ep.112 子々孫々
向けられる眼差しが、カミルの意識を過去へと追いやっていく。
この瞳、あの時の廉と一緒だ。
かつての廉の姿が霧島 魁誠と重なり、嫌な汗が噴き出した。
忘れるわけがない。あの大人しかった廉が起こした事件を―――。
― 愛知県名古屋市緑区 ―
黒髪に垂れ目、左の目尻に∴型の泣きぼくろが特徴的な小学5年生の少年――神来社 廉は盛大にアスファルトの上に寝そべっている。遊びの一環でも、疲れて横になっているわけでもない。自転車に乗り、とある場所に向かう途中で学校のクラスメイトと遭遇し、逃げようとして横から飛び蹴りをくらったのだ。自転車は電柱にぶつかって止まり、投げ出された廉は固いアスファルトの上に投げ出されていた。
「神来社だぁ?そんな大層な苗字のくせにトロいなぁ。お前なんて神来社じゃなくて枯れ井戸で充分だろ」
「蒼空、めっちゃ良い渾名つけんな。センスよっ」
「だろ?」
蒼空と呼ばれた体格の良い男の子は、自慢げに胸を張った。
「このセンスが分かるなんて、律も十分センスいいだろ」
律と呼ばれたサラサラの髪の男の子は「へへっ」嬉しそうに人差し指で鼻を左右にこすると、倒れた廉を見下ろした。
「おい、早く立てよ。あぁ~、ったくトロいねぇ。そんなにトロいと、オレ達が手を貸さなきゃいけなくなるけどいいのか?」
好き放題言いやがって……。
内心で悪態はつけど、それを表に出すことはない。騒げばこの二人は調子に乗り、もっと廉を弄るだろう。小学校を入学して以来、偶にイジメにも似たようなことが行われてきた。当の本人達は揶揄ってるだけと言い張り、止める気配などない。
彼らのイジメは廉に限ったことではなかった。クラスで気に入らない人がいれば突っかかるのだ。今日はたまたま廉が目を付けられ絡まれただけ。そう、運が悪かっただけなのだ。
勉強をサボった罰かな……。
学校が終わり、いつもの勉強は後回しにして自転車に乗り、15分ほどでたどり着ける氷上姉子神社に向かっていた。そんな折に出くわしたのが、蒼空と律なのだ。
これ以上寝てたら何されるかわからない。立たないと……。打ち付けた腕が、擦りむいた脚が痛むけど、我慢しなきゃ……。
ゆっくりと立ち上がると二人はワーワーとはしゃぎ出した。
「おお、立った立った!!」
「これでもっと楽しめるな!!」
二人はまだ廉を痛めつけて遊ぶつもりらしい。
なんで俺がこんな目に……。
きつく結ばれた拳が、廉の気持ちを代弁している。
「あら、随分楽しそうだわね。お母さんも混ぜてもらえるかしら?」
大人の女性の声に、二人は固まり、一気に顔が青ざめていく。
蒼空がゆっくりと振り返り「か、母ちゃん……」震える声で母親を呼ぶ。
母親は笑顔の仮面を張りつけているが、目だけは笑えていない。
「今日は図書館で先生と宿題を終わらす~とか言って出て行かなかったっけ?なんでこんなとこでよそ様の子にちょっかい出してるのかな~?」
「そ、蒼空。お前宿題やるんだったのかよ。邪魔しちゃ悪いし、オレはこの辺で―――」
後ずさる律の首根っこを掴むと、
「律くぅん♡今から家で一緒に宿題やってくれるよね?同じクラスだし、律くんもやらないといけないでしょ?暇そうにしてるし、一緒にやってくれないかな?」
口調は穏やかで、口元は笑みを浮かべている。だけど、その目には怒りの感情が如実に表れている。蒼空の母親の一睨みで、律は竦み上がり動けなくなってしまっている。
その表情も、廉に視線を向けるとすぐに柔らかいものへと変わった。
