ep.116 火の鳥
空から火の玉が落ちて来る。一見すればガウディアが放った火属性魔法にも見えるが、纏う炎がふと消える。中から現れたのは人型を模した灰の塊。否、落下により空気が灰を剥ぎ取っていけば、中から現れたのは一人の男だった。出会って間もない。だけど、命を救われた彼の者はケケイルである。
「おいおいおいおいおいッ!?勝手に空に昇って行った挙句、意識を狩られて自由落下かよぉ!?」
カミルは咄嗟に宝石の魔法陣を介して無詠唱で中級水属性魔法アプラースを、ケケイルが落下してくる真下に縦長に展開した。
バシャンッ!!水の中にダイブしたケケイルの身体は深く沈み込んでいく。落下のエネルギーが大きすぎて、カミルの元素への適正では包み込むのは困難であった。
不味いッまずいッマズイッ!?このままじゃ地面に激突して死んじまうッ!!
数週間前、カミルは一度上空からの落下で命を落としたことがあった。とはいえ、左目の心技、時を巻き戻す力を以って生還を果たしているが。それでも落下による恐怖、地面へと激突した衝撃は今でも鮮明に記憶に刻まれている。だからこそ、そんな痛みを味わわせるわけにはいかない。
バシャッ!!ケケイルの身体が水の層を突き抜けてしまう。
「オイ!!起きやがれッ!!格好つけて飛び出したくせにやられてんじゃねぇッ!!!!」
最早カミルの元素適正では魔法が発動するよりも早くケケイルは地面に激突してしまう。苦し紛れの叫びだった。
「勝手に……、殺してんじゃねぇッ!!」
ケケイルの真下に岩の足場が出現し、地面に向かって伸びていく。足場に着地を決めると、伸びた足場が、ゴゴゴゴゴッ!!地面に激突し始めた。岩の強度は高くはない。あえて密度を低くすることで衝撃の吸収を促し、落下の速度を緩めようという魂胆だった。
足場はどんどん削れていき、地面に到達する直前、ケケイルは飛び降りた。転がるように地面を跳ね、身体に無数の打撲を刻みながらも空からの生還を果たした。
「おい!!」
カミルはすぐに駆け寄り、一旦、藪の中までケケイルを引きずり身を隠した。
また老けやがったか……。
それは、一度死を迎えたことを意味している。出会った頃は20代半ばであったが、短時間で30代半ばにまで年老いてしまった。
「あぁ、くそッ……。もう1体は狩りたかったんだけどなぁ……」
ケケイルは愚痴りながらもポシェットの中から回復薬を取り出し一気に煽った。目に見えての回復は無かった。即効タイプの回復薬ではないようだ。
「今度はあんたが休んでな。あの2体は俺がやる」
「はんっ、病み上がりが何言ってやがる。回復するまで繋いでおけ。すぐに戦線に復帰してやる」
「減らず口は収まらんか。なんで俺の周りは口達者なやつが多いだろうな」
「それはお前が頼りないからじゃねぇのか?」
「そうかよ」
ケケイルを残し、カミルは藪の中を移動する。
ガサガサガサと響く音で場所が割れるだろうが、そんなのは関係ない。ガウディアが動く前にこちらが先に仕掛ける!!
