ep.121 過信固持
宿の中を通り、上り坂となっている通路をひたすら進みトンネルの外へと出てみれば、既に空には星々が輝いていた。日の当たらない生活を続けていたせいか、時間の感覚が狂っていたらしい。
月明かりを頼りに周囲を見渡してみると、あるのは一面に広がる岩の壁だった。どうやら、ここはエジック山脈でも標高の低い窪地のようだ。クレーターのような形状に近い。地形的に風が届くのは期待でき無さそうだ。
通路から離れた位置へと進むと、黎架を鞘から引き抜いた。中段に構えると、身体がブレないように素振りを開始する。
元の時代に戻って来て以来、素振りが日課となっていた。精霊時代には竜は存在しない。ナユタが例外だったのだ。未来の世界では月読の力で切り抜けて部分が大きく。竜のいないこの世界では、カミルは一介の学生でしかない。圧縮魔力という技術を以ってしても、元素の適正が高い者と戦えば撃ち負けてしまう。だからこそ基礎を突き詰め、身体に覚えさせ、淀みの無い剣術を身に着けようとしていた。
元素に頼らない力を磨かなければ、戦場で生き残るのは困難だ。才がないのなら、努力でその差を埋めるしかない……。
夜空に素振りの音だけが響いていた。
素振りを終えると、次は黎架を元素と同化させる練習をし始めた。リタミア村を旅立ってからすでに手元から消すことに成功はしているが、元素からの出し入れにまだ時間が掛かってしまうのだ。反復練習をして速度を上げなければ、いざという時に瞬時に黎架を引き抜くことができなくなってしまう。
黎架が元素と同化していくプロセスを想起すると、黎架が手元から黒い粒子となり消えていく。どうしても黒い粒子を見てしまうと、未来の世界での鬼の存在を思い出してしまう。
根源を成すのは同じってことだよな……。と、いけない。意識を逸らしちゃ駄目だ。黎架と黒の元素に集中しろ―――。
練習で集中できなければ、集中力を欠く出来事が頻発する戦場で集中しきることなんてできない。精神をもっと鍛えなければ良い的だろう。
何度か形成と同化を繰り返していると、ふと、背後に近づいて来る気配を感じ振り返った。そこに居たのはこの宿の主、カドゥス・テュオンだった。20代とも、30代とも取れる風貌に、目つきも口も悪いと来たら忘れることはできないだろう。片手をポケットの中に突っ込んでいる姿また、そんな印象を強くする。
「面白れえことやってんじゃねーか。天技持ちだったのか?」
「そんなんじゃないさ。俺は元素への適正が低いんだ。だから、理の外の力を求めた。その結果がこれさ」
虚空から黎架を形成し、刀の形を取り戻した黎架を今度は黒の元素へと同化させていく。
ぴゅ~ぅ。カドゥスの口笛が響き、テンポの遅い拍手を数回した。
「騎士団の中にはそんな手品みたいなことできるやつなんていねーよ。今の学生の間じゃそれが普通なんかね?」
「んなわけないっての。周りは魔法をバンバン使うし、俺が周りからずれてるだけさ。で?何の用だ?物陰からコソコソと覗いていたのはわかってたさ」
素振りを始めてすぐのこと、通路の影からこちらを覗き込んでいた。意図が分からず放置していたが、接触してくるとは思っていなかった。
「勘づかれていたか。将来有望だな」
道化るカドゥスに面倒くささを感じていた。
「露骨な世辞はいらん」
「おぉ、怖ッ。つってもな、別にお前に用があるわけじゃねーのよ」
カドゥスが視線を夜空へと向ける。
その仕草に釣られ、カミルもまた空を見上げる。
その時だった。
星の光を遮る黒い影の群れが空を覆った。光は遮られ視界不良を引き起こす。
黒い影に赤き光が無数に灯る。
カミルは理解した。空を覆うのが魔族の群れだということに。カドゥスが現れたのは、この魔族に対応する為だということに。
滑空して来るってこたぁ、オーグスが魔族化した群れで間違いない。
オーグス。ムササビのような姿をした魔物である。皮膜を利用し滑空する姿は愛らしく映る時もあるが、見た目に反して獰猛な肉食型の魔物なのだ。不用意に近寄れば、手足を簡単に失うこととなる。
カドゥスは両手に白い宝石が施されたグローブを装着し、魔力を流すと浄化の光が包み込んでいく。
呆けるカミルに向かい、
「相手は魔族だ。お前は宿に戻ってろ」
「だが、あの数だぞ!?一人でどうにかできるわけがないだろ!!」
確かに、少なくとも20体はくだらない。だが―――。
「魔法もまともに使えんやつが出る幕じゃねーんだよ。喰われちまうのがオチだ。さっさと行けッ!!中から扉を閉めてろ!!」
カミルは逡巡するも「ご武運を」指示に従い通路へと駆け出した。
胸の前で拳をぶつけ合うと、空を睨む。
「うちは土足厳禁なんだ。靴も履かねぇ獣風情がこっちに来るんじゃねぇッ!!」
振りかぶった拳を、下から上空に向けて突き出した。残光が拳の軌跡を追う。動きの止まった拳を追い抜き、光の衝撃波が空へと放たれた。
ドゴッ!!
