ep.114 そして時は廻り出す
広がるは青い空。続くのは果てしない石段。振り返ればヨミジク村と周りを囲む雲海。登り始めてすでに90分が経っている。足を動かし続けているせいもあり、脚の筋肉、主に腿に疲労が蓄積している。普段の生活において足を上げるという動作はあまりしない。歩く、走る筋肉はあろうとも、足を上へ持ち上げる動作の連続などそうはしない。
「おい、若造共。この老いぼれが元気だというのに情けない」
先導していた魁誠が振り返り、呆れ顔でぼやいている。彼は月1で祠に参拝をしており、この場にいる誰よりも石段を登ることには慣れていた。それだけではない。高所での生活が長い為、酸素の薄い状態に対して身体が順応しているのだ。
「一度ッ、休憩をッ、挟みませんかッ?」
息も絶え絶えにククレストが提案するも「あと30分もせん内に小屋に到着する。そこまで登りきるぞ」魁誠は小屋まで進むことを優先させる。
「んなこと言ったってよ、もう足なんて上がらねぇよ」
ニステルもまた疲労が滲み出ていた。息が上がっていない分、ククレストよりかは体力があるようだ。
言葉を発せられるならまだ元気の証拠である。他のメンバーに至っては、喋ることすらままならず、肩で息をしている。元霊の加護のおかげか、高山病にこそなってはいないが、それでも身体が標高に順応しきれていない。筋力の低い女性はより顕著だろう。
「半端な位置で休憩を取る方がよっぽどきつくなるというのに。10分休憩を挟む。そこからは一気に山小屋を目指す」
魁誠が石段に腰を下ろすと、一行は一斉に座り込んでしまった。
この石段、予想以上に身体への負担が大きいぞ……。まだ登り始めて90分しか経っていないってのに。
脚に視線を下ろせばすでに筋肉が張っており、普段の生活で如何に脚の筋肉を使っていないのかを実感している。話す気力さえも奪われ、ただ水分補給をするだけで時間が過ぎ去ってしまった。
「よし、登り始めるぞ。山小屋に着いたら横になって休める。それまで気張って進め」
返事もなく、ただ指示されたことを実行する人形のように立ち上がり、魁誠の後についていく。足を上げ下げする単調な作業を前に、心が無になった。そうすることで、せめて心労を軽くできるだろう。
それから暫くして山小屋にたどり着き、中へ入って床へと転がった。小屋の中は簡素な造りで、あるのは寝床と簡易的なトイレのみだ。浴槽もかまどもない。素泊まりのみを想定した小屋だった。
「ここで1時間ほど休憩を取る。今の内に身体を揉み解し、残りの行路に備えておけ」
魁誠は床へ座ると水分補給を始めた。その姿には、まだまだ余裕を感じる。年長者だというのに、ここにいる誰よりも体力的に余裕がありそうだ。
上半身を起こし、魁誠の助言通りに足の先から心臓に向かって指で軽く押し上げ、筋肉の緊張と老廃物を排出させていく。少し痛気持ちいいくらいの力加減で解していくと、心地良い感覚に包まれる。
「あ、そういえば」
ふと、霊峰に入る時の鳥居が頭をチラつき、魁誠に問いかける。
「霊峰の入口にある鳥居ってどんな仕組みなんですか?」
一度は朱色の明神系の鳥居が1基だけ現れたが、カミルが近づいた時は石造りの伊勢鳥居が道に沿うように連なっていた。
魁誠はカミルに顔を向けるも、その表情は訝し気だ。
「仕組みとは?」
「鳥居が入れ替わる仕組みですよ。朱色の鳥居から石造りの鳥居に切り替わる現象です。あれも元霊様の影響なんですかね?」
カミルの言葉を理解できないのか、魁誠の表情は変わらない。
「何を言っておるのかわからぬが、オレ達の先祖が建てたのは朱色の明神鳥居1基だけなんだが?」
「えっ?」
ジーク一族が建てたのは1基だけ……?
