ep.113 決断
歴史に関することは教えてもらえない。でも、廉のことはどうだろうか?彼がこの地でどんな生き方をしたのか、それさえ分かれば元の時代に戻った時に、彼の痕跡を追えるかもしれない。
口を開きかけた、その時だった。
「歴史を知って結末を変えたいのはわかるが、二人はもっと過酷な決断をせねばならんぞ」
魁誠の口から出たのは、不穏な言葉だった。
「決断、ですか?一体なんの?」
魁誠は一度視線を外すと、言い辛そうに目を泳がせた。共に旅をした仲間達を一巡すると、カミルへと視線が戻る。
「二人は祠の歪み目当てで来たのだろう?」
「もちろんです。その為に長い時間をかけ、苦労して霊峰を登って来ました」
「何か問題でもあるのですか?」
魁誠の仕草に不安を覚えたのか、リアが率直な言葉を投げた。
「まあな。あの歪みは元霊様の力が溢れ出たもの。それが長い時間の流れの中で歪みを生み出す神秘そのものだ。意図した力でないせいか、ひどく不安定なんだ。あの歪みはな、一人を送り出す力しか持っていない」
魁誠の言葉が脳を揺さぶった。
「一人だけ……?」
カミルとリアは呆然と魁誠の姿を眺めていた。脳の処理が追いつかない。告げられた言葉の意味を脳が拒否している。
バンッ!!ティアがテーブルを叩き、魁誠を睨みつける。
「そんなこと!!この前は言ってなかったじゃないかっ!!」
「聞かれなかったからだ。時の迷い人などそうは現れん。言ったところで意味などなかった」
「本当に一人だけしか戻すことはできないのでしょうか?」
穏やかなアリィの声が響く。
「ここで嘘を言って俺に何の得がある?語ったことは事実だ。あくまであの現象は元霊様の力の余波に過ぎん。長い歴史の中で、歪みが現れたのは2桁に届かぬ。100年以上の歳月をかけて生まれる力だ、この機会に巡り合えた奇跡に感謝すべきだろう」
「検証はしたのか?」
ティアはそれでも引き下がらなかった。自分の目で確かめるまで信じない、そんな雰囲気を醸し出している。
魁誠はティアを見据えて口を開いた。
「今から700年ほど前になる。三人の時の迷い人が村へとやって来た。当時の村長が歪みの持つ特性を伝えたところ、三人は嬉々として歪みに飛び込んだ。だが、最初に歪みに触れた者だけがその場から消え去り、二人は祠に残されてしまったわけだ」
「勘違いという可能性は?」
「ないな。時の迷い人が歪みを利用したのは、長い歴史の中でも2度のみ。霊峰クシアラナダに元霊様が降臨されてすぐと、今言った三人組の時しかない。我々はこの神秘の力を後世に伝えるべく、書物に記し引き継いでいる。間違えるはずがない」
ジーク一族は元霊を敬い、歪みが齎す神秘を書物に残すほど大切にしている。間違いや勘違いが起こりえるとは考えにくい。なら、元の時代に帰れるのは、本当に一人だけ……?
