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トラギエーディヤと恋  作者: 鍋谷葵
発見の夏休み
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38/41

37

短いです。

すいません;;

 思い描いていたことは見事に的中した。

 ただ、僕は避けようの無い事実に茫漠とする。意識は蝉の鳴き声に吸い込まれていって、見えない風に精神は巻かれていく。僕は体だけを取り残して、空に吸い込まれていく。事実、僕の目は今見えてない。僕の目の前は真っ白だ。何もかものが夏の中に溶け込んで、僕が僕として存在していないんだから。

 僕から全てを奪って、僕の存在を融解させたばあちゃんの言葉を僕は知覚を失った中で何とか理解しようと試みる。覚悟はしてたんだ。僕とあいつとの間に忌むべき関係性があるのかもしれないことを、あの日からずっと覚悟してたんだ。

 けれど、いざ直面してみるとそんな覚悟は無に帰した。衝撃は僕の覚悟を打ち砕いて、どうしようもない現実を僕に突き付けてきた。逃れられない運命染みたものを感じる。僕と僕の家族に絡みつく何か嫌な予感を感じてならない。

 だって、そうだ。あいつの口から突発的に出た二つの名前が一致するなんて奇跡的なことは、偶然じゃありえない。何かしら必然的な要因があるはずだ。でも、それがどんな要因なのかは分からない。しかも掛けられた呪文のせいで当の本人すら知らないんだ。超常的な現象があるなんて信じたくは無かったけれど、昨日今日の出来事でこの世には世にも不思議なファンタジアがあるってことを嫌でも信じなきゃいけなくなった。あいつの言う通り、呪文はこの世にあるんだ。科学的に説明できない何かしらの奇妙な力は、僕の周囲を取り囲んで僕の生活を混乱へと導いているんだ。

 ぐちゃぐちゃに混じり合った世界に誘われる僕の現状はこの様だ。真っ白な空間に放り込まれて、どうしようもなく混乱している。ありとあらゆる困惑が僕を襲ってくるんだ。明言化された僕と憑き物、延いては僕のどうしようも無いと踏んでいた自称探偵の予測、それら全てが非現実的なものから現実的なものへと変貌し、僕を途方もない思考の渦の中に落とし込んで行く。

 いや、それでも一つだけ分からないことがある。それはどうして旧校舎にひいばあちゃんの魂が封じ込められていたかっていうことだ。大体、あの屋敷の元々の所有者は古暮貌のはずだ。そして、あの作家のお屋敷を苧環昇が譲り受けて学校として利用したんだ。だのに、どうしてひいばあちゃんが封印されていたお社が夢が跡の裏庭にあるんだ? もしかして、古暮貌と苧環昇が僕の家系に関係しているのか? 確かにあの時、あいつの口からは『古暮』っていう単語が聞こえてきた。しかも、あいつは自分の姓を古暮と言っていた。

 まさか……、古暮貌は僕の曾祖父? ばあちゃんの親父さんなのか? もしそうだったら、僕の生活は呪文の引力に吸い込まれているんだ。趣味から生活から何もかもが、僕の知らないところで働いている奇妙な呪文の影響下にあるってことになる。

 嫌だ。それだけは違う。僕の趣向は全て僕が決めたことだし、僕の家系は呪われてない。僕の家系は母さんが死んでしまったけれど、細々と幸福を紡いで来たんだ。それを否定するような呪文の影響下に僕の、僕らの生活が犯されていたなんて認めたくない。万が一、この影響を認めたとしたら僕は自分を保てなくなる。そんな気がするんだ。

 だから、僕は呪文っていう超常的な存在を認める。けれど、呪文の影響を認めはしない。絶対に認めない。あいつとあいつの記憶を消し去った呪文は、偶然に偶然が重なって僕の家系図の中に組み込まれているにすぎないと信じよう。例え、それが間違っていても良い。今は現実が違っていて欲しいんだ。天動説だって最初は無条件で信じられていたんだ。なら、僕の今の非論理的な推論をほんのひと時だけ認めたって良いじゃないか。

 僕はあいつと関わりない。あいつも先輩と関わりない。ばあちゃんもあいつと関わりない。全部は偶然の産物に過ぎないんだから。


「それで杏子。私にそれを聞いてどうしようっていうんだい?」


「あ、あぁあ」


 僕が超脱した世界に達して、暫時、口を聞けていない現実をばあちゃんは突き付けてきた。誰だってそうだ。質問を投げ掛けられて、質問に返答して、けれど突飛も無い質問を投げ掛けてきた張本人は気絶したみたいに口を利かないなんて疑問に思っても仕方が無い。

 でも、それが分かっていたとしても僕は柔軟な対応を取れるほど僕は出来た人間じゃない。むしろ、こういった状況に陥ると焦りに焦る立ちだ。心の中はこうしてなるべく冷静に保てているけど、脳は精神に従って体を動かすことは出来ない。だから、僕の口は動かないし、目の焦点もばあちゃんに合わない。

 質問前と後で全く異なる態度に、僕の態度にばあちゃんもじいちゃんも困惑している。家族の前じゃ、こんな醜態を見せたことないから当たり前だ。二人は僕の体調を心配する様に、僕の顔色をうかがってくる。けれど、僕にとって二人の心配は僕の身体の焦りを増長させるだけだから、二人が思っている効果と逆なんだ。出来れば、今の僕を見ないで欲しい。今は僕のことを気にせず、先輩と話していて欲しい。まあ、こんな自爆するような話題を持ち出した張本人が言うことじゃないんだけれどね。

ご覧いただきありがとうございます。

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