええ~~っ!?」」」」
「そんなアホな!」
「フレディアは天使なんやで?!」
オリビアが驚いてルナに確認しました。
「ええ、わたくしたちも驚いて、きっと機械の誤作動だと思いましたわ」
「それで全員で測定したのですが、問題は見つからなくて・・・」
「そして、もう一度フレディアが測定したのですが・・・」
「結果は変わらなかったの?」
カーナがルナに尋ねました。
「ええ、そうですわ!」
信じがたい話に、カーナはフレディアの事を良く知っているオリビアに尋ねました。
「これはどう言う事?」
「オリビア、なにか知らないの?」
「う~~~ん・・・」
「うちもフレディアとは、付き合いが長いけど・・・」
「よく考えてみたら、うちはフレディアの事を何も知らんかったなぁ~って・・・」
「もし、測定結果が間違っていなければ、おそらくその天使様も、自分の力を発揮できなかった可能性があるさね!」
モルティナの言葉に、その場にいた全員が事態の深刻さを知り、沈痛な面持ちで固まってしまいました。
しかし、その重苦しい時間は、そう長くは続きませんでした。
なぜなら、それらの問題を打破する解決策を、カレンが用意していたからです。
「おい!おい!」
「みんな落ち込んでいる場合じゃないよ!」
「どうしてオレが、急いでここへ飛んできたのか分かってないね!」
「えっ?それはどういう意味なの?」
カーナが泣きそうな顔で、カレンに尋ねました。
「もちろん!この作戦を成功させるために決まってるじゃん!」
「魔女ママの助けで、バルモスを倒す秘策を持って来たんだよ!」
「「「「えぇ~~~っ!!!」」」」
「それは本当なの、カレン?!」
「もちろんだよカーナ!」
「安心してオレと魔女ママに任せてくれ!!」
「じゃあ!作戦続行と行こうぜ!!」
「「「「おぉ~~~っ!!!」」」」
カレンの号令で、全員が一丸となって立ち上がりました。