「それは興味深いことですな」
フィリーが食い違いに食いついた。
「我々は霊峰に入る直前、2種類の鳥居を目撃しました。一つは貴方の言う朱色の鳥居1基。もう一つは石造りの鳥居が無数にありました。その事を把握してないと?」
「ああ、初耳だ」
「つまりは」
フィリーの瞳がカミルを捉える。
「カミル君が、今回起きた現象の鍵、というわけですな」
視線が集まり居心地が悪かった。
「俺、ですか?」
「前回来た時は朱色の鳥居だったんです。ジーク一族も把握してないとなれば、石造りの鳥居を出現させたのはカミル君のほかありません。神来社 廉を知っている者、という条件だけならジーク一族が知らないのは可笑しいですし、鍵となりうるとしたら――日本という国を理解しているというところですかな。霊峰は元素の理に縛られた領域ではなく、日本という世界に近い理が働くと仮定すれば、日本との繋がりがある者だけが霊峰に招かれる理由も納得できますからね」
先祖に日本人を持つリディスの民と、日本という国と繋がりがあった俺。確かに日本との繋がりはあれど、関わり方が別物だ。
「これも元霊様の御力かもしれん。日本との繋がりが強い者ほど、霊峰は日本の姿を投影、具現化されるのやもしれん」
魁誠さんは不思議な現象を元霊に結びつける節がある。かつての日本がそうしたように、超常の現象を神に等しき存在と結びつけることで納得し、畏れ敬っているのかもしれない。
「幻覚ってことですか?」
「可能性の話に過ぎん」
「確かに、我々は当然の現象として受け入れて鳥居に触れもしませんでしたな。ああ、あの時触れておけば……」
フィリーは悔しそうに手をわなわなと震わせている。
「カミルはこの世界に留まるんだ。また調査をしに来ればいいさ」
ああ、ティアが大人しかったのは、また調査しに来れるからか……。またここまで来るのは面倒だけど――皇国からの依頼なら報酬は出るかも?
したたかな思いを持ちつつ、一行は再び石段へと挑んでいく。
更に2時間が過ぎ、2つ目の山小屋に到着した。
すでに身体は疲労で感覚が麻痺し、痛覚が鈍くなったことから心に余裕が生まれていた。
「魁誠さん、俺達はこの世界に留まることを決めました。なので、話せる範囲でいいので神来社 廉について教えてください」
俺は知らないといけない。廉がどんな人生を送って来たのかを。
「なぜそこまで神来社 廉に拘る?」
「それは……」
ジーク一族は廉の血を受け継いでいる。先祖が辿った人生を知る権利があるのかもしれない。
「俺はかつて廉と一緒に過ごしていました」
魁誠の眉がピクっと動いた。
「それは、お前さんも転生者ってことか?」
そう捉えるのが普通だよな。
「いえ、俺は転生者ではありませんよ。意識だけが日本の神来社 廉の中に飛ばされたんです」
「ほう?なかなかに面白いことを言う。続けよ」
「俺が10歳の頃、実家の自室でいつものように眠りました。その時、夢を見たんです」
「なんだ、夢の話か」
あからさまに興味を失ったように目を伏せる。
「ええ、最初は俺もそう思ってたんですよ。でも、世界を巡る内にその考えは変わりました。神来社 廉という人物は実在し、日本という国も実在していると」
魁誠の瞳が先を促してくる。
「魁誠さんは日本についてどれくらい知っていますか?」
「ほとんど知らないに等しい。神来社 廉が日本という国から転生してきたということだけ伝わって来ておる」
「そうですか」
なら、日本の詳細を語っても仕方ないか。
「廉は日本という穏やかな国で生まれました。水や食料に困ることのない生活を送り、元素も魔力もない世界でも何不自由なく暮らしていたんですよ。ですが、15歳になってすぐのことでした。廉は唐突に死んでしまったんです」
「病か何かか?」
カミルは首を横に振る。