「駿動走駆」
藪の中をあえて音を出しながら素早く移動し始める。カミルが注意を引くことで、ケケイルの身の安全を確保するつもりであった。案の定、羽ばたく音が後をつけてくる。
黎架と鞘に圧縮魔力を込め、左手に握る鞘を投擲の構えで踏み込んだ。
「纏」
左腕の筋力を魔力で覆い、やり投げの要領で空へと投げ飛ばした。
ビュンッ。空を裂く音が響き、的のいない宙を突く。
突如とし現れた砲金色の鞘にガウディアは反応するも、食いつくことはなかった。ケケイルがすでに行った手だ。槍が飛んでくる可能性を学習していた。
知能はある。だが―――。
理外の力、念動力でガウディアに向かって鞘を振り下ろした。
「衝波斬」
藪の中で響く声に呼応し、鞘から魔力の斬撃が飛び出して行く。
ガウディアの翼の根元を断ち斬り、斬撃は霧散して消えていった。皮一枚で繋がった状態に陥った翼では羽ばたけず、体勢を崩して、ドォンッ!!地に墜ちた。
あと1体飛べなくできりゃあ、俺達の勝ちだ。
落下する鞘を引き戻すと「衝波斬!!」黎架を振り切り魔力の斬撃をガウディアへと放つ。
ガウディアは翼をはためかせ、軽やかに横へとスライドして躱すと迷いなくカミルに向かって急降下を始めた。魔力の斬撃が飛び出した位置から居場所を特定されたらしい。
カミルは微笑んだ。
釣れたな。
ガウディアの背後、後方へ飛んで行った魔力の斬撃が起動を変える。ブーメランのように弧を描き、ガウディアの背後へ追従する。
カミルはこれまでの戦闘経験から、念動力の扱い方を研究していた。圧縮魔力を込めた物体を操ることができるなら、魔力そのものの衝波斬すらも操れるはずだと。先のガウディアの翼を断った鞘からの遠隔での衝波斬も応用技の一種である。元素への適正が高くないカミルにとって、念動力との出会いは僥倖だった。
自分の意のままに操れる力が、これほどの高揚感を与えてくれるものだったなんてな。
「これで終わりだ」
黎架を構えたその瞬間――ガウディアの姿が消え去った。地面に落ちたわけでも、上空へと急上昇したわけでもない。真横から飛び出して来た影によって喰われたのだ。それはまるでフリスピーを投げられ、ダイビングキャッチをするが如くガウディアを一呑みして視界から消えていく。
それは蛇腹のように波打った細長く蠢くミミズの姿だった。
なんだ!?あの莫迦でけぇミミズは!?
ガウディアを丸呑みできるほどの口を持ち、上空へ跳ね上がる力を持つ魔物だ。ただのミミズなわけがなかった。全長までは確認できなかったが、少なくとも7~8mほどはあるだろう。
「厄日だな」
不意に声が掛けられ振り向けば、傷がある程度癒えたケケイルがいつの間にかに近づいていた。
「もう回復して来たのかよ。案外タフだな」
「丈夫さと死に損なうのが取り柄なんだよ。にしても、ラウドまで出てくるなんてなぁ」
「あのミミズも厄介なのか?」
「見ただろ?あの巨躯が跳ねるんだ。押し潰されでもしたらそれで仕舞いよ。ガウディアなんかよりも戦いたくねぇ相手さ。こっちに気づかれる前に移動すっぞ」
身を屈めながら先導するケケイルの後を追う。
藪の終わりまで進み、足を止めた。
「こっからは身を隠す障害物が無ぇ。ラウドが移動を始めるまで、ここで息を殺して待機だ」
カミルは静かに頷いた。
それから30分ほど身を屈め待機するも、状況に変化は起きなかった。ラウドほどの巨躯であれば、動けば音も地を伝う振動もあるはずだが、聞こえるのは鳥の囀りと風に靡く緑のざわめきのみ。
どうすべきか判断に困りケケイルの表情を窺うも、彼もまたどうすべきか決めかねている様子だった。痺れを切らし小声で問いかける。
「おい、どうする?ラウドに動きがない以上、移動しても問題ないんじゃないか?」
ケケイルは静かに首を振る。
「馬鹿を言うな。俺達の動きに気づかれたら、ラウドが村に近づいちまう。それだけは防がねぇと……」
「でもよ、俺達もずっとこのまま此処に居るわけにもいかねえだろ。日が暮れる前に山を下らないともっと危険だろう」
押し黙るケケイルに、カミルはかぶりを振る。動くつもりはないらしい。
仕方ねえ、発現した右目の心技のテストでもするっきゃねえかな。左目の心技と要領は一緒か?
