15
「ありがとう」
「別に感謝しなくても良いのよ。困ったときは、お互い様でしょ?」
少しフランクな、いつもと一味違う態度で委員長は、微笑みながら僕に一歩引いた言葉を言う。奥ゆかしさの塊だ。
微笑んで、委員長は謙遜するけど、僕は本当に助かったんだ。だから、委員長が要らないって言っても、感謝を。
「それでも、ありがとう」
委員長は僕の本探しを手伝ってくれた。それも、他人事なのに、額に汗を浮かべるほど本気で。やっぱり、委員長は良い人だ。僕の目に曇りは無かったみたいだ。いや、僕の審美眼が優れていたわけじゃ無いんだ。ただ、委員長がひたすらに優しい人だったから、こうして僕の手元には上巻と同じように、綺麗な装丁が施された本こと『霊魂と梟の呪縛 下』とかなり古めのロシア語辞書があるんだ。しかも、この二つとも見つけてくれたのは委員長だ。つまり、僕はほとんど何もしていないに等しい。
けれど、そんなことを委員長に言ったら、委員長はきっと否定してくるはずだ。自分の時間を浪費したけれど、人助けのためにその時間を使えて良かったとか、それほど気に入った本を探し出せて嬉しいとか、聖人染みたことを言ってくるはずだ。それは、あまりにも優し過ぎるし、善人が過ぎる。せめて、僕のせいで自分のために時間を使えなかったことに対して、何か一つでも文句を言ってほしい。他人からの優しさを素直に受け入れられない僕だっていうことは、百も承知だ。だからこそ、そんな僕にとって委員長みたいに優しくて、清い人の善行は眩しすぎる。光が強ければ、影も濃くなる。僕の感じる罪悪感は、若干濃くなるんだ。だから、少しでも僕に対する非の言葉を。
駄目だ。そんな暗い上に、独善的なことを願っちゃ駄目だ。そんな下らないことを願ってないで、今は委員長の言葉を、行動を素直に受け止めればいいんだ。大体、金銭の付き合いでも無いのに、そこに重い発想を持ち込まなくてもいいはずだ。もちろん、少しの罪悪感は必要だろうけど、今は、いいやこれからも、それを無暗に増大させても意味が無い。ただ、自分の気を落とすだけだ。
辛気臭い空気は、ここで終わりだ。今は前に向かって、先輩の下へと行こう。放課後を知らせるチャイムが鳴ってから二十分くらい経った。そろっと、あの憑き物の我慢の限界も来るだろうと思う。だから、なるべく早く行こう。
ただ、その前に。流石に、別れの挨拶の一つや二つ、委員長に言わないと。終わりよければすべてよしなんていう言葉があるくらいだ、今までの失礼もこれで清算する。そんなことも、所詮言い訳に過ぎないのかもしれないけど。現在、何もできない僕の頭が弾き出した便宜上の言葉に過ぎないのかもしれない。
下らない。また、僕の悪い癖が出た。とにかく、御託を並べていないで、自分の言うべきことをはっきりと言えばいいだけだ。少し、榊の真似事が入るけど。
「それじゃあ、委員長。今日は、本当にありがとう。今度、何か僕にできることがあったら何でも言ってよ。クラスのことでも、何でもさ。けど、理系の勉強だけは勘弁してほしい。精々、僕にできるのは国語と英語と社会科目くらいだからさ」
「お言葉に甘えて、今度相談に乗ってもらおうかな。また、いずれね」
委員長はクラスでは滅多に見せない、というよりも見せたことの無い優しい自然な微笑みを浮かべた。そして、ゆっくりと、お淑やかな声色を僕に向けた。眼鏡の奥の黒い瞳は、優しい。そんな、あまりにも穏やかな、クラスだとずっと仏頂面で居る委員長からは考えられない柔らかい表情に、僕は一瞬引き込まれた。けれど、その和やかさが僕に向けられたものじゃないってことに、何となく気付くと僕の集中も有耶無耶になった。委員長の優しい瞳は、あくまで僕に向けられたものじゃなくて、僕とする相談の対象に向けられたものなんだから。憧れの視線でしかないんだ。
