6-2 資源調査・2
山へ入る。
まず、前衛としてハナが先頭を歩いた。
タケは今回のリーダーであり、調査業務の要だ。センサーを打ちながら結果を確認し、必要な情報をバネッサへ伝える。
バネッサは最後尾で記録を取りつつ、二人についていった。
途中で、ハナとバネッサが交代する。
一時間ほど進んだが、特に有用な反応は見つからなかった。
前衛を交代したハナは、バネッサの背中を見ながら、やはりと思う。
初めて入る山だというのに、必要以上に緊張している様子がない。
先日から気になっていたが、バネッサの武装は本当にナイフ一本だけなのだろうか。槍を使うという噂は聞いたことがあるのだが。
第一ポイントが近づく。
ここからは山道を外れるため、移動速度は落ちた。
山道ならハイキング客として誤魔化せるが、森の中で管理人や警備員に見つかるのは、転生者として少々まずい。
ハナは対人向けに調律したセンサーを起動した。
タケのセンサーは鉱物用の調律だ。警戒用は別に必要になる。
第一ポイントへ到着する。
センサーは移動中だと有効範囲が狭い。停止して作動させることで、探索範囲はおよそ五倍に広がる。
タケが本格的な資源調査を開始した。有用鉱物ごとに何度もセンサーを打ち、方角や推定埋蔵量をメモしていく。
ハナとバネッサは周辺警戒だ。
とはいえ、対人センサーは常時稼働している。実際には、かなり暇だった。
ハンドサインでハナとやり取りしながら、バネッサは周囲の植物をぼんやり眺める。
いつもの山と、そう大きくは変わらない。
そんな中、森の下生えに、自分たち以外の「人」の痕跡を見つけた。
人里から半日程度で来られる距離だ。山へ入る人間がいても不思議ではない。
バネッサは一応、頭の片隅に留めておく。
調査を終えたタケが立ち上がった。
「お待たせ。このポイント終わったぞ。次行こう」
バネッサは、痕跡の件を伝えるか少し迷った。
しかし、大騒ぎするほどでもないかと思い、今回は口にしなかった。
「このポイントはいまひとつだった。あと十年くらい育てないと厳しい」
「まあ、最初から当たり引ける方が珍しいじゃん。切り替えて次行こう」
「はい!」
小声で話しながら、三人は次のポイントへ向かった。
◇ ◇ ◇
第二ポイントは、今夜の野営予定地でもある。
移動中も、センサーを打ちながら記録を続けて進む。
この辺りまで来ると反応は増えてきたが、特筆すべきものはない。
バネッサの安物センサーでも、進行方向を探る程度ならできる。そのため、バネッサが前衛兼進行役を務めることになった。
ハナは対人センサーを警戒運用しながら、タケの記録補助を行う。
けもの道を横切る。大岩を迂回する。崖をよじ登る。
日が傾き始めた頃、ようやく本日の目的地へ到着した。
タケは再び詳細調査へ入る。
ハナは寝床の準備。バネッサは周辺警戒。
――あ、まただ。
再び、人の痕跡があった。
先ほどは単なる通過痕だった。だが今回は、野営地のすぐ近くだ。
気になったバネッサは、ハナへ少し森を見てくると伝え、痕跡を追った。
大木の横を抜け、下生えの少ない緩やかな斜面へ出る。
違和感がある。
バネッサは、じっと周囲を観察した。
――あった。
木に、人為的な目印が吊られている。
近づいて地面を見ると、狩猟用の罠があった。
バネッサがいつも採掘を行う山は狩猟禁止区域なので、実物を見るのは初めてだった。
罠を設置した際は、人が誤って掛からないよう目立つ印を置くと聞いている。
だが、この目印は目立たないよう工夫されていた。
――密猟、かな。
タケへ報告しよう。
そう思って振り返ろうとした瞬間、遠くに見知らぬ二人組が見えた。
バネッサは即座に草陰へしゃがみ込み、様子を観察する。
距離的に、ハナの対人センサー範囲外だろう。タケの広域センサーも、今は鉱物用調律なので人間は感知できない。
一人は、登山杖を持った小柄な男。大きなリュックを背負っている。
もう一人は軽装で、山道に慣れていないのか息が上がっていた。ただし、銃らしきものを背負っている。
進行方向からすると、タケたちの野営地近くまで来る可能性がある。
先回りして合流できるだろうか。
その時、小柄な男がこちらを見た。
ばれてはいないはずだ。