「ごめんね、廉くん。行くところがあったんでしょ?逃げ出さないようにしっかり見張っておくから、気を付けて行ってらっしゃい」
二人には厳しい蒼空の母親は、廉に対しては非常に友好的だ。「廉くんが息子だったら良かったのに~」実の息子の前でそんなことまで言い出す始末である。廉をイジメるのも、それが一端になっているかもしれないとは考えないらしい。
二人は首根っこを引っ張られたまま家まで連行されていく。
三人を見送った廉は、倒れた自転車を立たせて跨った。
いらない時間を取られたけど、時間の余裕はまだある。さっさとお参りして来なきゃ。
ペダルを踏み込み、目当ての神社に向けて走り出した。
住宅街を抜け、木々の生い茂る中に社はある。道路からすぐのところに鳥居が現れ、灯篭が並ぶ道を抜けた先に駐車場が存在する。もう一つの鳥居をくぐると本殿の姿を拝むことができる。
境内の空気を感じながら手水舎へと進み、右手で柄杓を取り水を汲む。左手を清め、柄杓を持ち替え右手を清める。柄杓を右手に持ち替え、左手で水を受け止め口を清めていく。再び左手を清めたら、最期に残りの水で柄杓の持ち手を清めてから柄杓を戻す。
一連の動作に淀みがない。廉にとっては瞑想に近いものだった。
ハンカチで水を拭い、お参りに向かう。
本殿の前で一拝をし、賽銭箱に五円玉をそっと入れ、姿勢を正して二拝する。感謝の気持ちを込め二度柏手を打つ。もちろん、右手を左手の第一関節分下にずらすのを忘れない。その後、ずらした指を戻して感謝の気持ちを伝えていく。
《いつも見守っていただき、ありがとうございます。病気も怪我もなく――たまに怪我はさせられますけど軽傷で済んでいます。これからも変わらず見守り続けていただけると嬉しいです。共働きの両親との時間がもう少しだけ取れたらもっと嬉しいです》
最後に再拝をし、お参りを終えた。
廉は氷上姉子神社が大好きだった。高速道路のすぐ近くともあり、自動車の走る音が届くが、それでも構わなかった。何せ、この神社には、廉が大好きな日本武尊に纏わる伝承があるからだ。
東征を終えた日本武尊が宮簀媛命と結ばれ、伊吹山へ向かう際、草薙剣を預けて旅立ったという。草薙剣は氷上に祀られるも、日本武尊は戻らず、白鳥となり熱田の地へと降り立ったことから、熱田に社を建て草薙剣を祀ったとされている。この事から、氷上の地に元宮があり、氷上姉子神社は熱田神宮の境外摂社と称されるに至る。
身近に歴史的な社があることに感銘を受け、事あるごとに参拝を繰り返していた。憧れた理由は単純で、数々の武勇を誇っているからだ。参拝を繰り返すことで、自分も少しだけ強くなれる気がしていた。
事件が起きたのはそれからすぐのことだった。
授業が終わり、帰りの支度をしていると、あの二人がやってきた。
「まだ帰りの支度も済んでねーのかよ。枯れ井戸はほんっと、トロいなぁ」
蒼空が厭らしい顔をしている。
支度が終わるも何も、まだ帰りの会も終わってないっての……。
掃除の時間も終わり、先生が来るまでに帰りの支度をする。いつもの流れにも関わらず絡まれてしまった。周りを見渡せば、他の子供達もランドセルに教科書やノートを突っ込んでいるところだった。
なんで俺に絡んで来るんだよ……。
いつものように心の中で愚痴る。
無視を決め込み、ランドセルを閉めた。横に括りつけてあるお守りが揺ら揺らと動き、二人の視界に入ってしまった。
「おい、見ろよ。こいつ、お守りつけてやがるぜ」
律は新しいおもちゃを見つけたようにお守りを握り眺め始めた。
「災難除守だってよ。ご利益あるといいなぁ?」
律の憎たらしい顔が、嫌いだった。