なら、そんな委員長を今は憧れの世界に放って置いておこう。委員長の芯の通った生真面目さが、崩れるほどの憧れなら、そっちの方が良い。穏やかな世界に身を任せておくのが、一番いいことなんだ。
「それじゃ!」
「さようなら。宮内君」
最後に張った声で、委員長に別れを告げて、委員長も僕の声に物腰柔らかに声色で挨拶を返してくれた。そして、僕は委員長の言葉を聞き終えると、ホント辞書を鞄に入れて、普段よりも数倍重い鞄を手に持って、颯爽とまではいかないけど。それなりの速さで旧校舎へと向かう。
どうか、憑き物の機嫌が悪くないようにと願って。情けないけど、お願いだからへそを曲げていないでくださいよ。
祈りと、焦りと、達成感と、熱気の汗が、一滴僕の顎先から垂れた。汗はとめどなく溢れる。けれど、僕は暑い校舎の中を走る。目的達成のために、僕自身の初恋のために、余計なお節介のために、何より僕のために。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「暑いし、疲れた……」
走り終えた僕の貧弱な身体は、休息を欲していた。けれども、休んでいる暇はない。とりあえず、旧校舎に入ろう。少しは涼しいだろうしね。
「涼しい……」
疾走に足の力を奪われて、よぼよぼとなった足取りで、旧校舎に入ってみると、旧校舎の廊下の窓や、部屋の窓はすべて開いていた。きっと、先輩が全部一人で開けたんだと思う。普段だったら自分は傍らに佇んで、全部僕にやらせるけど、今日は僕が来なかったから、一人で全部やったんだ。そんな気がする。
もしも、そうだったら僕は先輩にどんな顔をして会いに行けばいいんだろう? まともな話し相手が僕と椿さんくらいしか居ないのに、その一方は仕事で、その一方は連絡も何も入れずに一人で何かをしていたなんて言うのは、ちょっとした悲劇だ。過保護かもしれないけど、それでも僕は先輩を一人にさせたくない。孤独な人を孤独なままの時間で、過ごさせたくないんだ。
独善だ。これもやっぱり、ただ気持ち悪い独善だ……。家族でもなんでもない赤の他人なのに、そんな親心を抱くなんて言うのは独善に過ぎない。僕なんて所詮は、他人なんだ。友達? 後輩? 家族でもなんでもない赤の他人よりも少しだけ友好的な人に過ぎないんだ。
屈折した愛……。
「そんなものを一々気にしちゃ、どうしようもない。心が鬱屈するだけだ。なら、早く、先輩の下へ会いに行こう。それこそが、今僕のすべきことなんだから」
心がナーバスに満ちる前に、早く先輩に会いに行こう。目的地は直ぐなんだ。階段を上って、扉を開ければ、すぐそこに先輩は居るんだ。
僕は靴を脱ぎ捨てる。乱雑に投げられた靴は軽い音を立てて、コンクリートの土間に転がる。普段だったら、綺麗に治す。でも、今は進まなきゃならない。やるべきことが、目の前にあるんだから。だから、スリッパも履かない。蒸れる靴下のまま、僕は玄関に足を上げる。今日、身体に鞭を打つのは、これで最後だ。今日最後の仕事で、今日最大の困難だ。本を見つけるのもよっぽど面倒臭く、心臓に動悸を覚える困難だ。しかも、僕の手札は悲しいことに映画なんて言う短絡的なものしかない。それは、あんまりにも子供っぽい。
だけれど、切れるカードを全て切ってからじゃないと本当にそれが子供っぽいのかは分からない。稚拙かどうかは、他人が見てみないと分からないものだからね。良い訳なのかもしれない。詭弁なのかもしれない。本当は、自分の不用意が招いた結果の細いただ一本の蜘蛛の糸に縋りたいだけなのかもしれない。それでも、僕は自分の糸に縋ろう。
急いで歩く、音を立てながら階段を歩く、古めかしい木材が軋む音は心地が良い。身体に吹きつける青い匂いを含んだ風も心地良い。今なら、緊張も何もないと思う。なんたって、わずらわしい蝉の音ですら心地よく聞こえるんだから。