「どうするかは悩め、と言いたいところだが……」
「まだなんかあるのかよ」
言い淀む魁誠に、ティアは気分が重たくなった。
「あの歪みは近々消滅する」
カミルとリアは顔を見合わせ、リアが魁誠へ問う。
「どういうことですか?」
その声はか弱く、リアの心情を表しているかのようだった。
「歪みが生まれてからおよそ1年ほどで自然消滅してしまうらしい」
「じゃあ、あの歪みが生まれたのは……?」
魁誠の口ぶりから察することはできた。だが、聞かざるを得なかった。
「1週間後、そこでちょうど1年が経つ。誤差もあるだろうしな、もういつ消滅してもおかしくはない」
「そんな……」
カミルは顔を伏せ、テーブルの上に置いた手に力が籠る。
帰れるのは一人だけで、歪みはいつ消滅してもおかしくない。ここまで来てそんな仕打ちあるのかよ……。
その場にいる者の視線がカミルとリアに注がれている。重い空気が漂い、誰もがどうすべきなのか迷っていた。
「少し、二人で話して来てもいいかな?」
唐突にリアの言葉が響く。周りの返事を待たずにカミルの腕を掴み立ち上がると、屋敷の外へと連れ出した。
村長の屋敷から北の方角に展望台が存在する。晴れていれば眼下には海が広がり、対岸に皇国領を見ることが可能である。海から吹き上がる風が強いが、その景色は絶景てある。
展望台までカミルを連行し、備え付けられた椅子に腰を落ち着かせた。心地よい、と言うには風は強く、靡く銀髪を手で押さえた。未来に来るまではボブカットだったが、髪が伸び、肩に当たってしまっている。その分、根元の金髪部分が広がりを見せ、本来のエルフの姿を取り戻しつつあることを物語っていた。
横に座るカミルの顔は曇っていた。一人しか元の時代に戻れないと聞かされたのだから当然の反応だろう。
「折角の絶景なのに、地面ばかり見てたら損よ?」
カミルがゆっくりと顔を上げ、広がる空と大地と海を瞳に映した。
「綺麗、だね。心が、洗われる――かも」
訥々と語る言葉から、カミルの心情が伝わってくる。目の前に広がる光景よりも、歪みのことに心が引っ張られているようだ。
「言行不一致過ぎるでしょ」
苦笑すると、指を組み、手の平が空を向くように頭上へと持ち上げ伸びをする。息を目一杯吐き出すと、大きく息を吸い込んだ。緑の香りと、風が押し上げる僅かな潮の香りが鼻孔を擽った。
これだけの標高なのに香りが届くなんてね。ちょっと得した気分だわ。
「リアはさ、やっぱり帰りたいよね?」
唐突に放たれる言葉に、
「そりゃ帰りたいよ?皆を残して来てるわけだし。でもね、カミルと別れるのも無理なのよ」
「うん、俺もリアと離れ離れになるなんて考えたくもないよ」
元の時代の仲間達とカミル。天秤にかけたところで意味なんてない。どちらを失っても、必ず後悔する。だけど、私達は答えを出さなきゃいけないのよね……。
空を見上げ、流れる雲を見つめた。
あの雲のように流れに身を任せることができたのなら、どれほど楽だろうか。
お互い、無言のままただ時間だけが過ぎていく。
このまま時間切れで歪みが消滅、というのも一つの案だけど、やっぱり自分の道は自分で選ばなきゃいけないよね。流されてたら駄目、きっと将来的に後悔に変わってしまう。
リアは意を決し、カミルへと問いかける。
「ねえ、カミル」
カミルはリアの顔を見つめた。
「一つ提案なんだけど……、過去のことは忘れてこの時代で生きてみない?」
「―――それって、元の時代に戻るのを諦めるってこと?」
ゆっくりと頷き、肯定する。
「私は選べなかったんだ。カミルと聖なる焔の皆や100年生きて出会った人々、私にとって誰もが大切な人なの。でも、どちらかしか選べないのであれば、私はカミルと一緒に生きていきたい。一緒にここまで来るのにお世話になった人達に恩返ししながら生きていくのも、きっと楽しい人生になると思うから」
私達が還らなかったら、オーウェンの帝城襲撃の折に死亡したとされると思う。私達が居なくなったという事実だけを残して世界は回っていく。カナン達と会えなくなるのは悲しいけど、未来の世界で結ばれた縁を大切にしていけばいい。私達は多くの仲間に恵まれたんだ。カミルとこの世界で生きていくことも、今では悪くないと思ってる。