「あぁ?なんだその顔はよぉ!!」
しまった……。表情を隠しきれてなかったか……。
「文句あんのかよ?なぁッ!?」
ランドセルを押さえつけられ、反対の手、お守りが握られた手が勢いよく動いた。
ブチッ
ランドセルとお守りを繋ぐ紐は切れ、律の手の中にはお守りが収まっている。
「あぁ!?」
思わず声が出た。立ち上がり手が伸びた。
けれどすぐに視界は暗転した。頭を上から押さえつけられ、顔面からランドセルに押さえつけられてしまった。
「そんなにこのお守りが大事なのかよ。おい、律。そんなもん捨てちまえ」
耳を疑った。
「や、やめっ」
必死に顔の向きを変えると、目に映ったのは宙を舞うお守り。律の手から離れ、放物線を描いてゴミ箱の中へと消えていく。
「しゃぁッ!!」
律はガッツポーズを取り、
「おお!!律、ナイッシューッ!!」
蒼空が手を挙げると、律はその手に向かってハイタッチで応じた。
頭を押さえる力が弱まり、その隙にランドセルごと横にスライドして自由を得る。そして、ゴミ箱へと駆け寄った。
手を伸ばしお守りを拾い上げると、無残な姿となっていた。掃除が終わったばかりということもあり、砂埃の塊があった。その中に落ちたのか、塊を崩すようにお守りが突き刺さっていたのだ。それだけではなかった。ランドセルから引き千切るのに握り締めたのか、ぐにゃぐにゃに折れ曲がってしまっている。
許さない。
ついた汚れを叩き落しながら、廉の表情は怒りに歪んでいた。
この災難除守のお守りは、氷上姉子神社で両親によって与えられたものだった。大好きな神社のお守りをぞんざいに扱われたことが廉は許せなかった。だが、それ以上に許せなかったのは、両親の想いを踏み躙られたこと。共働きで金銭面的に余裕のない中で、廉を想って買ってくれたお守りであり、宝物だった。
だけど、廉は感情的に行動に出ることはなかった。ここで殴り掛かろうものなら、両親に迷惑をかけてしまう。心配をかけてしまう。それだけは避けたかった。
ガラガラガラ。
先生が教室に入って来る。
それと同時に蒼空も律も、他の子供達も自分の席へと戻っていった。
「ん?廉、どうした?早く席に着け」
怒りを抑え込んでいると、教卓に立つ先生が座るように促した。
廉は振り返る。その表情にはさきほどまでの怒りは浮かんでいなかった。微笑みを浮かべ「はい」自分の席へと戻っていく。
その時のにやけた表情浮かべた蒼空と律の顔。
俺は絶対に忘れないからな。
帰りの会が終わると同時に、廉は教室を飛び出して行く。
これ以上揶揄われたら我慢ができずに手を出してしまう。蒼空と律に捕まる前に全速力で靴を履き替え、学校を飛び出した。
細く降る生活路を抜けた先に廉の家はある。脇目を振らず駆け抜け、家の玄関をくぐってようやく一息ついた。
安全確認もなにもせず走り抜けたから、近所の人に見られていたらあとで何か言われるかも……。
息が上がったまま階段を登り、2階にある自室へと引き籠った。
ランドセルを学習机の横に引っかけると、ベッドに倒れ込む。ポフッと沈み込む感触を感じながら、どう仕返しするべきか頭を働かせる。
仕返しするにしても、他の人に迷惑をかけないこと。これは絶対条件だ。悪いのは二人であって、二人の両親には非はないんだから。
直接的な行動も絶対にしちゃダメだ。父さん、母さんに迷惑をかけたくない。
なら、誰がやったかわからない状況に持っていくしかない。
やるなら大人の目が届きにくい学校の中で。できるなら、可能な限りの痛い目に遭わせたい。散々俺もやられてきた。多少大きな怪我をしたとしても天罰だろ?