そして、僕は息を荒げて扉の前へ、文芸部部室の扉の前に立つ。いつもは初恋の先輩会える希望の扉も、今日は不気味な扉に見える。真鍮のドアノブすらも不気味だ。けれど、僕は今、その不気味さに対抗できる精神を持っている。それだけじゃない。多分、今のこの気持ちをもってしてなら先輩に告白できると思う。小さくて、臆病な自分を守るだけの心しか持ってなかった僕だけれど、今のこの心はそんな葦とは違う。根を張っている。力強く、自分の力で立っているんだ。だから、誰とでも、何とでも言いたいことを言えると思う。
僕はこれから、憑き物と立ち会う。そして、その傍らで本を読まなきゃならない。多分、あの憑き物は僕に興味を寄せてくると思う。もしも、そうなっても構わない。変に隠すよりも堂々としていた方が良いんだ。変に隠そうとするから、人は人に注目するんだ。だから、やることは堂々と見せよう。怖いものなんてないんだから。恐れるものなんてないんだから。隠すものなんてないんだから。赤裸々に、自然体で居よう。
色々な覚悟を決めて僕は、ドアノブに手を掛ける。それから、息を飲んで回す。そして、押す。胸は動悸が激しくて痛みすら感じるほどのものだけれど、とにかく部室に入る。
「おお、やっと来たか少年。待ちくたびれたよ。その様子、儂との契約を忘れていないようだな」
良い香りの風が吹く。
そこにはやっぱり先輩が居た。受け答えたのは、先輩じゃなくて妖しい雰囲気を漂わせる憑き物だけれど確かに先輩は居る。ソファーにだらしなく体を横にして、手元には半分ほどまで読まれた文庫本を持って、胸元を開けて白い肌を見せる先輩が居る。
普段とは違う様子の先輩に、僕は目を奪われた。スカートから覗く白くて、肉付きの良い艶のある足は扇情的だ。でも、中身が違うっていうことを打ばれた瞬間に理解すると、心の中で黒いものが渦巻く。だから、僕は先輩の、憑き物の顔だけを見る。
「忘れていませんよ」
心が覗かれていようとも、出来るだけ平然とした言葉を言う。なけなしの抵抗だ。
「ふふふ、なら良い。初心な少年」
僕の抵抗を小さく上品かつ妖艶に笑いながら憑き物は、僕に細めれた赤い瞳を向ける。そして、開けられた窓から青い風が吹く。先輩の匂いが、青い匂いと混ざって僕の鼻腔をくすぐる。緊張は少しだけ、和らぐ。弛緩されようとも、僕の心に決めたことは変わらない。
やるべきことはやらなくちゃ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それで、儂をどうやって喜ばせる?」
憑き物は、相変わらずソファーの上に寝そべりながら人間らしくない妖しい微笑を浮かべて僕に話しかける。とてつもなく失礼な態度だけれど、そこは先輩の身体に免じて許そう。
うん、でもこっちはキチッとソファーに腰を下ろしてるんだから、ちょっとくらいは配慮してほしい。ほんのちょっとした願望だけれど。
違う。今は、そんな態度的なことはどうだって良いんだ。さっさと本題に入らないとだ。
「僕はあなたをどうやったら喜ばすことができるのか、どうやったらあなたを満足させることができるのか昨日の夜、米粒程度考えてみましたよ」
「嘘を吐け。それなりに、悩んでいただろ。無理な強がりはしなくて良い。少なくとも儂の前じゃ、そんな強がりは見透かされるんだからな。それで、少年。昨晩のお前の思考は、何に辿り着いたんだ? 教えてくれよ」
僕のなけなしの強がりを憑き物は、心底愉快そうにクスリと笑ってなし崩しにした。無駄だってことは分かっていたけれど、それでも、目の前で笑われると腹が立つな。けれど、ここで心の強みを崩しちゃいけない。プライドがあんまりない僕でも、譲れないところはあるんだ。
「ええ、じゃあ教えますよ。僕は、僕自身がどうすれば良いのか分かりませんでした。ですから、他力本願の娯楽を用意しました。これが、僕の悩みの末です」