滑空するオーグスの1体の腹部を貫き、浄化の光に当てられ霧散して消えていく。
「耐久性は高くねーか。なら―――」
ボクシングのジャブのように素早く小刻みに拳を連打し、その一打一打から小さな光の衝撃波が空を翔けた。
飛んで行く光を器用に躱し、地上へと迫って来る。躱し切れずに手足に直撃する個体もいるが、それは微々たるもの。多くのオーグスは無傷で地上に降り立った。
ドゴンッ!!ドゴンッ!!身体の一部を欠損したオーグスが地面へと刺さり、ピクピクと痙攣させていた。
空を滑る姿は大きく見えるが、実際に地上で対峙すると身体は驚くほど小さい。全長20~25cmほどだ。手足が長く、その間に広がる皮膜が身体を大きく見せる役割も果たしている。
オーグスの赤き瞳がカドゥスを捉えた。1体が動き出すと、それを合図に群れが一気に襲い掛かった。
カドゥスは笑みを浮かべた。
その直後、身体が光によって包まれた。
上級光属性魔法ルストローアの浄化の光が、カドゥスを守る障壁となり展開したのだ。
飛び掛かるオーグスはもはや逃れることができず、真正面から浄化の光に突っ込み霧散して消えていく。その中で、仲間の背を蹴り上げ難を逃れる個体が瘴気を纏った黒き風を呼ぶ。
「ちぃッ!?」
カドゥスは大きく飛び退くと、破滅を呼ぶ風が地面を抉った。
あと半分か。もっと飛び掛かって来てくれれば楽だったんだがな。
オーグスたちがカドゥスを取り囲むように周囲を駆け巡り始めた。
さすがに迂闊に近寄って来ねぇか。なら一層のこと、浄化の光を放出するか?
カドゥスが答えを出す前に、オーグス達が動きを見せた。壁に一斉に走り始めたのだ。
逃げ帰るのか……?
壁を10mほど登ると一斉に壁を蹴り上げ宙へと舞い上がった。そして―――。
「そういうことかッ!?」
オーグスたちの狙いに勘付いた時には既に上空から黒き風が放たれていた。さきほどの比ではない。おそらくはすべての個体が全力で放った破滅を呼ぶ風。上空から蓋をする様に放たれた風は地面へとぶつかり拡散してしまう。文字通り、逃げ場のない袋の鼠であった。
「ちょっと、あんたそこどきなさいよ」
嫌な声が耳に届き、カミルは振り返った。そこに居たのは、案の定駆け出し冒険者パーティーの我儘姫だった。眉間に皺を寄せ、見るからに不機嫌そうである。その奥にはパーティーメンバーである三人も控えていた。この女に引っ掻き回されてここまで一緒に来たであろうことが、彼らの表情から察することができる。
「今は無理だ。カドゥスが魔族の群れの相手をしている。下手に飛び込めば命が飛ぶぞ」
脅かし足を止めさせるのが狙いだったが、裏目に出た。
我儘姫はニタァッと厭らしい笑みを浮かべると、カミルの身体をど突いた。
押されはするものの、細身の女性の腕でバランスを崩すほど、カミルの身体は細くはない。身体が僅かに後ろに流れたものの、その場を退くことは無かった。
「ちょうどいいじゃない。ここで恩を着せておけば、私達の言うことも聞いてくれるでしょう?どう?貴方も行きたいなら同行を許すわよ?」
どこまでも自分本位な女だ。