廉の脳裏に浮かぶのは物騒な言葉たち。廉は他の子よりも学習が進んでいる。そのおかげもあり、優等生と扱われることもしばしばある。多少の何かを仕出かしたとしても、疑いの目は向きにくい。
目を付けたのは、2時限目が終わった後にある大放課だ。愛知で放課という言葉は方言であり、授業と授業の間の休憩時間を指す言葉である。大放課――即ち20分休憩の時間になると、蒼空と律は決まってグラウンドに出て遊んでいる。時間になっても帰って来ないことは度々あり、5分~10分遅れで教室に戻って来るのが常であった。何度注意しても変わらぬ態度に、先生達も苦労を抱えている。
皆が教室に戻った後のこの5~10分、この時間に仕掛ければ確実に標的を二人に絞り込める。
実行に移すべく、廉はグラウンドの砂を集め始めた。
そして、大放課を迎え、授業開始のチャイムが鳴り響く。
廉は教室に戻らず、教室のある3階の階段の前にいた。誰もいないのを確認すると、集めた砂を階段を登りきった床へとばら撒いた。
準備はこれだけでいい。あとは二人のどっちかが自滅してくれるのを待てばいい……。
廉は直接手を下さず、二人の習性を利用しようとしていた。二人は大放課の後、決まってこの階段を駆け上がるらしいのだ。らしい、というのも、本人達が教室で声を大にして語っているのだから間違いはないだろう。毎回どちらが先に駆け上がれるか競争をしているようだ。階段を登りきる直前、何段か飛ばすようにジャンプをし、階段の一番上まで飛び上がるという謎ルールまである。
そう、狙いは階段の上、ジャンプして着地を決める床こそが狙い目だ。そこに砂を撒いたらどうなるか?想像するのは難くない。
そうこうしている内に、階段の下が騒がしくなる。
「なあ、せっかくなら賭けでもしねえ?」
蒼空の声だ。
「いいけどよ。なに賭けんの?」
「給食のデザートなんてどうだ?確か今日のデザートは―――」
「プリンだっ!?」
「お?やる気になったか?」
「ったりねぇだろ。よーし、これは負けらんねぇ!!」
「じゃあ、いくぞ?」
「「よ~い、ドンッ!!!!」」
掛け声と共にドタドタドタッ!!二人が駆け上がる音が響いて来る。
廉は壁に隠れるも、顔だけを覗かせどちらが来るのか確認しようとしている。心臓がドクドクドクッと鼓動を高鳴らせ、妙な高揚感に包まれていた。
どっちだ?どっちが来る……?
「もらったぁぁッ!!」
律の声が響き、飛び上がる姿が目に入る。
律ッ!!
勝利を確信し、律の顔は緩んでいた。空中で折り曲げた脚が地面へと降りていき、そして――砂の上に着地すると「うわぁ!?」砂で滑り身体のバランスを崩した。脚が前方へ滑ったことにより、上半身は大きく後ろへと倒れ込んでいく。だがそこには、倒れ込む床など存在しない。律は背中から階段へと落ちていき、転がり落ちて行った。
「えっ?」
すぐ下にいた蒼空もまた、落ちて来る律に対して驚きの声を上げ、巻き込まれるように踊り場まで落ちていく。鉄とコンクリートでできた校舎では、華奢な子供が落ちたとて大きく音が響くこともない。
落ちた――ッ!!
目の前で起こる光景に、廉は極度の興奮状態にあった。零れる笑みが抑えきれず、落ちた二人の姿をもっと見たくなり身を屈ませながら近づいて行った。
顔だけ覗かせ、倒れ込む二人の姿を目に収める。律が蒼空を下敷きにし、二人して「ぅ゙ぅ゙……」呻き声を漏らしている。廉の瞳は酷く冷たいものであった。
いい気味だ。散々イジメられてきたんだ。その程度で済んで良かったな?