「ふふふ、なるほど。それもまた面白そうだ。なら、早速それを見せてくれよ。早急に頼むよ」
僕の譲れない強がりは、またしても有耶無耶にされてしまった。うん、もう自分のくだらないプライドなんてどうでもいいや。とにかく、こいつにこれからの僕の時間を邪魔されなければ何だって良いんだ。僕にとって、重要なことはそれだけなんだから。
ならこいつの言う通り、僕は動こう。僕は、ソファーの上に置いた鞄の中からノートパソコンと一本のDVDを取り出した。ちなみに、映画は『風と共に去りぬ』だ。原作の方は読んだことがあるけど、この映画は見たことが無い。それは、この映画がかなり古めの映画だからだ。親父曰く超名作らしいから、今度みてみよう。そして、僕はどうでも良いことを抱きながら、見たことも無い映画のパッケージとパソコンを寝転がる憑き物へと向けた。
「なんだこれは? 黒い板となんだ?」
「こっちの方が、パソコンっていう機械で、こっちの薄い箱の中に入っているのがDVDです」
そう言って僕はパソコンの電源を点けて、DVDの箱を空けて円盤を取り出す。ただ、これだけの動作なのに憑き物は目を輝かせて、パソコンと円盤を身を乗り出してまじまじと見る。胸元が、ちらりと見える。
「へえ! それで、これはどうやって使うんだ!? そんなタイプライターみたいな板と光る煎餅みたいやつとで!」
「落ち着いてください」
どうやら憑き物は、DVDとパソコンを知らないらしい。いや、知らないのは当然か。なんたって、こいつが封印されていたお社は、大分古かったし。一体、何時からあのお社はあるんだろう? ロシアの貴族がここに居を構えてから? それとも苧環昇の師匠が家督を継いでから? それとも苧環昇が師匠から受け継いだ時から?
分からない。でも、少なくとも戦前からあると思う。だって、戦後、ここは学校として使われたんだから。だから、お社を建てたとしたら何らかの記録が残ってるはずだ。けれど、学校にそんな記録は無かった。いや、詳しくそう言った書類とかを読んでないから何とも言えないけどさ。それでも、お社なんて言う神様を祀るようなものを建てたのなら、校長が一回は朝会とかで言うはずだ。でも、校長はそう言ったことを一回も話したことが無い……。
謎だな。
とりあえず、今は考えても頭を悩ませるだけのことを考えるのは止めておこう。今は、興奮するこの憑き物に諸々の説明をして、注意を逸らさないと。そうしないと、ゆっくり考えることも先輩を憑き物から祓うことも出来ないんだから。
「これはですね、色々な作業が出来る機械なんですよ。文章を読んだり打ったり、家計簿を作れたり、情報を集められたり、本当に色々なことができる機械がこのパソコンです。そして、この円盤はフィルムみたいなものです。映像の情報が綴じられている代物です」
「なるほど、何となく理解できた。ふふふ、それでその機械の中に、円盤を入れて映像を見るという訳か?」
どうやら、この憑き物は意外と勘が良いらしい。
そこまで分かっていたら、後は自然に任せよう。そして、しばらくの間僕から注意を逸らしてもらおう。映画の世界へようこそだ。
僕は、パソコンのDVDレコーダーの中にディスクを入れて憑き物へとディスプレイを向けた。僕が作業をしている中、何時の間にか憑き物は体制を整えていた。凛として、けれどもワクワクとした視線で、ライオンが吠えるオープニングを見ている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから、しばらく時間が経った。時計の短針が一周半くらいしたと思う。若干、陽も傾いてほんのりと空もオレンジがかってきてる。
