6-4 転生者調査・2
日が傾き始めていた。
タケとしては、このまま炭焼き小屋へ踏み込むより、先に安全な野営地点を確保したかった。
小屋の調査は、明日の朝でも遅くない。
しかし、その判断を変えたのは、ハナの対人センサーだった。
反応、二。
金属反応なし。
動きが鈍い。
負傷者の可能性あり。
位置は、炭焼き小屋の周辺と思われた。
クリスとエミリアは採取師だ。
通常の採掘であれば、阻害装置を使用しているはずである。
だが今回は、転生者の捜索任務だ。
対人センサーを妨害する阻害装置を稼働させていたとは考えにくい。
ならば、この反応が二人である可能性は高い。
「タケ。小屋を近くで確認したい。一旦離れる」
「分かった。俺と先輩は、あの高台へ移動する。後で合流しよう」
ハナは短くうなづいて、森の奥へ消えた。
◇ ◇ ◇
ハナは、木々の陰から炭焼き小屋を観察していた。
施設の大半は炭焼き用の窯で、人が寝泊まりする場所は、粗末な小屋が一棟あるだけだ。
対人センサーを打つ。
反応は、やはり二つ。
小屋の内部だ。
だが、動きはない。
小屋の前方は伐採されており、身を隠す場所が少ない。
近づくなら、裏手からか。
そう判断し、いったんタケたちと合流しようと身を引いた。
その瞬間だった。
背後。
反射的に、ハナは前方へ飛び込んだ。
地面を転がりながら、腰の二本の刀を抜く。
直後、頭上を風切り音が通り抜けた。
追撃。
かろうじて避ける。
棒状の武器。
ハナは立木を盾にして距離を取り、相手を視認した。
上半身裸の巨漢。
長く太い竹を構え、無言で立っていた。
「待って。私は敵じゃない。武器を下ろして」
返答はない。
転生者か。
日本語が通じないなら厄介だ。
巨漢が踏み込む。
竹が横薙ぎに振るわれた。
ハナは後退しながら受け流す。
腕に痺れが走った。
重い。
しかも、速い。
◇ ◇ ◇
高台へ向かっていたタケとバネッサの耳に、戦闘音が響いた。
カーン。
カン、カン。
二人は同時に振り返る。
バネッサが無言で駆け出し、タケも後を追った。
炭焼き小屋近くの開けた場所。
ハナと巨漢が交戦している。
男は森を背に位置取りし、ハナの退路を断っていた。
ハナが接近を許した。
つまり、相手は阻害装置を所持している可能性が高い。
今は戦闘中で移動しているため、阻害範囲が狭くなり、視認できているだけだろう。
だが、問題はそこではない。
あの巨体。
特殊警棒とナイフしか持っていないタケでは、とても相手にならない。
その瞬間。
森の横合いから、バネッサとタケの前に、もう一人現れた。
ハナと戦っている男と瓜二つの大男。
同じように長い棒を抱え、無言で進路を塞ぐ。
二人いたのかよ。
タケの背中に、冷たい汗が流れた。
◇ ◇ ◇
二人目との距離は、まだある。
バネッサは即座に判断した。
ハナへの合流を優先。
タケへ「下がって」のハンドサインを送りながら、巨漢の左側を抜けるように走る。
走りながら足元の土を掴み、男の顔へ投げつけた。
目潰し。
巨漢が怒声を上げる。
その一瞬の隙で、バネッサはハナの元へ向かった。
タケは動揺していた。
ここで誰かが情報を持ち帰らなければ、任務は完全失敗になる。
役割的には、自分だ。
逃げるべきだ。
頭では分かっている。
だが、交戦中の二人を見捨てて足が動くほど、割り切ることができない。
◇ ◇ ◇
ハナは、足音だけでバネッサの接近を察していた。
だが、自分は既に左脚をやられている。
走って逃げ切るのは難しい。
視線を向けると、バネッサは別の巨漢に追われながら、こちらへ向かってきていた。
――先輩、二人で心中でもするつもりですか。
タケの姿は見えない。
離脱したなら、それが正しい判断だ。
竹の突き。
蹴り。
横薙ぎ。
一撃ごとに重い。
ハナは防戦しながら、敗北を覚悟していた。
後年。
タケとハナは居酒屋で、この日の夕暮れを何度も話題にすることになる。
「あの時のバネッサ先輩、ほんと格好良かったよね」
「社長が秘蔵っ子扱いしてた理由、あれで分かったよ」
「ずるいって。あんなの、一生脳に焼きつくじゃん」
◇ ◇ ◇
ハナに接近するバネッサ。
夕日が逆光となり、その表情は見えない。
バネッサはハナの肩を踏み台にして、大きく跳躍した。
空中で、ハナへ鋭いハンドサインを送る。
右に逃げろ。
その刹那。
バネッサの右手から、青白い光が溢れ出した。
「槍……?」
遠くから見守るタケが、目を見開く。
長物など持っていなかったはずの彼女の手に、光り輝く獲物が握られていた。
虚を突かれた巨漢が、わずかに混乱する。
バネッサはその隙を逃さなかった。
左手でサバイバルナイフを引き抜く。
そのまま、ナイフを後方へ一閃。
背後から迫っていたもう一人の男の腿に、深々と突き刺した。
悲鳴が上がるより早く、バネッサは着地と同時に最初の巨漢の股間をくぐり抜ける。
そして、その背後へ回った。
槍の石突が、容赦なく男のこめかみを打つ。
巨漢が沈む。
バネッサは、そのまま流れるような動作で腰を回転させた。
腿に刺さったナイフを抜こうとしていたもう一人の男。
その顎へ、石突の一撃を叩き込む。
二人の大男は、声も出せずにその場に崩れ落ちた。
静寂。
遅れて、森に虫の声が戻ってくる。
◇ ◇ ◇
「タケちゃん、そっちの人、しばる、お願いします」
「ハナちゃん、足、大丈夫? わたし、リュック、持つね」
戦闘後のバネッサは、いつもの調子に戻っていた。
タケは、それどころではない。
――何だよ、あの槍。
――俺、見ちゃいけないもの見た?
――後で消されたりしない?
――絶対ギフトだろ、あれ。
一方、ハナは別方向で混乱していた。
――今まで敬語だったけど、もっと敬わないと駄目じゃない?
二人の巨漢は縛り上げ、大木へ拘束した。
既に意識は戻っていたが、暴れる様子はない。
双子なのか、驚くほど顔が似ている。
短い言葉を交わしているが、日本語ではない。
転生者で間違いないだろう。
ただ、複数人の同時転生は極めて珍しいケースだった。
クリスとエミリアは衰弱していたものの、命に別状はなかった。
拘束はされていたが、水と最低限の食料は与えられていたらしい。
ハナは左脚を負傷。
タケには事情聴取と状況整理が必要。
結果、バネッサが単独で山を下り、ギルへ連絡を入れることになった。
◇ ◇ ◇
炭焼き小屋の前。
タケとハナは座り込み、報告書用の情報整理をしていた。
戦闘の流れを確認し終えたところで、ハナが空を見上げる。
「……何なの、あの槍。格好良すぎでしょ……!」