「事故死です。日本には、馬よりも速く走る鉄の塊があるんですけど、それよりも小さい自動二輪ってのが運悪くそれが突っ込んで来ての即死でした。俺は彼の意識の中で共生してたので、彼が感じた痛みや無念さは痛いほど伝わって来ています。もし、廉が本当にこちらの世界に転生したのなら、俺は彼がどんな人生を送ったのか知るべきだと思ってます」
たっぷりの間があった。突飛な話を信じてもらえるとは思えない。それでも、誠実さを示さなければ話を聞かせてもらえない。そんな気がしたんだ。
「概ね、伝え聞く内容と一致する。夢、なのかはわからぬが、神来社 廉との繋がりはわかった。廉が世界を壊すに至った経緯は説明しよう」
カミルの表情が明るくなった。
「ありがとうございます」
頭を深々と下げる。
「ふっ、仕草までも日本式か。日本での廉の死に際を知っているのなら、こちらに転生した後のことでも語ろうか」
ボトルの水で喉を潤すと、魁誠は言葉を紡いだ。
「廉が転生したのは、プラーナ合衆国とまとまる前のフィルの国にあるホガミだ。知っての通り、ホガミはリディスの故郷と呼ばれる村。リディスは日本人を先祖に持つ民だ。廉がホガミで転生したのは必然だったのかもしれん。ホガミでの廉の名は、アグリア・ジーク・フルセイル。ホガミの村の纏め役の家柄だ。前世の記憶を持ちながら転生を果たしたアグリアは、魔法という力に触れ、魅了されていった。好奇心ほど人を成長させるものはない。魔法の技術が上がり、村でも随一の魔導師として有名だったと伝え聞く。今度こそ平和に寿命を全うしたい。それだけが願いだった。だが、その願いも空しく、両親が変死してしまうのだ」
「変死、ですか?」
「盗賊に毒殺されたらしい」
カミルの表情が一気に険しいものとなった。
「最悪なのが、その盗賊ってのがフルセイル家の側近として勤めていたキュリエ・ハーティアという女性だった。信を置いた者に毒殺され、村の財産を奪われてしまったんだ」
廉……。お前、こっちの世界に来てまでそんな目にあってたのか……。
「それからだよ、アグリアが人を信じなくなったのは。この世界は間違っている、俺が創り変えなければと躍起になっていたらしい。元々高い元素の適正と魔法の技術、前世の知識を駆使して、まったく新しい理の外の力を得てしまった。それが竜の黄昏の始まりと言えるだろう」
「そうか、理に縛られた状態ではどう足掻いても元素を司る竜には及ばない。なら、理の外から干渉すれば……」
ティアは震えあがった。学者として様々な研究を行ってきた身であれば、新しい法則を見つけ、実用レベルまで昇華させる苦労が推し量れた。それを神来社 廉は成し遂げたのだ。自分の理想を実現する為に。
「そう、理の外の力で黒竜ニグルヴァーパレスの力を自身に取り込み、竜剣という力そのものへと変貌させた。その力を以って、世界を一度消去するつもりだったようだ」
「消去って……。そんなこと―――」
ティアの言葉が途切れる。彼女は思い至ったのだ。この世界が元素で成り立っていることに。六色すべてを掌握すれば、世界そのものを書き換えることなど造作もないことに。
「あとはお前さん方が知っての通り、六色を掌握する前に自らを竜剣へと変化させた竜達によってアグリア・ジーク・フルセイルは破れ、輪廻へと還っていくこととなった」
日本では事故で死を迎え、この世界では両親を殺され、世界を創り変えようとして失敗に終わった。彼の人生はなんと苦痛に満ちたものだったのか……。
「その後、アグリアは転生し、精霊時代、精霊の黄昏前に復活することとなったと?」
カミュンの言葉からは、精霊時代に、俺達がいた時代で転生を果たし、ジーク一族に英雄視されることとなったのだろう。
「時代まで特定しているか。だが、ここからは語ることはできん。歴史の彼方へと流されたこと。伝えるべきではないと判断されたことだ。過ぎた過去よりも、今の世をより良くするべく励むべきだろう」
これが、神来社 廉の、アグリア・ジーク・フルセイルの辿った人生か……。彼は、幸せだったんだろうか……?
