3-2 初めての魔道具・2
「3-1 初めての魔道具・1」の続きです。
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「バネッサさん、悪い結果じゃ無いです。そんな不安そうな顔をしないで」
ギンが気を取り直してバネッサに声をかける。
「バネッサさんは、すこーし人より多く道具を使える、って分かっただけだよ」
すこーし、じゃねえよ。ギルは胸の中で突っ込む。
「それは、嬉しい、です」
「うんうん。でも、他の人には言っちゃだめだよ」
「どうして、ですか」
「みんな羨ましくなって、バネッサさんのこと苦手になるかもしれないからさ」
「それ、嫌、です」
「だよね、だから内緒にしよう、ね。四個持ち……位が丁度いいかな」
俺も四個持ち、それでも結構羨ましがられるけどな、とギルは内心苦笑い。
「分かり、ました」
「という事で、良いかな、ギルさん」
「あ、……ああ」
「僕もこの事は人には言わないよ」
「助かるよ」
「ギルさんには、御贔屓にしてもらってるからね」
「で、今日はセンサーを探しに来たんだよね」
「ああ。予算は大してないんだ。初心者向けの良い奴を見繕ってくれ」
「了解、了解。なんか楽しくなってきたぞ」
ギンが小さな戸棚から、木箱をいくつか取り出し、小さなテーブルに並べた。
「バネッサさん、順番に蓋を開いてみて」
「はい」
木箱の中には、紫色の布に包まれた魔道具が入っていた。
金色のもの、銀色のもの。円盤状、板状、指輪、様々な形。
「どれもセンサーです。性能としては大体どれも一緒。どれでもお勧めですよ」
「どれが、良い、ですか?」
「バネッサさんの場合、どれも使えると思います。まずは一つ一つ手に取って触ってみて」
「は、はい」
「あ、いい感じだな、と思ったやつが一番です。あ、それはそこが起動スイッチでね」
バネッサは、手のひらに収まる円盤状の標準的なセンサーを選んだ。
起動スイッチを押した時、手のひらで感じた小さな脈動が心地良かったからだ。
現金での支払いを終えると、軽く話でもと、ギンが近くの喫茶店からコーヒーを出前してくれた。
バネッサは新しいアイテムが嬉しくて、部屋のあちこちでセンサーを起動している。
ギルは手書きによる説明書を流し読みした。実際に使い始めるには、しばらく手ほどきが必要だとギルはバネッサの様子を横目で見る。
「バネッサさんは六個持ちだけど、実際は最高五個での運用をお勧めするね」
「なんでだい?」
「道具の組み合わせ次第でもあるんだけどね。ギリギリでの運用はピンチの時怖い」
「確かになあ。……しかし道具屋のあんたが言うのもなんだな、ギンさん」
「僕はやさしい商人だからね。アフターケアもちゃんとしないと」
「冗談はさておき、アドバイス助かるよ」
「さあて、彼女は今後どういう道具を買ってくれるのかなあ」
二人の商人は、部屋の隅でセンサーの画面を睨んでいるバネッサを眺めた。
◇ ◇ ◇
その後バネッサは、センサー、認識阻害、光学隠蔽の3種を採取師活動時の標準装備にする。
ギルの死後、形見で貰ったレシーバーをつかうが、それでも四個持ちが標準装備だった。
採取師としてのバネッサは、採掘と潜伏が基本で、戦闘は極力さけるスタイルだった。このため、あまり他の魔道具を使う発想が出なかったらしい。
おしまい。
■後日談:ギルのひそやかな趣味
魔道具店からの帰宅後、ギルはバネッサにセンサーを貸してもらった。
バネッサは既に自室で寝ている。
ギルは元々採取師上がりの商人だ。この手の「ギア」は好物である。
幸運なことに、このセンサーとの相性は悪くない。普通に起動できた。
添付されている手書きの説明書を見ながら操作してみる。
へえ、最近の初心者向けセンサーは便利になってるな。
価格相応の捜索範囲。魔法波の発振間隔も普通より下程度。
センサー本体の性能としては、まさに初心者向けだ。
しかし、表示メニューと捜索対象のプリセットの多さが光る。
堅物の職人ならば、まず慣れろと言わんばかりの多くの設定項目メニューにしがちだが、この職人はより多く使われるであろう項目を、少なめに表示するという設計だ。
現場が分かってるな。採取師あがりの魔道具職人なのか。
職人名には見覚えが無い。若手なら有望株だ、頭に入れておこう。
探知対象を決めるプリセットもいい。主要な鉱物、有用植物、人間。危険動物、血液、などなど。採取師が活動する上で必要な項目があらかた揃っており、それらを最小の手順で選択できる。
これ、俺若いころ欲しかったなあ。
炭酸水を飲みながらギルは独り言ちた。
■さらに後日談:その後のバネッサの魔道具事情
数年後、バネッサはとある仕事のご褒美として、阻害(認識阻害装置)をギルに買ってもらう。
ペンダント形状で性能としては中庸以下の魔道具だった。
ただ、使用目的が「金髪と碧眼」のバネッサが、街中で注目を集めない為という、彼女のコンプレックス解消が目的だったため、それで十分な性能だった。髪の毛を黒く染めるのも止めた。必要が無くなったからだ。
さらに後年、光学隠蔽の魔道具も買うが、これは焚火が好きな彼女が山中でその光を周りに漏らさないという目的で買う。性能の良い品で、本来は潜伏任務のために使う高級品であった。ギンもそんな目的の為に使うのはもったいないと言ったが、バネッサは忠告を聞かずに購入した。
その後もギンに色々な魔道具を紹介してもらうが、「あれば便利」くらいにしかバネッサは思えず特に新しい魔道具は導入しなかった。それよりも海外の変なお面や不思議な音が出る楽器が欲しかったのだ。
センサーだけは、その後何回か性能の良いものに買い替えた。
レシーバーはギルの死後、形見としてもらった。
レシーバーは装備者が身に付けている魔道具を一括して管理し、音声や振動による通知と入力を可能とする準魔道具という位置づけだが、作成できる職人が少なく非常に高額なものだった。
センサーは振動などで状態の変化などを通知するが、レシーバーはその通知をまとめて音声で装備者に伝え、対応している魔道具であれば音声による設定変更も可能だ。採取師はいつか手に入れたいと考える装備だが、出回る数も少なく、かつ高額であるため、入手は多くの採取士のあこがれであった。