心の中で呟くと、満足し廊下を歩いていく。窓ガラスに反射し映る廉の表情は、不敵に笑い、瞳には怪しさを宿していた。
そうだ。クラスメイトを怪我させるようなことをしておいて、素知らぬ顔で教室に戻って行った時の廉の表情と瓜二つだ……。
― ヨミジク村 村長邸 ―
魁誠が浮かべる表情に、カミルはただ恐怖を感じていた。復習の為なら、人を傷つけることも厭わない廉の姿と重なる。
「ど、どうもしませんよ」
魁誠の瞳はカミルを捉え続けている。その瞳は、カミルを試しているようにさえ思えた。
「ふんっ、詳細は知らねーてとこか?本当にどこでその名を知ったのか」
頭をポリポリと掻くと、カミルから視線を外した。
「それで?ヨミジクには何をしに来たんだ?」
改めて村を訪れた意図を問う。
アリィはククレストへと頷くと、今回の訪問の仔細を説明し、ククレストが霊峰への入山許可証を魁誠へと提示した。
「あんたらも懲りないな。前回も何の反応も示さなかったってのによぉ」
「でも、今回は違うぞ?なんせ、時の迷い人が同行しておるのだからな」
ティアは得意顔でカミルとリアの姿を見る。
「なに?時の迷い人、だと?」
魁誠の視線が二人の姿を捉える。
「そうさ。この二人は精霊時代からの弾き出された存在。本来この場にいることの無い人間なんだよ」
「それで神来社 廉、か。そんなにオレと似てんのか?」
「はい。年齢さえ差っ引けば、見た目だけなら瓜二つと言ってもいいほどです」
「ふんっ、それは光栄なこった。ヨミジクでは神来社 廉は英雄扱いなんでな」
「英雄?それは一体……」
魁誠は目を細める。
「精霊時代と言っても、まだ帝元戦争も始まっちゃいねえ時期みたいだな」
この人、精霊時代の歴史に詳しいのか……?
「でしたら、帝元戦争についてお話を聞かせてもらえないでしょうか?」
リアが透かさず食いついた。
魁誠の視線がリアへと移る。
「お前さんも時の迷い人か。昔のエルフは銀髪って話は本当だったか。なら駄目だ。過去から来た人間に歴史は伝えられん」
「なぜか聞いても良いですか?」
諦めきれないリアは食い下がる。
「オレらは時を司る元霊様を祀っている。時を犯すことはせんよ」
その言葉は、かつてフィルヒルが語ってくれた『時の流れに反している』という言葉に似ていた。でも、本当に歴史を知ることがいけないことであるのなら、なぜ俺達は強制的に元の時代に戻さないのか。時を司るのであれば、異物である俺達をいつでも弾き出せるはずなのに……。勝手な解釈をしてしまえば、元霊は歴史を変えてもらいたがっている、とも取れるんだ。
「廉……、神来社 廉との繋がりは子孫ってことでいいですか?」
語ってくれないのであれば、誘導して言葉を引き出していくしかない。そこから組み立て予測するしかないんだ。
「ああ、オレは――いや、オレ達は神来社 廉の直系の子孫だ」
「えっ!?」
オレ達?村長以外にも子孫がいるのか……?
「そもそも、ジーク一族ってのが何を指しているのかも知らぬようだな」
「リディスの民、で合ってますよね?」
「それは結果論だ。オレ達はとある人物の血を受け継ぐ者の集まりに過ぎん」
「それが、神来社 廉?」
「その通りだ。オレの名が霧島 魁誠ってのに違和感を覚えなかったか?」
それは名前を聞いた時から疑問に思っていた。でも、廉に姿が似ているせいで話題を先送りにせざるを得なかった。村長の名前にはジークなんて名は入っていないんだ。そもそも、なんで日本式の名前を持っているのかもわからない。
「そりゃもちろん思ってましたよ。ジーク一族なんですよね?なんで名前にジークが付かないんですか?」
「ジークの名は神来社 廉が日本から転生した時に授かった名前の一部なんだよ」
「転生……?」
輪廻転生ってやつだろうか?
「人は命を落としたら、輪廻へと還って行き、やがては生まれ変わる。だが、神来社 廉はまともな転生を迎えることができなかった。本来あるべき流れから外れ、別の世界であるこの世界へと転生してしまったんだ」
「どうし「理由なんて聞くなよ?」」
疑問を投げようとしたが、言葉で制されてしまった。
「オレは元素を司る存在でもなければ、神様なんてものでもない。オレの知ったことではないんだ。要するに、ジーク一族とは、転生した神来社 廉の血を継ぐ者達の集まりってことさ。転生したのがリディスだったから、ジーク一族がリディスの民ってのは間違いではないがね」
村長が廉に似ているのも、覚醒遺伝ってやつなんだろう。
竜の黄昏を引き起こし、帝元戦争にも精霊の黄昏にも関わったとされる廉が英雄と呼ばれる理由がまったく見当がつかなかった。
更なる情報を求めて、カミルは魁誠へと見据えるのだった。