右目に意識を集中しようとした時、頭上の藪が吹き飛んだ。僅かに遅れて衝撃波がカミル達を揺さぶり身体が傾いた。
「ぐぉッ!?」
何かが横切った。でも、一体なにが……?
すぐに思い至ったのはラウドだ。何らかの手段でこちらの位置を掴んで跳んできた、そう考えるのが自然だろう。藪が消え去ったのも、ラウドが俺達を喰う為に大口を開けていたのなら納得ができる。
覆い隠すものが無くなった頭上に視線を送れば、空の彼方に大きな翼を広げた翠色の鳥の姿があった。
また大型の魔物の登場かよッ!?この山はどうなってやがる……。
「おい、逃げるぞ!!化け物みたいな魔物共なんて相手にしてられねえ……」
ケケイルに視線を落とすと、彼は笑っていた。
「おい……?恐怖で頭でもイカれたか?」
「はっ、そんなんじゃねぇよ。願ってもねぇ好機だ。あれはララヅク。ラウドとは犬猿の仲の魔物さ。ラウドが地上の魔物の王だとするなら、ララヅクは空の魔物の王ってわけよ。まだラウドがこの辺に居るのなら確実に喧嘩が始まる。それに乗じて駆け抜けるぞ」
ツィッ、ジジジッ
独特な鳴き声を上げ、ララヅクが翼を大きく動かした。風が生じ、風の中に先端が尖った岩の欠片が形成されていく。
「ラウドは確実にこの辺りにいやがるな」
ララヅクが生み出した岩を見たケケイルは、ラウドの存在に確信を持った。
次の瞬間――突風が吹き荒れ岩の欠片が大地に向けて放たれた。それから数秒も経たずにドォォオンッ!!ドォォオンッ!!大地を揺るがす振動が伝わってきた。
それと同時に上空に向け跳び上がるラウドの姿を捉えた。
「行くぞッ!!駿動走駆」
ケケイルが先陣を切って藪から飛び出し駆けて行く。
ラウドの姿を目で追っていたカミルは僅かに出遅れ「駿動走駆」慌ててケケイルの後を追い始めた。
緑の無くなった土色の緩やかな坂道を駆け抜けていく。背後からはドォォォンッ!!ツィッ!!ツィッ!!まるで花火でも上がってるのかと思うような重く響く音とララヅクの鳴き声が断続的に響いて来る。
怪獣映画かよ。
大型の怪獣に逃げ惑う人々のエキストラにでもなった気分になりながら下っていくと、草原地帯へと突入する。
「この先は傾斜がきつくなる。無駄に走るこたぁねぇ。草の上を滑りおり―――」
ドゴォォォオンッ!!