「おい!!いい加減にしろよ!!相手は魔族の群れだぞ?実力不足の俺達が行っても邪魔にしかならねぇって!!」
あまりの振る舞いに耐えかねた剣士の男が怒りをぶつけ始めた。
「あんた達はいつもいつも、いつもいつもいつもいつも、そうやって私の邪魔ばかりして!!わかったわ。私はここでパーティーを抜けさせてもらうわ。金輪際、私に関わらないでくれるかしら?」
ドスの利いた声に剣士は一瞬たじろぐも「勝手にしろ!!」引き止めることなく我儘姫を言葉で突き放した。そのまま宿へと引き返していく。
「ちょ、ちょっと~。今は熱くなってるだけだって。後でもう1回話し合おう?」
気弱そうな魔導師の男が剣士の後を追いかけていく。
その姿を眺めていた我儘姫は「ほんとっ、使えない男だわ」蔑む視線を二人の背中へと送っていた。
「これまで一緒に冒険して来た仲間にする仕打ちかよ……」
リーダーらしき斧使いの男は悔しそうに我儘姫を睨みつけた。
「私に必要なのは、将来有望な男だけよ。魔族の群れくらい、簡単に倒してもらわないと困るわけ」
言いたいだけ言葉の暴力で殴ると、我儘姫の視線がカミルへと移る。
「どけよ、弱男。通れねーだろうが」
カミルは圧に負け、扉の前から1歩横へとずれてしまった。
世の中にはこんな女も存在するんだな……。女に夢を見るなとはよく言ったものだ。ここまで酷い女ばかりじゃないとは思いたい。少なくともリアはそうじゃない。
心の底から、リアと出会えたことに感謝するのだった。
バダンッ!!
勢いよく開けられた扉は壁に激突し、跳ね返った勢いで半分ほど扉が戻って来る。
「あのカドゥスって男も踏み台にして、もっと上級な男を手玉に取ってやるわ」
我儘姫は、魔族のいる窪地へと駆けて行く。自慢の弓に矢を番え、駆けまわるオーグスに狙いをつける。
その瞬間、オーグスは壁を登り始めた。
何かを仕掛けてくるつもりだ!?助けたくはねぇが、目の前で死なれるのも目覚めが悪いッ!!
そう思ったら「駿動走駆」で駆けていた。
カドゥスが何かに気付いたように目を見開くと「硬殻防壁」防御を固め始めた。
次の瞬間、破滅を齎す禍の風が窪地の底へと吹き抜けた。
「え?」
我儘姫は上空に弓を構えたまま、ただ呆然と迫り来る黒き風を眺め動きを止めてしまった。
「莫迦やろぉぉぉぉぉおッ!?」
カミルは必死に手を伸ばす。無防備な彼女の腹部に腕を回し、カドゥスの下へ駆けて行く。
「手を!!」
カミルが戻ってきたことにカドゥスは困惑するも、大人しく手を伸ばす。
指先だけでカドゥスの指を掴むと、空から殺意の風が落ちて来た。
左耳のイヤリングが輝き、カミルに光の衣が纏わりついていくのと同時に、大気が騒めいた。
バキバキバキバキバキッ!!!!
風が地を叩き、岩の地面を叩き割っていく。真下に吹いた風は、行き場を失い横へと流れ、クレーターを形成していた。壁の表面すらも削り取って行った。立ち込める土埃が月の光を遮り、カミルの光の衣が放つ太陽の輝きさえも光が拡散し、周囲を照らし出すことができない。
それでも三人は無傷だった。日ノ神の力が元素を受け流したのだ。
バチンッ!!!!
