第一章4 『予言の神子』
師匠が来て一年が経った。
ということで俺も八歳になった。俺も後七年で成人だ。早いものだな。
魔法の方はというと、地獄の鍵開け修行を終えた俺は火、水、風、土全てを上級まで、ソフィアは水、風、土を上級まで使えるようになっていた。
師匠が言うには俺もソフィアも物覚えがいいらしく、この年で上級魔法まで使えるようになるのはほんの一握りらしい。
だが、普通はここまでだ。ここから先は本当の天才しか行けないような領域だ。神級までいっている師匠は本当にすごいな。
魔法と並行して治癒魔術、解毒魔術、アンデット魔術、混合魔術など諸々学んでいっている。
ここら辺は俺は苦手らしく、ほとんどソフィアに遅れをとってばかりだ。どうにもこうにも俺は不器用らしい。
そんなこんなでなかなか充実した日々を送って来たのだが、一つ周りの環境でも変化があった。
村の住民の俺に対する当たりが優しくなっていた。いや、俺にと言うよりはアルクトゥルス家全員にといった方が正しいだろうな。
これも父様と母様の努力の賜物と言っていいだろな。
この一年の振り返りはこんなものでいいだろうな。こんな感じで毎日楽しく過ごしていっているがある日事件は唐突に起こった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「師匠、いつになったら魔術を教えてくれるんですか?」
「そうだな、そろそろいい頃合いかもしれん。明日から魔術の修行を始める。
いいな?」
「「はい!」」
「それと、リアム今日はもう終わりにする。早く家に帰ってやれ」
「.....帰ってやれとはどういう事ですか?師匠」
どういうことなのだろうか。今日は特に何もなかったはず。
誰の誕生日でも父様と母様の結婚記念日とかでもないしな。
師匠はたまになにか見透かしたようなものいいをするが言葉下手すぎてその真意は毎回よくわかんないんだよなぁ。
「.....すまん、まだ聞いていないのか。
....だが今朝あった時は.....まあいい、楽しみはとっておくべきだ。
帰れば分かる。早く帰れ」
「え、ちょっと教えてくれないんですか?気になるじゃないですか、そこまで言われたら」
「何度も言わせるな。帰れば分かるだから、早く帰れ」
「でも...わかりました。ソフィア帰ろう!」
「え、あ、うん、分かった。ばいばい、おじいちゃん!」
別れを告げていたソフィアを尻目に俺はそそくさと帰路につき始めていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ソフィアにも別れを告げ、家の前についた俺は早々に事情を把握した。
父様が家の前を「ヒャッホー、やった、やったついに2人目だ~!」とか言いながら庭で走り回ってたからだ。
あれで今年で25になるというのだからもう少し節操を持って欲しいものだ。
とういうことで俺も母様から「あなたに兄弟が出来たのですよ」という正式に報告を受け、カッコいい威厳のあるお兄ちゃんになることを決意して、父様と一緒に庭中を走り回った。
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そんなこんなで家族の俺と父様の嬉しい、恥ずかしの一幕は終わった訳だが、その夜の晩御飯の後さっそく第一回家族会議が開かれた。
「というわけで、第一回家族会議だが今回は今後の方針について話し合おうと思う。
異論は?」
「ないです!」「ないですよ」
「よし、さっそく本題に入ろうと思う。
兄さんに頼めばある程度の支援をしてくれると思うが、俺としては家族三人で何とかしてしていきたいと思っている。あの家に頼るのは癪だからな。
ということでだな、クレアが安定期に入るまで、俺はなるべく家にいようと思っている」
「でも…..あなた仕事は大丈夫ですか?」
「何とかなると思う。まあ、そこらへんはどうにかするさ」
「まあ、あなたがそう言うんでしたら」
「それとリアムお前もしばらく魔術の勉強を休んで家の手伝いをしてもらう。いいな?」
マジか、明日から魔術の勉強を始めるつもりだったのに。
んー、いや、これも家族の生まれてくる弟か妹のためだ。我儘を言わずに頑張ろう。
「分かりました、父様。....でも、少しだけ庭で練習するぐらいはいいですか?」
「ああ、それくらいは構わん。ではこれで家族会議は終了だ。明日から頑張っていこう」
「「お〜!」」
「あ!あなた子供の名前を考えておいてくださいね」
「任せておいてくれ!リアの時くらいカッコいい名前を考えておくよ」
てな感じで決まったが、家事も碌にやったことない男と子供じゃ家が回る訳もなく。早急に第二回家族会議が開かれ、メイドを雇うことが決まった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
メイドがくるまでの一週間は阿鼻叫喚の毎日であった。
あれ水が溢れただの、皿が割れただの、包丁で手を切っただの特に父様の悲鳴があちこちで響き渡っていた。
そして、ようやく....