「ぐぁッ!?」「ぬぉぉッ!?」
真横に何かが降ってきた。土煙が舞う中、否が応でも浮かぶのは、ラウドの巨躯かララヅクの鋭利な岩の欠片。いずれかが降ってきた可能性が高い。それが意味するのは、2体から遠ざかるどころか近づいてきているという事実だった。
体勢を崩さなかったことが幸いだった。視界不良の中「走れッ!!」ケケイルの怒号が飛ぶ。
「わかってるッ!!」
視界不良でもただ真っすぐ前方に走ればいい。多少方角がズレようと、確実にリタミア村へと近づくことができる。
止まれない、止まったら戦いに巻き込まれる……。
自然と駆ける脚に力が籠る。ララヅクに近づかれる前に少しでも遠くまで、そんな思いで脚を動かす。
暫く走り続けていると、ブワッと突風が駆け抜けた。土煙を押しやり、カミル達の姿が明らかになる。それと、そこには倒れ込むラウドの姿までもがあったのだ。激突の結果、ラウドが弾き飛ばされたのだと悟る。
ジジジッ、ジジジッ
甲高い鳴き声を上げ、風と共にララヅクが迫る。羽音と響かせ、ラウドを無視してカミル達へを目指していた。
自分の巻き込まれ体質を呪った。これまで、リアに、ニステルに助けられ命を長らえてきた。力を合わせて鬼や竜ですら退けてきた。独りになった途端この様だ。出会ったばかりのケケイルの寿命を削り、今尚生命の危機に直面している。
本当に俺は成長してないな……。
チラリと後方を確認した。だが、それがいけなかった。
振り返りララヅクの姿を瞳に収めると、目が合ってしまった。
ツィッ!!一鳴きしたララヅクが、カミルに向かって岩の欠片を風に乗せて射出した。
迫る吹き荒れる風と岩の欠片に、直感的に死を連想してしまう。
「でぇぇぇええりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!!!!!!」
襟が引っ張られ、身体が宙に浮く。突如として感じる浮遊感に、カミルはただ投げ飛ばされた。
入れ替わるようにケケイルがララヅクと対峙する。
「先に行ってなッ!!」
ケケイルの言葉を聞きながら、傾斜がきつくなる草原地帯の坂道を転がり落ちていく。
どうやら占いってのは当たるらしい。
というのも、山に入る前に弟分の妹、レメイルに占星術を用いて占ってもらったのだ。リタミア村では物事を行う際、占星術で吉凶を占うのが常である。今回のようにただ山へ入るだけなら、多くの場合は行われない。だが、次代を担う占星術師であるレメイルは今年で13歳となったばかりで、占っても読み取れる情報量が多くはない。回数を重ねるごとに読み取る力が増す為、普段の何気ない行動さえ占っていた。ケケイルが山に入るのもまた、レメイルの占いの対象であった。その時言い渡されたのが、
『山で出会い有り。導きはあるものの、暗雲立ち込める』
というものであった。ケケイルは占星術を信じてはいなかった。ただの気休め、その程度の認識で今まで過ごしてきたのだ。それがどうしたことか、ここに来て次々に言い当てられてしまっている。
カミルとの出会い。ガウディアの群れとの遭遇からラウド、ララヅクとの喧嘩に巻き込まれた。導きも――確かにあったのだ。だからこうして命を賭して守るのだ。
迫る岩の欠片を、足下から天へと突き出させた岩の柱で上空へと避けきると、岩の足場を形成し空を駆け巡る。
徐々に高度は落としていく。ガウディア戦での消耗を考えれば、魔力の消費が激しい戦い方は避けねばならない。地に足を着けた戦い方をしなければならない。
そもそも戦う必要があるのか?目の前にはラウドがいる。意識をそっちに逸らしちまえばいいだけだ。
風吹き有られる大地に降り立つと、ララヅクは好機とばかりにケケイルへと肉薄した。
デケぇな……、おい。こいつは村に帰ったら自慢できそうだ。
10mに迫る身体を誇るララヅクからしたら、ケケイル達人間なんてちっぽけな存在でしかない。ただの小腹を満たす餌。
今までこの距離まで迫ったものなどいない。正確には、この距離まで迫って生き延びた者はいない。ララヅクからしてみれば確殺の間合い。それは、ケケイルにも当てはまる――はずだった。