「うん、そうだね。その未来も悪くないかも。ただ、一つだけ、心残りがあるんだよ」
「心残り?」
「故郷のアズ村を出る時にさ、両親と約束しちゃったんだ。両親よりも先に死なないって……。この世界に留まるってことは、向こうの世界だと俺は死んだようなもの。父さんと母さん、きっと悲しむだろうなぁ」
留まることを選ぶということは、カミルと両親を引き裂くということ。リアは心苦しかった。一緒に居たいという想いが独りよがりだったのではないかと不安が押し寄せた。
「でも、俺もリアと別れるなんて選択はできない」
カミルは深呼吸を挟むと、力強くリアへと告げる。
「俺はリアと一緒にこの世界に残るよ」
悲しく笑うカミルの笑みに、胸がギュッと締め付けられた。心苦しくも、それでも自分で選んでくれた高揚感が混ざり合い、気づけばカミルをそっと抱きしめていた。
「辛い選択をさせてごめん。私を選んでくれてありがとう」
カミルの手がリアの後頭部に添えられる。
「なんで謝るのさ。これは俺が選んだこと、俺がそうしたいと思ったから選んだんだ」
「うん」
カミルの両手が肩へと移り、二人の距離が僅かに離れた。優しい笑みを浮かべ、リアの瞳を見つめる。
「二人で力を合わせて幸せになろう」
その瞳は強い意思を宿していた。カミルが大切に想う人よりも、自分が選ばれたことが素直に嬉しかった。
「うん、ご両親からカミルを奪っちゃうんだもの。幸せにならないと恨まれちゃうね」
幸せになることは、カミルを想う人達への贖罪でもある。私が成さなければならない義務だ。私と関わったことで不幸になったなんて言わせたくないし、カミルを幸せにできるのは自分をおいて他にいないという自負もある。
「はははっ、うちの親なら俺の選択を尊重してくれると思うけどね?」
どこか寂し気な笑みが切なくて、でも、気を遣ってくれる姿が可愛くて、気づけばカミルの首に腕を回し、唇を奪っていた。唇と唇が触れるだけの優しい口づけ。額をくっつけ見つめ合う。
「頼りにしてるよ、カミルっ」
その言葉に、カミルは無邪気な笑顔を浮かべた。
「愛想を尽かされないように頑張るよ」
二人が霧島邸に戻ったのは、日が沈み始めた頃だったという。
村長の下へ戻ってみると、ククレストと学者二人の姿がなかった。空き家を借りることができ、荷物を運び込んでいるらしい。
アリィは戻ってきたカミルとリアの姿を発見すると「あら、思ってたよりも元気そうね」何かを察して含みのある笑みを浮かべている。
「それで、どうするかは決まったか?」
魁誠は二人の意思を問う。歪みを利用するもしないも、村長として彼には事の成り行きを見守る責務があった。
カミルとリアは顔を見合わせると頷き合った。
「私達、この時代に留まることにしました」
誰もが驚くことはなかった。俺達がどちらを選択しようと受け入れる、そんな空気を感じた。
「そうか」
魁誠の言葉は短いものだった。『時を犯すことはせんよ』村長はそう語っていたから、異物である俺達のどちらかを無理やり歪みの中に入れるのでは?とも思っていたが、そうでもないらしい。
「できれば、歪みをこの目に焼き付けておきたいのですが」
「今日はもう日が暮れる。明朝に行ってくるがいい。だが、覚悟せよ。祠へ続く石段の数は8000だ。当然、水も食料も持参しなければならん。途中に休憩小屋を設けているが、登りきるまでに半日ほどの時間を要する」
「半日……。空気とか大丈夫なんですかね?」
思わず言葉が漏れた。ヨミジク村があるこの場でさえ標高4000mなのである。更に8000段登るとなると、1000m以上は標高が上がると見といた方がいい。
「オレ達の先祖は、石段を敷き詰め祠を建てたんだ。大丈夫に決まっているだろう。他の山がどんなものか知らないが、霊峰クシアラナダには元霊様がいらっしゃる。この標高で動けるのも、元霊様の加護のお陰かも知れんな」
ここは元素の理に強く縛られた場所じゃない。自分の目で、身体で確かめる他ないんだ。
「わかりました。では、明日の日の出と共に向かいたいと思います」
リアが祠へ向かう意向を伝えると「オレも同行しよう」村長自ら祠へと行くつもりらしい。
「さすがにその身体に無理をさせるわけには……」
