2-3 美也子・3「バネッサの部屋」
美也子がバネッサの家庭教師となり、数ヶ月が経った。
バネッサはときどき採取師見習いとして数日の間、山で修行している。
バネッサは山や森が好きなようだ。楽し気にしているので心配はしていないが。
ただ、その間、バネッサと会えないのが寂しい美也子だった。
◇ ◇ ◇
美也子はバネッサの私室に不満を持っていた。
元々はギルのマンションの物置部屋だった窓の無い部屋。
改装したと聞いているが色気のないコンクリートの壁に裸電球。
金属フレームの組み立て式の二段ベッド。上段には段ボール箱が数個。
ベッドの上段のフレームにワイヤー製のハンガー。いくつか洋服が下がっている。
殺風景にも程がある。
「これが女の子の部屋と言えますか、ギルさん、私は怒ってます!」
ギルとバネッサと美也子はホームセンターに行く。
バネッサが気に入った、洒落た天井照明や小さなクローゼットを購入した。
ギルの許可を貰い、美也子はバネッサの部屋の改装を決行。
ギルとバネッサが山へ向かった当日、兄の工務店の職人さんに手伝ってもらい、壁紙の張替えをした。バネッサが好きな薄い緑色の壁紙だ。余った壁紙を貰って二段ベッド上の段ボールに貼った。
中古だが可愛くて小さなドレッサーを置いた。美也子からのプレゼントだ。
クローゼットを置き、裸で掛けてあった洋服を収納、天井照明も取り換えた。
最後に美也子の実家のリビングにあった大きな風景画を壁に飾る。
窓の代わりだ。これで大分ましになっただろう。
バネッサちゃん、喜んでくれるといいな。
美也子はバネッサに早く会いたくて仕方が無かった。
◇ ◇ ◇
数年後。
ギルが事務所を別の雑居ビルに作った。
費用的には厳しかったがいつまでも自宅兼事務所では、格下に見られる。
その甲斐もあったのか、その後、ギルの商会は急成長した。
「ギルさん、余計なお世話かもしれないのですが」
「な、なんでしょう、美也子先生」
少しドキリとするギル。美也子先生のこの手の切り出し方は、怒られる予兆である事が多い。
「ここが事務所でなくなるのであれば、バネッサちゃんのお部屋を応接室に移してはどうでしょう」
「あー、なるほど。確かにそうですね。どうだ、バネッサ」
そんなことかと安堵するギル。バネッサに水を向ける。
「……今の、部屋が、好きです」
「そうか?あっちだと窓もあるし広くなるぞ」
「いいのです、ごちそうさまでした」
そのまま、バネッサは無言で食器を洗い、自室に入っていった。
「なんだあ、あいつ」
余計な事を言ってしまったかもしれない。美也子はバネッサに謝ろうとコーヒーの残りを飲み干した。