ラウンドシールドに魔力を込める。盾は魔力でボワッと淡い光を放ち始めた。
「盾環転過ぁぁぁッ!!」
突き出して来るララヅクの鋭い爪に対して、盾を叩きつける。ガゴォォオンッ!!鈍い音を立てながら、ケケイルは盾ごと後方へと蹴り飛ばされていく。
その瞬間、ララヅクはケケイルの姿を瞬間的に見失った。
盾環転過。魔力を相手に叩きつけることで、一時的に認識をずらす武技である。目の前に居ながらも、瞬間的に認識することができなくなってしまうのだ。その持続時間は3秒ほどと短いが、今のケケイルには十分過ぎる時間だった。ララヅクの蹴りを受け止めたことにより、ケケイルは後方に身体が飛ばされている。3秒もあれば距離を十分に稼げるのだ。それだけではない―――。
唐突に、動きの止まったララヅクの身体が吹き飛んだ。地面を抉るように倒れ込み、自慢の翼を土に汚してしまう。
この場において、そんなことができる存在はただ一つ。地上の魔物の王と称されたラウドのみだ。全身をバネのように跳ね、ララヅクの腹部の肉を噛み千切っていた。だが、その身にも数多くの傷を作り、血を滴らせている。ラウドとララヅクの攻防の激しさを物語っていた。
ただ一つ誤算があったとするなら、ララヅクの蹴りの威力。
宙を舞うケケイルの身体は炎に包まれていた。
蹴り飛ばされたあの瞬間、致死の衝撃がケケイルの身体を貫いていたのだ。
内臓の破裂。叩きつけられた盾を突破した衝撃は、ケケイルの胸部にたどり着いていた。骨に包まれ守られている心の臓に、致命的な圧力がかかってしまい、不死鳥の天技が発動してしまった。
度重なる天技の発動に、ケケイルの肉体年齢はすでに40歳を越えている。筋肉の柔軟性は失われ、肌の張りを失い目尻の皺とほうれい線が目立ち始めていた。
だが、それでもケケイルは生きている。
致死に至る痛みを何度も体験し、着実に精神を蝕んでいく。
死の痛みってのは、何度経験しても慣れねぇな……。
ケケイルは膝を着き立ち上がる。
身体が重い。まるで自分の身体じゃねぇみてぇだ……。
山に来た当初は20代半ばだったのだ。たかだか数時間で15も歳を取れば身体の感覚に着いてなどいけない。自分の思い描く通りに身体が動かないのは、精神に酷く負担がかかるものだ。苛立ちを抱えながら老いと向き合わなければならない。
四つん這いになりながら見上げればラウドとララヅクがゆっくりと移動しながら絡み合い、噛みつき、引っ掻き、体当たりをして相手を打ちのめそうと暴れ回っている。その2体が進む先には――リタミア村があった。
「おいおい、待ってくれよ……。そっちには、村が……」
力いっぱい握り締めた両の拳を地面に叩きつける。
「ちくしょうがぁぁッ!!なんでよりにもよって村の方に移動していくんだよッ!!」
このまま進んで行けば、確実に村にたどり着いてしまう。それだけは回避しなければならない。
『命を燃やす覚悟はあるか?』
焦燥に駆られ嘆くケケイルの脳内に低い男の声が響いた。
辺りを見渡せど、周囲には誰もいない。
「誰だッ!?」
問うも響くは自身の声のみ。
『自らを省みぬ覚悟があるのなら唱えるが良い』
その言葉は、確かにケケイルに届いていた。
その場で立ち上がり、進み続ける2体の巨大な魔物を視界に収める。
瞳には命を賭ける覚悟が宿っていた。
このまま身を隠せば俺は助かるかもしれない。だが、生まれ育った村を、仲間を、見殺しすることなんてできるはずがねぇ。命を燃やすことになろうが、俺が必ず守って見せる。
ケケイルは脳内に響いた聖句の言葉を紡ぎ出す。
― ジスタード・ノヴァ ―
言の葉が魔力を介して火の元素へ働きかけ、炎がケケイルの身体を包み込んでいく。揺らぐ炎はケケイルを害することはない。肉体が活性化され、本来の自分の年齢にあった肉体を取り戻していった。やがて炎は火の鳥を模り、火の元素が満ちるのを感じていた。
ケケイルは察していた、この力の源流が何なのかを。
時間が無ぇ。最初から、全力で行かせてもらうッ!!!!