魁誠はすでに年老いている。とても祠へたどり着ける体力があるとは思えなかった。
「馬鹿にするんじゃねえ。今でも月1で祠まで参拝に向かっておる。お前さん達の方こそ、覚悟しておけ。階段を登り続けるってのは、想像以上に過酷だ。ましてや、元素や魔力の補助はない。ぶっ倒れるなよ」
「へっ、爺さんが行けるなら楽勝だろ」
ニステルが強がるも、みんなの視線がニステルに集まった。
「着いて来てくれるんだ?ニステルって皮肉な言葉ばかり言うけど、やっぱり優しいね」
カミルの言葉に「ば、馬鹿。俺が見てみてぇから行くだけだっての……」慌てて誤魔化すも。
「ニステル。男のツンデレは見るに堪えないよ?」
冷ややかな視線で悲しい現実を突きつけた。
「また良くわかんねぇ言葉でおちょくりやがって……」
「まあまあ、私も一緒に行ってあげるから。つんでれ?さん、よろしくね」
キョウカも悪ふざけに便乗すると、ニステルはそっぽを向いてしまった。
「明日は早い。しっかりと休んでおくように」
「それじゃ、移動しようか」
カミルが膝を立てると「あ、リアは移動しなくていいからね」立ち上がろうとするリアをアリィが引き止めた。
「どうして?」
「女性陣は村長邸に泊めてくれるみたいなんです」
「え?空き家は?」
空き家を借りれたという話はどこへいったのか。
「男性陣の宿なんです」
どうやら、男女で別の場所を提供されたようだ。
「ここには世話役の者が住み込みで働いておる。不慣れな山奥の村での生活だからな、女性陣に当てさせもらった」
屋敷と言えど、山奥の村。来客など余程の事がない限り訪れない。100人に満たない集落では、大きな屋敷は必要ない上、空いている部屋の多くは、村の運営を行う上での倉庫として利用していた。泊まれる場所を用意してもらえるだけで有難い話なのだ。
「確かに。火起こしには散々苦労させられましたよ」
代わる代わる火起こし役を交代し、苦労の果てにヨミジク村まで来た。魔法が使えないだけで、多くの苦労を味わっており、元素への有難みをしみじみと感じている。
「火を起こすだけでも一苦労する。食料の確保や水の確保なら尚更だ。ましてや、風呂に入ろうと思えば、水を汲み、薪を集め、火を起こす必要性がある。魔法の使えぬ人間ってのは、生きるだけでも大変なことなんだ。それが分かっただけでも霊峰に来た意味があるってもんさ」
魔法のない日本という国でさえ、火や水、食料に困ることなんてなかった。この世界も、努力の仕方によっては魔法に頼らない生活が行えるかもしれない。だけど、それは現実的じゃない。魔法が、元素がある限り、人は依存する。もし仮に元素がこの世からなくなったとするのなら、それは世界の理が書き換わることを意味しているんだ。
せめて生活の質を上げてくれる道具くらい欲しいよな……。
叶わぬ願いを抱えながら、カミルとニステルは空き家へと移動していった。
食事と入浴を済ませ、止まらせていただく部屋へと来ている。霧島帝の客室は10畳ほど。障子と襖に囲われた和室であった。お団子頭に割烹着姿の40半ばほどの気品のある女性が四人分の布団を敷いてくれている。彼女が村長の言っていた世話役なのだろう。
この屋敷、というよりもこの村は外の世界に比べて異質だった。日が沈み、外が暗くなれば白の元素を利用した魔導具や火で室内を照らすはずである。この村はというと、至るところに照明器と思われる物体があり、原理の分からない明かりが灯っているのだ。世話役の女性に聞いたところ、デンキなるものを利用しているらしい。フィルザードを唱えた時に発生する雷を利用する技術らしいのだが、詳しいことはさっぱりだった。
リアは疲労の溜まった身体を休ませる為に布団の上にごろんと寝転んだ。天日干しがしっかりと行われているのか、優しい太陽の香りを感じる。浴衣の裾が乱れ、隙間から生足が姿を覗かせているが、ここは女性だけしかいない。男性の目を気にせず寛げる環境は非常に有難かった。布団だけじゃなく、浴衣も貸してくれている。山の中では、不測の事態に備えてきっちりと着込むことが多かっただけに、ゆったりと着られる浴衣は、身も心も解してくれるようだ。
「リアはこれからどうするのですか?」