不意に訪れた頬の痛みが、叩かれたことを教えてくれる。
「ちょっとッ!?どさくさに紛れてどこ触ってんのよッ!?」
怒り心頭に発した我儘姫は、鬼のような形相だった。助ける為に腹部に腕を回して掴んだはずが、ずり落ち2つの膨らみの片方がしっかりと手の中に納まっていた。
「今は駄目だ!?魔族が放った風が収まってないんだぞ!!死にてぇのか!?」
三人が無傷でいられたのは、カミルが纏う鳳凰型の光の衣のお陰だ。今カミルから離れるということは、岩をも抉り取る黒き風をその身に受けることを意味している。その事実を、彼女は知らなかった。
「そんなに女の胸が恋しいのかッ!?汚らわしい……」
ペチンッ
罵倒の声と共に、彼女の腕がカミルの腕を振り払った。
その瞬間、我儘姫の身体が上から下へと裂けていく。
「痛いッ!?何これ……ッ!?痛いッ!?痛いッ!?痛いぃぃぃぃぁぁぁぁぁああッ!?!?」
張りのある肌も、スタイルの良い肉体も、破滅の風がその形を磨り潰していく。裂けた箇所から血が飛び出し、風に乗って肉片と共に血潮が吹き荒れた。その光景は、地獄絵図であった。
凄惨な彼女の姿に、頭の中が真っ白になりかけた。かぶりを振り、何とか思考が止まるのを避けた。カミルはまだ自分がやれることがあることを知っている。だから、左目に意識を集中し始めた。
世界が歪み、白くぼやけていく―――。
「ちょ、ちょっと~。今は熱くなってるだけだって。後でもう1回話し合おう?」
世界が彩を取り戻し、視界に入って来たのは、駆け出し冒険者パーティーが言い争いをしているところだった。
なんだ……?時間が戻り過ぎているような……?
気弱そうな魔導師の男が剣士の後を追いかけていく。
「ほんとっ、使えない男だわ」
蔑む視線を送る我儘姫を見て確信する。
巻き戻せる時間が伸びているのか……。
「これまで一緒に冒険して来た仲間にする仕打ちかよ……」
リーダーらしき斧使いの男は悔しそうに我儘姫を睨みつけた。
「私に必要なのは、将来有望な男だけよ。魔族の群れくらい、簡単に倒してもらわないと困るわけ」
一度聞いた会話を聞き流し、
「おいッ!!その阿婆擦れ女何とかしてろ!!」
扉を開き、通路を初級土属性魔法グランで塞ぎ駆け出した。
「誰が阿婆擦れよッ!?謝罪なさいッ!!!!」
背後から叫び声が聞こえるが、今は構っている暇はない。
「駿動走駆」
脚に風を纏い、イヤリングから日ノ神の力を引き出し光の衣を纏う。
「硬殻防壁」
カドゥスが防御を固めると、カミルは透かさずカドゥスの肩に手を置いた。
「なんだ!?」
カドゥスが振り返るも「あの風を凌ぐ。大人しくしとけ」問答無用で肩を押さえつけた。
その直後、破滅の風が大地を叩いた。
地面を、壁を削り、土煙で辺りが満たされていく。
「無傷、だと……」
風が吹き荒れる中、その身に風を受けることの無い現状に、カドゥスは心底驚いていた。
「僥絶、なのか……?いや、違う。あれは魔法そのものを消し去るはず……。ならこれは何だ……?」
僥絶を知っている……?
「あんた、ハーバー先生と知り合いなのか……?」
「ハーバー先生ねぇ。失踪した男をそう呼ぶか」
「失踪!?」
あの時、確かハーバー先生は牢に囚われていた。脱獄したってことなのか……?
黒き風が止み、カドゥスが風を巻き起こし土煙を上空へと吹き飛ばす。
オーグスたちは、壁に掴まりこちらの様子を窺っている。
「このまま上空を制圧され続けるのも気分は良かねぇよな。戻ってきたんだから、手伝っていけ。残りは10体くらいだ。ひとり頭5体だ。やれるだろう?」
「そのつもりだよ」
カドゥスとハーバー先生の繋がりは気になるが、今は目の前にいる魔族の対処が優先だ。
消耗の激しい光の衣を解き、壁にへばり付くオーグスを見つめた。
「一気に決めんぞ。着いてこい。駿動走駆、纏」
風を脚に、纏を両腕両足に施し、魔導具に魔力を流し込んでいく。白い宝石が輝きを増し、拳が纏う浄化の光が煌々と輝き出した。
壁に向かって駆け出し跳び上がった。それと同時に土が盛り上がり、壁に小さな螺旋状の足場が形成されていった。
足場が無ければ作ればいい。単純なことだな。
カミルはカドゥスの後を追わず、黎架に圧縮魔力を流し込んでいく。