「エルダ・レウシアと申します。今日から一年間程よろしくお願いします」
エルダさんは寡黙な人で黙々と仕事をこなしていった。俺も父様も手伝っていたのだが逆にエルダさんの仕事を増やしてばかりなので2人ともクビになった。
そう言うわけで、俺はいつもの練習場で師匠と珍しくソフィアがいないので2人で魔術の練習をしていた。
『絶対零度』
<リアムの掛け声と共にあたりの草花が一瞬で凍りついていく>
「よし、水と火の混合魔術は順調なようだな」
「はい!威力の調整もスムーズにいくようになりました」
「....そうか、じゃあ今日はここまでだ。家に帰って母親の手伝いでもしてやれ」
「はい」
帰るのはいいんだが、家に帰ってもエルダさんが殆ど全部やってしまうから暇なんだよな。
よし、帰りにソフィアのとこによってから帰るか。
「...あ!師匠ひとつだけ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「ああ、構わん。言ってみろ」
「何故母の妊娠のことをわかっていたのでしょうか?」
「.......」
あれ?なんかまずいこといったかな。師匠が黙りこくってしまった。
「......昔、俺にも妻がいた。だから、少しお前の母親に会った時に気づいただけだ」
「....そういうことですか。なんかすみませんでした」
「謝ることはない。過ぎたことだ」
「....そうですか。では、僕は帰ります」
「ああ、気をつけて帰れ」
「はい、では」
少し失礼なことをしてしまった。次からは気をつけていこう。誰にだって触れられたくない過去があるはずだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
10ヶ月が過ぎた。
そろそろ母様の出産予定日らしいので、俺も父様もここ一週間は家にいて常に臨戦体制だ。
そんな中、その時は突然やってきた。
「でね、母様今日は水と風の混合魔術を練習したんですよ」
「そうなのね、今日も頑張ったのね。えらいわ」
「はい!当然です!」
「うふふ、リアムはきっとかっこいいお兄ちゃんになるでしょうね」
「はい、カッコ良くて逞しい兄になるよ.....え?母様?」
母様が突然お腹を抑えて倒れこんだ。
どうして、いや産まれるんだ。
落ち着け。こんな時のために父様と何度も練習したじゃないか。
まずは、父様とエルダさんを呼んでこよう。
「母様、今父様とエルダさんを呼んできます」
――ウィルアルク・アルクトゥルス視点――
子供が産まれる。2人目の子供だ。
だが、俺は前回と同じであまり役に立ってはいない。どうにも張り切ってしまうと空回りしてしまうようだ。
それに今回は少し心配なこともある。
杞憂だと信じていたいが、兄さんから手紙で『予言の神子』が死んだことを知らされた。何故今このタイミングなんだ。
次の神子はまだ産まれていないようだ。このタイミングでなんて、万が一を考えるとだんだんと悪い方向に思考が傾いてしまう。
いや、きっと大丈夫だろう。そもそもあれは本家に産まれるはずだ。家を出た俺はその因果からは外れているはずだ。…..だから大丈夫だ。
「旦那様、旦那様、大丈夫ですか?