アリィの言葉に、上半身を起こす。アリィは布団の上に背筋を伸ばして座りながらも脚を閉じ、両脚を揃えて流すように淑やかに座っていた。
その姿と自分の姿を見比べ、浴衣の乱れを直し、アリィをお手本に座り直す。
「歪みを見たら、一度王都に戻ろうと思う。ティアニカにも事の経緯を話さなきゃだし」
あれだけ盛大にお別れしたのだ。素知らぬ顔で戻って来たらびっくりするだろう。
「仲良しでしたからね」
二人の別れを思い出したのか、アリィは柔らかな笑みを浮かべている。
「皇都には来られませんか?」
「まだそこまで考えてないかな。この時代に留まるのも決めたばかりだし、身の振り方はこれから考えるわ」
還るつもりでいた為、これからのことなど一切考えられていない。幸い冒険者としては活動してはいける為、依頼さえあれば仕事には困らない。
「皇国も人手不足ですから、気が向いたら皇国で冒険者をしていただけたら助かります」
烙葉達、鬼との一件以来、皇国は慢性的な人手不足に陥っている。霊峰へ旅立つ前のアリィもククレストも、多忙な毎日を送っていた。
「ここまで来たのに、何の調査の協力もできなくてごめん……」
霊峰へやって来たのは、時の迷い人が歪みに触れるとどうなるのかという調査のためだった。リア達がこの世界に留まると決めた今、その研究は頓挫してしまったのだ。
「本人の意思を無視してまでやる必要はないさ。ただ、何の成果も無しで帰ればヒカミが煩いだろうがな」
ティアは布団に寝転がり、肘枕の格好でリアへと視線を送っている。浮かない顔をしているのは、二人がこの世界に留まり、調査が進まないからだろう。意気揚々とここまで来たというのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「でも、よく二人で残る決心をしたよね。やっぱり、愛?ねぇ?ねぇ?」
キョウカはうつ伏せの状態から上半身を逸らして顔をこちらに向けていた。脚をパタパタと交互に動かし食いついてくるあたり、キョウカも思春期の女の子であった。
「もちろんそうだけど、一番は一人だけ残すなんて未来、お互いに選べなかったからかな。誰だって自分の居場所って大事でしょ?時間をかけて自分の居るべき場所というのを確保してきたのに、それを放棄するなんてなかなかできないわよ。それをどちらかに押し付けるなんてことは、もっとね」
一人で残るのは大変だもの。でも、二人ならきっと辛いことも乗り越えられる。私とカミルなら大丈夫。
「えぇ~、そこはもっと恥ずかしがってくれないとぉ~」
「キョウカの中での私の人物像がすっごい気になるわ」
「純粋?すれてない女性って感じ?」
私のこと、穢れを知らない乙女か何かと勘違いしてるんじゃないかしら……?
「ありがとう。それはキョウカもじゃないの?」
急に振られて「わ、わたし!?」上擦った声を漏らした。
「そうよ。瘴気騒ぎで王都に居たんでしょ?運命的な出会いはなかったのかしらねぇ?」
今度はリアがにやつく番だった。
キョウカは顎に手を添えると考え込む。
その仕草だけで、リアは悟ってしまった。
「はぁ~、そんな人、いなかったわ……。都会に出れば出会いがあるかも?なんて幻想よ」
どこか悲し気なキョウカの表情に、これ以上この話題は不味いと感じ取り、明日の予定へと話を逸らすことにした。
「アクツ村に帰る前にまた王都に寄るんでしょ?それならまだ巡り逢うかもだしね?とりあえず明日を乗り切らなくちゃね?」
「実際、8000段ってどれほど疲れるものなんでしょうか?」
アリィはティアに尋ねる。
「足は棒になるわ、靴擦れでヒリヒリするわ、たどり着く頃にはバテバテよ。前回は頂上で一泊したから何とかなったけど、今回はヨミジク村まで下りるのよね?翌日の筋肉痛の覚悟はしときなさいよ……」
リアは自身の脚を摩り「脚が太くならないか心配だわ……」疲労よりも見た目を気にするのだった。
夜明け前、石段の前に集まった面々は、水と食料を背負い遥かな石段の先を見据えた。まだ薄暗く、先を見通せはしないが、晴れていてもきっとそれは変わらない。まさに天へと昇る階だ。
日が顔を覗かせた瞬間、魁誠は口を開いた。
「では、進もうか」
魁誠の言葉に身を引き締め、一歩を踏み出した。元の時代との別れを告げる為に―――。




