第百二話 バルモスの戦い(二)
監獄襲撃の役割は、大きく4つに分担されています。
1.監獄に侵入して囚人を解放するチーム。
2.監獄から脱出するルートを確保するチーム。
3.敵の追撃から囚人を護衛するチーム。
4.囚人を安全な場所まで護送するチーム。
まず監獄に侵入して囚人を解放するチームには、フレディアと、ロック、シルヴィー、ポンポンの4人が選ばれました。
フレディアの役割は、もちろんリーダーとして、この作戦を成功させる事です。
ロックの役割は、ゴーレムを使った防衛と、牢獄の岩を動かして囚人を脱出させる事。
シルヴィーの役割は、風魔法を使って、監獄からの脱出を素早く行う事。
ポンポンの役割は、リーファの魔法で追っ手の動きを止める事です。
次に監獄から脱出するルートを確保するチームには、ルナとスージーが選ばれました。
ルナとスージーの役割は、堀の水を抜いて脱出用の道を作る事です。
スージーが別の場所に作った大穴に、ルナが掘の水を移して空堀にさせます。
そして空になった堀にスージーが土魔法で道を作り、囚人を脱出させるのです。
敵の追撃から囚人を守るチームには、オリビア、カーナ、シラの3名です。
もちろん、この時点ではフレディアたち解放チーム、ルナとスージーも参加するので、敵の追撃など恐れるに足りません。
そして囚人を安全な場所まで護送するチームには、副ギルドマスターのガシュエル、ブランシェ村のラグナート親子と、ギリガンたちロックルーラーの戦士5名です。
「これで、どうかな?」
フレディアの問いに、シラが質問しました。
「潜入チームは、4人だけで大丈夫なの?」
「もう少し人数を増やした方が良くない?」
「大丈夫だよ!」
「荷物に隠れるスペースも、限られているしね!」
「そっか、なら仕方がないわね・・・」
「いししし・・・」
「なんかワクワクするのぉ!」
「いや、遊びじゃないんだからな!」
まるで遠足気分のポンポンを、ロックが咎めました。
「何をビビッておるのじゃ?」
「わしらがしっかり仕事をすれば、囚人の救出など問題なかろう?」
「うっ、それは、そうだけど・・・」
「まさかおぬし、牢獄の岩を動かせないと言うのではなかろうな?」
「バカ!オレはロックルーラーだぞ!」
「なら、安心じゃ!」
(いや、その安心はどこから来るんだよ?)
(敵の巣の中に潜入するんだぞ!)
「はぁ~~っ・・・」
小心者のロックは、浮かない顔でため息をつきました。
ヘーベル歴251年11月30日。
襲撃の当日、バルモスの監獄に向かう荷車が、長い列を作っていました。
ベルナックの町で収穫された食料や物資などが、監獄に納められる唯一の納入日なのです。
フレディア、ロック、シルヴィー、ポンポンは、穀物や果実を満載した2台の荷車に隠れ、バルモスの監獄へ向かいました。
ガラ、ガラ、ガラ・・・・・・
地面の凹凸で小刻みに揺れる荷台に向かって、ガシュエルが声を掛けます。
「シルヴィー殿、もうすぐ監獄の入り口に着きますよ」
「用意はいいですか?」
「はい、わかりました!」
「フレディア様に言われたように、『おくびょう風』の準備をしますね!」
「座標の設定!風の力を地表に刻印!」
「出来ましたよフレディア様!」
「監獄から脱出する時の座標に、いまの地点を登録しました」
「・・・・・・・」
「いししし・・・」
「ワクワクするのぉ、ロック!」
「いや、しねえよ!」
「つて言うか、もうしゃべるなよ!」
「よし!止まれ!」
「荷物の中身はなんだ?!」
監獄の入り口で監守に止められ、荷物の検査が行われました。
「はい、穀物や野菜、果物に果実酒です」
3人の監守が、荷物の中身を調べ始めた時、ガシュエルは足元に置いていた大きな樽を2つ取り出すと、命令を下している監守に手渡しました。
「今日は大変な日ですね!」
「仕事終わりに、これで一杯やって下さいよ!」
「おっ、これは?」
「ビールです!荷物を調べている方にもどうぞ!」
「うむ!貴様はなかなか気が利くな!」
「よし!行っていいぞ!」
「おい!この荷車はもういい!」
「次の荷物を調べろ!」
(へへっ、町の人の情報が役に立ったぜ!)
ガシュエルはほくそ笑むと、荷車を進めました。
しばらく進むと、大きな広場に沢山の囚人が集まり、荷車から降ろした荷物を、監獄の中に運び込んでいました。
「フレディア殿、どうやらここで荷物を引き渡すようです」
「俺は戻りますので、気を付けて下さいね!」
「・・・・・・・」
「では、また後日!」
そう言い残して、ガシュエルは来た道を戻って行きました。
それから5時間ほど経ち、聞こえていた雑音もいつしか消え去り、辺りはしんと静まり返っていました。
(もう、出ても大丈夫かな?)
フレディアは箱の中のリンゴをかき分けて、ひょっこり顔を出しました。
食材が山のように積まれた暗い部屋の中は、気温が低くてヒンヤリとしています。
(あっ、ここは食材の保管庫ね)
周りはぶ厚い岩の壁に囲まれているので、声が外に漏れる心配はなさそうです。
フレディアは樽の中に隠れていたシルヴィーに、3回樽の蓋を叩いて合図を送りました。
ドン、ドン、ドン!
パカッ!
樽から顔を出したシルヴィーは、キョロキョロと周りを見渡します。
「フレディア様、いるのですか?」
(ここに、いるよ!)
フレディアは、シルヴィーの肩をポンポンと叩いて教えました。
「あぁ、良かった!」
「天使の姿になったフレディア様は、姿が見えないから不安になってしまいます」
(キャハハ!ほんと不便だね!)
実はバルモスの監獄の内部に侵入した時に、敵に見つからずに行動できるよう、フレディアは天使の姿になっていたのでした。
しかしオリビアのように自由に変身出来れば良いのですが、フレディアは能力の制約で、天使の姿から人間の姿に変身するのには、24時間のクールタイムが必要になります。
そのため、すぐに人間の姿に戻れるよう、前日から天使の姿となって行動していたのでした。
それなら、わざわざ箱の中に隠れる必要もなかったのですが、念のためにと、慎重派のカーナから言われて、仕方なく潜り込んでいたのです。
「ロック、もう出て来ても大丈夫よ!」
シルヴィーの呼びかけで、ロックとポンポンが、モソモソと荷物の中から這い出してきました。
「ぷはぁ~!息が詰まりそうじゃ~」
「ありゃ?フレディアがおらんぞ!」
「いまごろ何を言ってんだ?」
「フレディアは昨日から天使の姿に変身していただろ?」
ロックは呆れた顔で、ポンポンに言いました。
「あっ、そうじゃった!」
「じゃぁ、私たちはフレディア様が帰って来るまで、ここで待機しているわね!」
シルヴィーが、姿の見えないフレディアに言いました。
すると倉庫の扉が勝手に開き、そして、またすぐに閉じていきます。
ギイ~~~ッ・・・ガチャン!
「なんじゃ、まるで幽霊でもおるようじゃの?」
「おい、フレディアを幽霊扱いにするな!」
こうして3人は、フレディアが戻るまで、ここで隠れて過ごす事になりました。




