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4-2 ベーコン・ドリーム

騒ぎ過ぎた。

マンションのベランダから見ている人もいるようだ。


「とにかく、戻るぞ、バネッサ」

「はい」


行きよりも速度を上げて帰ってきた。

走っている最中、二人は無言。


あれは、「ギフト」なのか、とギルは考えていた。

ギフトとは転生者が稀に持っている、アイテムだったり能力を指す。


しかし、空間から槍を出し入れする能力とか聞いたことねえぞ、何だあれは。


「とりあえず、シャワー浴びてくる」


頭から水をかぶる。少し冷静になり、段取りを考える。

とりあえず、あの槍のことをバネッサから聞き出さないと。

ただ、彼女の日本語能力が乏しいことが悩ましい。


シャワーを終え、バスタオルで身体を拭き、普段着に着替える。


キッチンの椅子にバネッサがしょんぼり座っている。

「ギルさん、ごめんなさい」

「何を、ごめんなさい、だ?」

「槍の、こと、黙って、ました」


「とりあえず、シャワー、浴びろ、風邪、ひく」

「……はい」


◇ ◇ ◇


バネッサは、ギルに槍を見せた。


見た目はすこし派手だが、槍自体はそこまで性能がよいものではなかった。

魔力が込められているようにも見えない。変哲もない二流級の槍。


「ベーコン・ドリーム、と、いいます。わたし、つくりました」

「ベーコン?なんでそんな名前なんだ」

「あの、えっと、その」

「まあ、名前は、いい。お前、槍、つくれたのか」

「はい、前に、すこし、おしえて、もらいました」


つまり、不思議要素は、あの穴ってことか。


「槍、かえして、ください」

「お、おう」

「15分、までです。壊れます。片づけないと……私、泣きます」

「泣く?」

「はい、大きく、泣きます」


泣くってなんだ。ギルは一旦この話は止めることにした


「わかった、じゃあ、やり、出すの、もう一度、見せて」

「はい」


数回出し入れしてもらう。スーツの男の時は青白い光を出していたが今は普通だ。

「光は、じかんたつと、また、光ります」


視覚の認識阻害や、記憶干渉という訳でもなく、本当に空間に穴をあけて出し入れしているように見える。


反対側からは穴が見えない。こんな魔法、聞いたことねえぞ。


センサーを使って、魔力を計測する。

驚いたことに、この穴からは魔力が測定できない。何度も設定を変えてみたが変わらなかった。


この穴は、魔法ではない?じゃあ、一体なんだ。


◇ ◇ ◇


「バネッサ、やりのこと、黙ってた、なぜ?」


バネッサと話すとき、最近、癖で俺も片言になるな。


「みんな、できる、思ってた」

「ん?」

「みんな、ぶき、穴から、だせる、思ってた」

「……」

「でも、わたしの、槍、ちょっと、へん」

「変?」

「15分で、こわれます。へん、だから、はずかしい。……はずかしい、から、だまってた」


ギルは、採掘にバネッサを連れて行くときは、危険のない場所だけにしていた。

武器を使うような現場には、一度も連れて行っていない。

ましてや、街中で槍が必要になることもないだろう、今日みたいな事が無ければ。


バネッサは皆が「穴」を使えるのだろうと勘違いした状態で、使う機会もないまま今日まで過ごしてきた、ということか。


しかし、15分で壊れるとはどういうことだ。


「こわれる、よく分からない。そして、なぜ、泣く?」


この時、問いを投げかけたことを、ギルは後に「一生の後悔」として数え直すことになる。


何とも言えない顔をしたバネッサだったが、「じゃあ、見てて」と言って槍を出した。

15分後、バネッサの槍が崩れさり、彼女の手の中から消えた。


「うわあああん」


バネッサが号泣し、崩れ落ちる。


大きな泣き声をあげ、胸をつかんで激しくわめき続ける。

まるで、大事な人を亡くして悲しんでいるように。


「すまん!バネッサ。悪かった、俺が悪かった!」


ギルの胸にしがみつき、バネッサは慟哭している。


異常だった。これは呪いの類か。

これは、使わせちゃだめだ。バネッサが壊れる。


ギルは、パニック状態に陥ったバネッサを三十分近く抱きしめ続けていた。

声を何度もかけてもバネッサに届かない。

見ていて辛い。だが、ギルは考える必要がある。


バネッサの、この能力は隠蔽しなければならない。


うまく運用すれば、奥の手として使えるだろう。

15分以内に収納すれば、これのパニック状態は避けられるようだが、あまりにリスクが高い。

戦闘中にこの状態になれば、バネッサは確実に死ぬ。


商人ギルドへの報告はやめる。知らなかったとしらを切りとおせば良い。


部下の能力把握もできなかったという管理責任を問われる可能性は高い。

ギルが描いていた「商人の成功者」という夢の門が、永遠に閉ざされてしまう可能性すらあった。


しかし、馬鹿正直に報告した場合の、バネッサの将来が読めない。


先ほどの計測ではこの力は魔法ではなかった。

つまり、商人ギルドの多くが魔法関連の技術や製品を扱っている世界で、新しい概念を導入するようなものだ。

力の研究ならまだいい。バネッサがどこかへ連れ去られる可能性もある。


俺がバネッサの人生を、どうこうするとかいうのも、おこがましいが、バネッサがもう少し成熟するまでは隠し通す。

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