6-5 後日談
■後日談・1
三日間の捜索予定だった依頼は、二日目で完了した。
消息を絶っていた採取師二名――クリスとエミリアの救出。
さらに、転生者二名の保護。
商館では、タケたちはしばらく英雄扱いだった。
「まあ、炭焼き小屋が怪しいって最初に当たりつけた俺が、一番すごかったんだけどな」
焼肉屋での慰労会。
ギルが得意げに肉をひっくり返す。
タケは烏龍茶を飲みながら、
――山小屋は外しましたけどね。
と、心の中で突っ込んだ。
◇ ◇ ◇
転生者の二人は、兄弟だった。
兄弟同時転生は極めて珍しい。
幸運だったのは、意思疎通がある程度できたことだ。
二人は、現在の日本語とも中国語とも違う、独特な言語を使っていた。
だが、漢字が共通していたことで、筆談が成立した。
「拙僧らは、修行の途中であった」
二人は、どうやら戦闘僧の類だった。
転生直後は混乱したものの、
「これは天より与えられた試練である」
と解釈し、そのまま山で修行生活を始めたらしい。
では、なぜクリスとエミリアを縛っていたのか。
その理由を聞いたギルたちは、微妙な顔になった。
「山賊かと思った」
二人は、そう書いた。
話しかけたら武器を向けてきたので、軽く制圧した。
とりあえず、縛り上げた。
水と食料を与えた。
ただ――言葉が通じなかった。
「どう説教すればよいか困っていた」
◇ ◇ ◇
商人ギルドへの報告後。
九州地方の商人から、正式な引き取り希望が届いた。
二人の戦闘僧が、自分と近い世界系統の転生者だという。
さらにその商人は、すでに商人ギルド正会員だった。
「社会復帰の実績は、そちらにつけて構わない」
そこまで言われれば、ギルに断る理由はなかった。
これでギルは、
バネッサ。
戦闘僧の兄。
戦闘僧の弟。
合計三名の転生者を保護および社会復帰支援をしたことになる。
商人ギルド正会員の条件を、正式に満たしたのだ。
◇ ◇ ◇
九州へ移送されるまでの二週間。
なぜかバネッサは、戦闘僧の兄弟と時々一緒に食事をしていた。
剃髪の筋肉僧が二人。
その間で、金髪の少女がラーメンをすすっている。
中華料理屋の店員から、かなり奇妙な三人組として見られていたらしい。
◇ ◇ ◇
焼肉屋。
ギルはご機嫌にビールのお替りを注文している。
タケは、自分が何もできなかったと思っていた。
周囲からの賞賛が、正直しんどい。
――結局、全部この人のおかげじゃないか。
隣を見る。
バネッサは、何も気にせず冷麺をちゅるちゅる食べていた。
「タケちゃん、ミノが、焦げちゃいますよ」
「……ああ、そうですね。ありがとうございます」
タケは小さく息を吐く。
――自分は、まだまだだ。
ハナは向かい側でホルモンを焼きながら、タケの顔を見ていた。
――どうせ、自分はまだまだだ、とか考えているのだろうな。
■後日談・2
数日後。
タケとハナは、ギルに呼び出された。
報告書は既に提出済み。
クリスとエミリアも無事だった。
転生者二名の処遇も決まった。
となれば、話題はあれしかないだろうとタケは思った。
ギルは社長室の椅子に行儀悪く座っている。
いつもは挨拶もそこそこに要件を切り出すギルだが、今日は珍しく歯切れが悪かった。
禁煙パイプをくわえたり、離したりする。
それから、ようやく本来の話題になった。
「あのさあ……バネッサの槍のことなんだけど」
少し間を置く。
「悪いけど、他所では黙っておいてくれねえかな」
タケは即答した。
「はい。俺は槍なんて見てません」
「お、おう」
「報告書にも、棒状武器とだけ書いてあります」
ギルが苦笑いした。
ハナは、二人のやり取りを見て理解する。
これは、触れてはいけない類の話なのだと。
だが、納得できないことがあった。
「ギルさん」
「ああ?」
「……あれ、ギフト級ですよね」
部屋の空気が、少し止まった。
ギフト。
転生者が、ごく稀に持つ特別な能力や道具。
それを持つ者は、大商人や大組織に保護される。
転生者社会全体で、慎重に扱われる存在だ。
ギルは優秀な商人だとハナは思っている。
しかし、ギルはまだ商人ギルドでは準会員のいわば若手だ。
ギフト持ちの転生者を保護するには立場が弱い。
ハナは、あの光景を覚えている。
夕暮れ。
逆光。
空中で光を放ちながら現れた槍。
あの一瞬で、戦況がひっくり返った。
「あんな力があるのに、先輩は全然評価されてません」
ハナは真っ直ぐギルを見る。
「むしろ、低すぎます」
ギルは、しばらく黙っていた。
やがて、観念したように椅子へ深く座る。
「……まあ、お前らならいいか」
小さくため息をついた。
「最低限だけ話すぞ」
ギルは、声を落とした。
「あの槍には、時間制限がある」
「制限?」
「時間が来ると消える」
ギルは続けた。
「で、槍が消えると――バネッサはパニック状態になる」
「……え?」
「泣いて、その場から動けなくなる」
ハナが、言葉を失う。
「戦闘中なら、そのまま殺されるだろう、な」
静かな声だった。
「だから、あれは奥の手だけど最終手段なんだよ」
ギルは、パイプを指で回しながら続ける。
「しかし、噂が広まれば、ほぼ意味がなくなる」
時間切れまで逃げれば勝てる。
そう知られた時点で、奥の手ではなくなる。
「俺は言ったんだ」
ギルは二人を見る。
「自分の命が危ない時以外、使うなって」
「……」
「今回は、ちゃんと制限時間内に戻してた。だから何も起きなかった」
ギルは低い声で言った。
「でも、毎回そうできるとは限らねえ」
ハナは、夕暮れの森を思い出した。
あの時。
バネッサが守ろうとしていたのは、私だった。
胸の奥が、ぎゅっと痛くなる。
しばらく、言葉が出なかった。
「バネッサと最初の友達」、お読みいただきありがとうございました。
次章から、バネッサが一人暮らしを始めるエピソード「バネッサの引っ越し」が始まります。