「もう暫くしたら発つぞ。それだけ喋れるのだから、頂上までは余裕だろう?」
石段の話題になった瞬間、場の空気がどんよりと重たくなったのは気のせいではないと思う。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
石段を登り始めて7時間後、長く続いた道を登り切り、祠のある頂上へと辿り着いた。
「もうっ、だめっ」
ここまで一心不乱に足を動かして来たものの、頂上にたどり着いた途端、緊張の糸が切れ膝を着いた。身体が倒れていくのを両手を突くことで防ぐと、四つん這いの状態で息を整える。脚の筋肉どころか、お尻の筋肉と腹筋背筋までもが悲鳴を上げている。
日本では登山家という人達がいたけど、よくもまあこんな辛いことをするもんだ……。
「お前達は少し休んでおけ。オレは祠の歪みを確認してくる」
魁誠は独り歩き出すと、その奥に祠があった。石を積み上げた台座の上に、檜で作られた祠があり、地面からおよそ120cmほどの高さである。長い歴史を刻んでいるはずの祠に痛みはなく、元霊の加護か、ジーク一族が作り替えていることがわかる。
祠以上に存在感があるのは、祠の奥にある巨木だった。森林限界など当に越えているはずのこの地に木があることは不思議でならないが、自分の尺度で測ることなどもうやめている。元霊の加護だから、この一言で納得してしまっている自分が恐ろしくもある。
根元付近から二股に別れた幹が、天へと伸びるほど絡まり合い、一つの木として成長している。二股の幹の中央に、空間の歪みが生まれていた。
歪みを直視した途端、心臓が強く脈打った。目の前にあるのは、未来の世界に来てから探し求めて来た本来の時間の流れに還る為の道筋。この世界に留まると決断した今でさえ、直接見えると鼓動が高鳴った。
地面に座り込み、呆然と歪みを眺めていると「未練タラタラじゃねぇか」いつものニステルの声が響く。
「そりゃ、実際に目の前に現れたらこんな反応にもなるって」
「そうよ。未練を断ち切る為にここに来たようなものなんだから」
リアもまた複雑な想いで歪みを眺めている。
「不思議なところですね。石段を登ってた時に感じた冷たい風も、なぜかこの場所には吹いていませんし、それどころか温かな雰囲気を感じます」
そう語るアリィの表情は穏やかだった。
「温かいというか、懐かしいというか?」
キョウカは懐かしさを感じているようだ。たぶんそれは、この空間が日本の田舎と呼ばれる空気感に似ているからだろう。先祖の血筋が故郷に帰ったような気分を感じ取っているのかもしれない。
魁誠が祠の裏から姿を現した。
「思ったよりも消えるのが早いかもしれん」
「どういうことだ?」
ティアとフィリーが立ち上がり、魁誠の下へと歩いていく。
「すでに歪みが縮小している。萎み方も顕著だ。もう10分ももたんだろう……」
その瞬間、駆け出していた。
魁誠の横を抜け、祠を迂回し巨木の前で立ち止まる。
空間が歪み、奥にある木の像が渦を描くように歪んでいる。大きさは直径4mほど。十分な大きさはあるが、それが見る見る内に規模が縮小している。
ふと、左手に温もりを感じた。
リアが隣に立ち、手を握り締めたのだ。
「カミル。もう少し前へ行こう?」
消えていく歪みを惜しむように、リアが手を引き一歩、また一歩と近づいていく。歪みが目の前まで迫った。
これに触れれば還れる……?