少々顔色が悪いように見受けられますが」
「あ、いや、大丈夫だ問題ない。
それより何かようか?」
「そろそろ夕飯が出来上がりますので、奥様とリアム様をお呼びになってよろしいですか?」
「ああ、そうか、俺が呼んでくるよ」
「ありがとうございます」
少々険しい顔をして考え事をしてしまってたようだな。クレアとリアムには心配かけないようにしないとな。
「父様!」
「ん?どうしたリア。そんなに焦って」
「母様が母様が産気づきました」
「え!?もう、きたのか。
….よし、俺は今からお医者さん、ナータさんを呼んでくるから。
クレアのことはエルダさんを呼んで出産の準備をしておいてくれ。
わかったか、リアム。できるか?」
「はい父様」
「よし、任せたぞ。リアム」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「クレア!医者を連れて来たぞ」
「旦那様出産の準備はできております。あとはお医者様にお任せしましょう」
「ありがとう。ナータさん、クレアと子供をお願いします」
「はいはい、任せておきな無事に終わらせるから」
それからのことは俺はあまりはっきりと覚えてはいない。クレアが俺の手を強く握り返してくる感触だけが俺の脳に残っていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
クレアは難産だった。
赤ん坊が逆子で少々時間がかかってしまったようだ。俺はこんな時にクレアの手を繋いでおくことしかできない。本当に俺は家を飛び出した時から何も変わっていない。
男の子だった。クレアに似た赤毛を持つ元気な男の子だった。
だがそこで一つ問題が起こった。
いるはずの無いもう一人の赤子がクレアの中にいるのだ。誰も医者もクレアさえも気づいていなかった。
お腹の中にいるのが双子だということに。
「….え?いや、そんな筈は。確かに一人だったはず」
「ナータさん、しっかりしてください。どうすればいいか、指示をください!」
狼狽していた、俺とナータさんよりも先にリアの声が部屋の中に響いていた。
そうだ、まだクレアは戦っているのだ。今は子供とクレアの為に動かなければ。
「とりあえず、治癒魔術をかけれる人を病院に戻って呼んできてくれないかい」
「わかった、俺が――」
「….いや、その必要は無い」
扉の前には先程までいなかった、長身の長耳族の男が立っていた。
「クランスさん!けど、どうして?」
「….それは後だ。そこの医者、俺は治癒魔術を使える」
「本当かい!誰だかわかんないが、母体の体にだいぶ負荷がきてる。下手なことはできないよ、あんたできるのかい?!」
「ああ、何度も経験がある。まかせろ」
「じゃあ、あんたに任せるよ。クレアさん、もうちょっと一緒に頑張るよ!
ウィル!ぼーとしてないで奥さんを励ましな!」
「あ、ああ!わかった。クレアもう少しだ。一緒に頑張ろう!」
そこから、3時間ほどして、二人目の産声が上がった。
その子は父や、兄のような金色の髪色でも、母親のような赤毛でもない透き通るような白髪の幼女であった。
彼はその瞬間すべてを悟ってしまった。自分の我が子が神子になってしまったということを。
――クレア出産の翌朝――
「昨日は本当にありがとうございました、クランスさん」
「ああ、構わん。少し見えたのでな」
「ああ、だからあんなベストなタイミングで来れたんですね」
「ああ、そういうことだ」
「…..それとクランスさん、やはりあの子は――」
「ああ、そうだ。『予言の神子』で間違いない」
「やっぱり、….そうですか」
なんでなのだろうか。家を飛び出してクレアと結婚して、リアムが産まれてずっとうまくいっていた。
このまま、あの家とは関わらずに幸せに生きていくつもりだった。….なのに。
娘に大きな重荷を背負わせてしまった…
「顔を上げろ、ウィルアルク。神子だと言ってもお前の娘に変わりはない。
これも、我々『七星座』の子孫の生まれながらにしての宿命だ。だが、所詮そんなことは子供には関係ない。だからこそ、お前が父親らしく、家族を守ってやれ。俺のようにはなってはダメだ」
ああ、そうだ。あの子も俺の娘なんだ。神子だからとかは関係ない。そんなのはあの家を出た俺達にはもう関係ないんだ。
だから俺が家族を守っていこう、この命に変えてでも。
「じゃあ、俺はもういく。….最後に一ついいか」
「はい、なんでしょう?」
「お前の息子と娘の名前を教えてくれ」
「アレクとルナフィリアです」
「そうか、いい名前だ。きっと、良い子に育つはずだ。
….それと、リアムに明後日から練習を再開すると伝えておいてくれ」
「はい、では本当に今日はありがとうございました」
「ああ」
とりあえず、あの家にはこのことは伝えてはダメだ。
ルナのためにも家族のためにも俺はもっと覚悟を持って父親をやらなければいけない。
とりあえず、今日はクレアにたくさん感謝を伝えよう。産んでくれてありがとうと。そして二人でこれからのことを話していこう。