だが、一拍置いて、男がこちらへ速足で近づいてくる。
落ち着け。
男はバネッサが潜む草むらの前を素通りし、先ほどの罠のところへ向かった。
「空振りかよ。ちくしょうめ」
男は罠を元通り埋め直し、細身の男の方へ戻っていく。
ひやりとした。
だが、問題は終わっていない。
タケへ何とか知らせる方法はないか。
そこで、バネッサは思い出した。
阻害装置だ。
センサーへ悪影響を与えるため、普段は切っている。
これならタケが気づくかもしれない。
バネッサは、阻害装置を起動した。
◇ ◇ ◇
タケは、センサーに表示された揺らぎを見逃さなかった。
魔道具反応。
阻害か。
しかも、揺らぎが定期的に明滅している。
バネッサだろうか。
何か問題が起きたらしい。
タケは即座に調査を中断し、ハナへハンドサインを送った。
ハナは寝床周辺に配置していた阻害装置を起動し、タケの示す方向へ向かう。
やがてハナも、二人組の男を発見した。大木の陰へ隠れ、対人センサーを起動する。
近くで、バネッサの反応が現れたり消えたりしていた。
阻害装置をオンオフする余裕があるということは、少なくとも本人はすぐ危険な状況にはない。
ハナは胸を撫で下ろし、二人組を監視した。
結果、密猟者たちは野営地の近くを通過しただけだった。
◇ ◇ ◇
夜。
三人は保存食を食べながら、先ほどの件を確認していた。
「阻害装置を明滅させた判断は助かりました。あの距離だと、普通の合図じゃ気づけなかったと思います」
タケが真面目な顔で言うと、ハナも頷いた。
「うん。あれ、かなり助かった」
バネッサは少し照れたように、保存食をかじった。
「前に、ギルさんに、教えてもらいました。阻害、つけると、センサーに、変な揺らぎが出るって」
教えてもらった、というよりは、げんこつ付きで怒られたのだが。そこまでは言わないでおいた。
「見つけて、もらえなかったら、どうしようって、思いました。えへへ」
本気で安心した様子で笑うバネッサ。
しかし――と、タケは目の前の先輩を改めて見直す。
阻害装置を合図に使う発想自体は、ギルから教わったものらしい。なら、完全なひらめきではない。
だが、問題はそこではない。
目の前の先輩は、あの場で自分と仲間の位置を正確に把握していた。
ハナの対人センサーでは届かず、タケのセンサーなら揺らぎを拾える。そして、タケなら気づくと判断した。
身振りでは遠い。戻れば、二人組の動きを見失う。
その場に留まったまま異常を知らせるには、ほとんど最善に近い手段だった。
知っているだけではできない。
仲間の能力を見て、信じて、使う度胸がいる。
もう少し先輩らしく堂々としていてもいいのに。
タケは水筒の水を飲んだ。
三人で相談し、翌日からはハナが二百メートルほど先行し、停止後に対人センサーを広域運用する形式へ変更した。
安全確認後に二人を呼び寄せる。
商館に昔から伝わる、「尺取り虫」と呼ばれる移動法だ。
その後、密猟者と遭遇することもなく、資源調査は無事完了した。
◇ ◇ ◇
「タケ、報告書読んだよ。鉱山としては未成熟か。空振りだな」
「まあ、そればっかりは仕方ないですね。次はもっと北を探しましょうか」
「調査って商会の持ち出しだからな。今回は依頼だったけど、そう何度も行けるもんじゃねえ」
「まあ、次も声がかかるのを待ちますよ」
ギルが報告書にサインをしながら、ぼやくように言う。
「しかし密猟者か。お前、想定してなかっただろ」
「はい。注意事項に入れておくべきでした」
「だろ? 俺も思ってたんだけど言わなかったんだ」
(嘘だ。今の、絶対ギルさんも見落としてた顔だ。)
「ま、自分で気づかないと覚えないからな。精進しろ」
「はい、頑張ります」
「そういや、バネッサの様子はどうだった」
「初日から大活躍でしたよ。ちょっと見直しました」
「だろ? あれでも俺の一番弟子なんだぜ」
ギルが、にやりと笑う。
その反応は予想通りだったので、タケは特に何も返さなかった。
「だからさあ、また何かあったら一緒に――」
「社長、それはお断りします」
「え。なんでだよ。活躍したんじゃねえのか?」
タケが肩をすくめながら言う。
「活躍は助かるんですけど……なんか、子供連れてる気分で負担なんです」