頭に甘い考えが過るが、握られたリアの手がカミルの心をその場に留めた。
俺ってヤツはなんてことを考えてるんだ……。
リアと一緒に残ると宣言しておきながら、まだ戻りたいという考えを持っていることに自己嫌悪に陥った。
その間にも歪みは縮小していく。
3mとなり、2mへと縮んでいく。
父さん、母さん。約束、守れそうにないよ。ごめん……。でも、大切な人を守りたいって想い、二人ならわかってくれるよね?
不意に手からリアの感触が消えた。それと同時に首に腕を回されリアへと抱き寄せられる。
突然のことに驚いていると、そのまま唇を奪われた。
時間にして10秒ほどの短い口づけだった。
「急にどうしたの?」
消えゆく歪みに不安を抱いたのだろうか?
だが、目に映るリアの姿が否定する。リアは満面の笑みを浮かべていたのだ。
「カミル、愛してるわ」
その瞬間、背中を押され歪みが目の前に広がった。
「えっ?」
わけがわからなかった。気付けば歪みに触れ、身体が浮遊感に包まれていた。遠ざかるリアの姿に、自分が歪みに押し出されたことを理解した。
「リア?リアッ!?」
必死に手を伸ばすも、無情にもリアの姿は遠ざかり、歪みの先に消えていく。
「そんな!?そんなことってッ!?」
昨日の言葉は嘘だったのか……?一緒に残るって……、幸せになるって誓ったのに……。
微笑む姿、凛々しい姿、怒り狂う姿――走馬灯のように脳内を駆け巡るリアの姿に、カミルは否定し続ける。
あの笑顔は本物だった。
あの瞳は真剣だった。
あの温もりは愛情だった。
あの言葉は本心だった、はずだ。
だがそれも、もう取り返しのつかないこと。未来の世界から送り出され、元の時代へと戻り始めている。
まだだ……。まだ諦めないッ!!
咄嗟に左目に意識を集中し、時を巻き戻す為に魔力を左目に集め――魔力が操作できないことに衝撃を受ける。
魔力が制御できないッ!?
霊峰クシアラナダは、元素の理から外れた領域。元素にも魔力にも頼ることができない神域である。魔力に依存した時を巻き戻す力も当然発動しない。
「くそッ!!くそッ!!くそッ!!くそッ!!」
他に手は……手はないのかッ!?
必死に頭を働かせるも、ただの人間の力では抗うことはできなかった。苦し紛れにクロールするように手足を動かし抗うも、カミルの身体は歪みから遠ざかる。
そして―――歪みは完全に消え去った。
「そんな……、そんな馬鹿なこと………」
認めたくなかった。
受け入れがたかった。
顔を見たかった。
声が聴きたかった。
温もりを感じたかった―――。
「リアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
魂の叫びだけが、閉ざされた空間に木霊する。
― 霊峰クシアラナダ 巨木前 ―
閉ざされた歪みをただ呆然と眺めていた。
「ちょっと!?貴女なにやってるのよ!?」
アリィの叫び声に、自分が本当にこの世界に留まったんだと理解し始めた。
「二人で残るって言ってたでしょ!?」
そう、二人で残るつもりだった。そう決めたはずなのに、身体が咄嗟に動いていた。
「そんなに涙を流すくらいなら、あんなことしなければ良かったのよ……」
涙?手で目を拭うと、確かに濡れていた。ああ、私は泣いているんだ……。
涙が頬を伝い、地面を雫が濡らしていく。
私は振り返った。
そこには、これまで苦楽を共にしてきた仲間達がいる。だから―――。
「これで良かったのよ……。私はもう十分あっちで過ごしたわ。カミルはまだ16歳。これから家族と、友達と楽しく過ごせるはずよ」
「それは貴女も同じでしょうに……」
キョウカが沈んだ表情で呟いた。
「これで、良かったのよ。これで……」
見上げた澄んだ空が、やけに悲しいものにリアの心は感じてしまった。
後悔がないと言えば嘘になる。でも、これがお互いの為になると、今はそう信じるしかない。
カミル、大変だと思うけど、頑張るのよ。遠く離れた未来から、貴方の無事を祈り続けているわ。