僕はやっぱり、鞄の中から筆箱とメモ帳と、例のロシア語の本と辞書を取り出して、それにスマホの翻訳機能も使って、頭を抱えながらも滅茶苦茶頭を回して文字を訳す。けど、全然捗らない。メモ帳に色々単語を書き出したりしたみたけど、全然分からない。本当に、意味が解らない。
大体、女性名詞だとか男性名詞だとか中性名詞だとか意味が解らない。なんで、この単語何個も意味があって、しかも書き方が違うんだ? この言語考えた人は、頭がおかしいんじゃないか? いや、でも確かフランス語もドイツ語も性別で言葉が別れるんだっけ……。
うん、やっぱり英語が公用語になるって当然なんだな。大英帝国様様だ。というか、世界から見れば日本語って言ってるくせに、三つも違う言葉を使う僕らもおかしいのか。自分の常識を世間に押し付けちゃいけないな。
そんなことは置いておいて、本当に分からない。本当に未知の言語だ……。
キリル文字恐るべし。
「どうしよ……」
両膝に両肘をついてどうしようないことを何とかしようとするけど、本当は何ともならない溜息を吐く。扇風機の風と窓から吹きこむ青い風が僕の頬を摩る。涼しい。
けど、それは冷や汗が風で冷えたからだ。だから、心地のいい涼しさじゃないんだ。万事解決に向かって突き進む順風なんかじゃない。困難を極める向かい風でしかないんだ。心を焦らせるそんな風だ。
何となく詩的で、意味も無い言葉は、次々と僕の頭に浮かんでくる。本当に意味も無い堅実逃避の言葉に過ぎないんだ。分かってるさ。けど、目の前にあまりにも高い絶壁を見せられると、そんな言葉しか出なくなる。
だって、まだ上巻の二ページしか進んでないんだ。しかも、文法も拙くて支離滅裂な意味で。それはそれは、諦めたくもなる。でも、根無し草の僕がここまで頑張ったってことは褒めて欲しい。
いや、こんなの言い訳だ。所詮、出来ないことを目の前にしてどうしようも無いことか目を背けているだけなんだ。
分かった。なら、ここで悲観も終わりだ。出来ることはやろう。僕の集中力はまだ続く。根無し草だけれど、風が吹こうとも集中できる分だけは集中しよう。ただ、この時間でこれだけってなるとこいつを読み解くには相当な時間がかかる。
「……うん」
悲観してばかりもいられない。やるって決めたんだから、最後まで貫き通そう。ここで諦めたら、榊の言う通り女々しいままで終わっちゃうからね。
机の上に投げた開きっぱなしの本を見て、辞書と鉛筆を手にとって、難題に立ち向かう。睨めっこの再開だ。
「少年。そんな途方もない作業に時間を費やすくらいだったら、儂が読んでやろうか? その文字だったら儂は読めるぞ」
ただ、僕が覚悟を決めた瞬間、映画に集中していたはずの憑き物がにやりと悪戯っぽく笑いながら僕に声を掛けてきた。
「なんで?」
「ああ、どうして映画を見てないかという話か? それだったら単純なことだよ。確かに面白い映画だけど、長くてねえ。それと、お前の集中している姿の方が面白かったから儂の視線は移ったんだよ。本当に、似ているよ……」
「誰に?」
「さあ、誰だろうね。儂にも分からないよ」
どういうことだ? いや、どうしてこいつが僕に悪魔のささやきをしてきたっていうことは分かってるんだ。人の心が読めるんだから。けど、僕は誰に似ているんだ? 一体、こいつは何者なんだ? 本当に、梟の憑き物なのか? それもこれも全部、この本の中に書かれてるのか?
疑問塗れだ。こいつと、話していると頭の中は疑問で飽和する。
「それで、どうする? 儂が憎かろうと儂の力を借りるか? 例え、それが桔梗の意に反することだとしても。儂にとってはどっちでも良いぞ。そこに儂を再び封じ込める術が書いてあろうとも、事の成り行きとして処理するだけだしな」
疑問で思考があんまり回らない僕に、憑き物は再び提案してくる。
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