俺は地上まで降りてくるオーグスと、カドゥスが打ち損じたオーグスを狙えばいい。余所者が出しゃばりすぎるのも良くはない。
壁を駆け上がるカドゥスに向かって、オーグスたちは黒き風を巻き起こす。
「馬鹿の一つ覚えだなッ!!」
壁から岩の柱が伸びていき、その上を駆け抜けていく。風と接触するまえに宙へと飛ぶ。足の下を黒き風が吹き抜け、生み出した岩の柱を叩き割っていく。
滑空するオーグスの背に飛び乗り、浄化の光を宿す拳を叩きつけた。オーグスの身体がしなり、触れた部分から霧散していく。
「まずは1体」
完全に消滅しきる前に消えゆくオーグスを踏み台代わりに次のオーグスに向けて飛び移る。
宙で戦うカドゥスを見上げ、カミルは左手で拳銃を模り1体のオーグスへと狙いを定めた。
立地さえ良ければ、カドゥスが苦戦することはなさそうか。
1体、また1体と次々に屠り続けていた。
オーグスたちはカドゥスに引き付けられ、カミルの方へ向かって来る気配がなかった。
右目の力を試す良い機会かもしれない。
視界内に収まる近い未来を視ることができる力。未だ実戦で意識的にまともに使えたことがない。魔物と対峙すれば、一瞬の判断が生死を分ける。使い慣れていない右目に意識を集中しきることができずにいた。
だが、今は違う。カドゥスにオーグスは引き付けられ、こちらを襲いに来る素振りはない。
右目に魔力を流し、意識を集中していく。
右目に映る景色がブレ始め、左目の映像とは違った景色が映し出された。
時間にして数秒先ほど。動き回るオーグスたちの未来の行動を読み取った。
― 我願うは万物を灰燼と化す炎
進撃を以って 我が意志を指示さん 突き進め フルメシア ―
指先に圧縮された炎が灯り、小さな炎弾と化していく。
狙うはカドゥスが次に跳び上がった直後。
カドゥスの拳がオーグスを貫き、踏み台にして更に跳び上がった。
今ッ!!
指先から炎弾が放たれた。弾速は左手が模した拳銃とほぼ同速。瞬く間にオーグスの腹部を撃ち抜き、更に奥にいる2体のオーグスの腹部も撃ち抜いた。カミルが視た未来は、オーグスが縦一列に並ぶ様だった。その瞬間に、弾速のある圧縮型のフルメシアを放ったのだ。
炎弾は夜空へと飛んで行き、霧散して消えていく。
撃ち抜かれたオーグスの身体に炎が広がる。毛を焼き皮を焼いていく。貫通部からは肉を、内臓を焼かれ、力無く広げた皮膜が形を崩して地面へと落ちて来る。
3体同時撃破を果たしたカミルに、カドゥスの口角が上がる。
「はっ!!一撃で3体かよ。俺も負けてられねぇなッ!!」
右拳に集う浄化の光が一筋の光の刃と化していく。1m、2mに達するも伸び続け、5mもの光の刃となり振るわれる。
横薙ぎ一閃。
太く長い一条の光が残った3体のオーグスの身体を焼いていく。身体が少しずつ溶け、黒の粒子と成りて霧散して行った。
「へっ、これで仕舞いよ」
カドゥスが華麗に着地を決めると、ドォンッ!!ガラガラガラ。岩の砕ける音が響き煩い声が聞こえ始めた。
「あぁ、もうっ!!恩を着せる好機なのに、あの銀髪やろぉ……」
扉の前に仕掛けた岩の柱を砕くのに時間が掛かったらしく、我儘姫は酷くご立腹だ。
どかどかと外へ出て来ると、戦闘が既に終わっていることに気付き、カミルを睨みつけた。
「あんたのせいで間に合わなかったじゃない!!」
「邪魔されちゃ困るんでね」
「あぁ!?この私が役立たずって言いたいわけ?」
凄む我儘姫にカミルが怯むことはない。
「なんだ、自覚があるんじゃないか。身の程を弁えとけよ」
「なんですってぇ!?」
口をわなわなとさせる我儘姫を無視し、カドゥスへと視線を送る。
「ほかに魔物の気配は?」
「ねぇな。一先ず宿に戻れ。そんでさっさと寝ろ。どうせ日を2時間浴びなきゃいけないんだ。今外に出る理由がねぇ」
カドゥスに背を押され、宿へと押し込まれた。我儘姫がわぁわぁ声を荒げているが、問答無用で部屋まで連行するカドゥスが、今だけは心強かった。
自意識過剰な人間ほど面倒くさいものはない。関わらないと決めたはずなのに、アレの行動のせいで関わる羽目になってしまった。
「ままならんな……」
気を落としながら、微睡の中へと意識を溶かしていった。