ケケイルの心に呼応するように、炎は白く染め上がり、煌々と輝く白炎と化す。
翼に当たる部分から、ブォッ!!!!勢い良く噴き出した白炎を推進力として空を翔け出した。
ララヅクの身体を締め上げるようにラウドが巻き突き、ラウドの身体を噛み千切ろうとララヅクが牙を見せ唸る。絡み合う2体の魔物は地面を転がり、やがては傾斜のきつくなった坂道を下り始めた。下った先、林を抜ければすぐにリタミア村があり、人の営みがある。何も知らぬ村民が変わらぬ日常を送っているのだ。
変化が起きたのはすぐのことだった。転がった弾みでララヅクの片翼の骨が折れたのだ。
好機と見たラウドが一気に勝負に出た。身体をうねらせ、もう片翼を大口の中に収めていく。
傍から見ても勝敗は決していた。翼を失えば、ララヅクは相手の土俵で戦い続けなくてはならない。どちらが有利かは明白だ。
「どっちが勝者なんて興味ねぇよ。どっちも死になッ!!」
白炎を纏い飛行するケケイルはすれ違いざまに剣を振るう。ロングソードに纏う灼熱の白炎がラウドの身体を真っ二つに焼き断った。絡み合うララヅクもその影響を免れず、背中の一部が焼け落ち、2体の魔物は苦痛の声を上げている。
図体がでかい分、すべてを断ち斬るには至らねぇか!!なら―――。
旋回し、再びケケイルの剣が唸る。剣を突き出し、白炎を全身から放出させると、ララヅクにも匹敵するほどの白炎の鳥へと変貌した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおッ!!!!!!焼き尽くせぇぇッ!!!!!!」
白炎の鳥が魔物達に迫った、次の瞬間、ララヅクが千切れたラウドの身体から逃れ、上空へと跳ね上がった。
ちぃッ!!
白炎が引き裂かれたラウドの身体を燃やしていく。ラウド自身が持つ脂に引火し、ゴムが焼けるような臭いを放ちながら轟々と燃え盛る。
ララヅクを追う為旋回するも、徐々に纏う白炎が小さくなり始めた。
まだだ……、まだ終わっちゃいないッ!!
ケケイルの放つ白炎は、命を燃やしたもの。言い換えるなら、本来生きられる寿命こそが力の源泉。あくまで不死鳥という天技の派生でしかなかった。纏う白炎は、ケケイルの寿命を表している。白炎が尽きるということは、ケケイルという一人の人間の障害が潰えることを意味していた。
俺の命一つで村が救えるなら安いもんだ。だが、死ぬ気なんてサラサラ無ぇ!!さっさと終わらせて、俺は村に帰るんだッ!!!!
寿命を燃やし得る力。つまりは、短時間であればあるほど寿命は残る。ケケイルはそこに賭けたのだ。大好きな村へ戻ることを夢見て。
片翼は骨が折れ、片やラウドに喰われかけ欠損部分の多いもう片翼。ララヅクはすでに飛ぶことはできなかった。苦し紛れの跳躍でしかないのだ。ララヅクが落下を始めた。すぐ下には、白炎を纏うケケイルが迫っている。
ツイッ!!ツイッ!!ツイッ!!ツイッ!!
叫びにも似た鳴き声に、無数の岩の欠片が形成される。もはや風で送り出すこともせず、ただ自由落下に任せた質量の雨。
ケケイルはただ真っすぐ突き進んだ。
「しゃらくせぇぇぇッ!!!!」
怒号と共に白炎が猛る。白炎は広がり岩とぶつかり合った。
岩が赤く変色し、形を失う。ドロドロと溶け、地の元素となり霧散していく。
そこに障害は無くなった。
在るのは青く広がる空と、空という舞台から落とされた哀れな獣だけ。
白炎がララヅクに触れ、そして、白炎に呑まれ存在を無に還していくのだった。




