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第十二話 殉職

「蓮くんに、言わなくていいかな?」


 私はモニターから視線を剥がさないまま、ただ平坦な声帯を震わせた。

 寝具の上の翼は、シーツの海に沈み込みながら応える。


「言う必要はないよ。姉との思い出を汚すべきじゃあない。美しいままに終わらせてあげようじゃないか。たとえ嘘でもいいんだ。梨花ちゃんが書いたアレを読んで、弟さんが姉をいい形で思い返せるなら。君は二人を救えたんじゃないかな?」


 私はゆっくりと椅子を回転させ、視線を寝台へと落とした。


 そこには、テキストの羅列ではない、確かな質量と体積がだらしなく横たわっている。


「あんたの遺書のプロットできたよ」


 私は明るい声を作ってあらすじを読み上げた。


「火事で親友を見殺しにした主人公Rが、現実逃避して記憶を上書きするようにペンを握るの。でも、その親友の弟は憎らしいほど無垢な人で、姉のことを書いてくれた主人公に感謝しちゃって。そこで、Rは自分の罪悪感に気づいた挙げ句、SNSで自白して自殺を試みるの。そこであなたに助けられる。あなたはRと付き合うことになって、退屈な日々から解放されるの。でも、あなたの寿命が残り僅かだということを知って、Rは彼氏のことを小説にして永遠に残そうとする。っていう話」


 呼吸を忘れたかのように、一気に言葉を紡ぐ。口元がゆるむ。


「新人賞に出してみようかな。書籍化出来たら、もっとたくさん人を騙せるよ」


 冗談めかした、その直後だった。


 彼が相槌を打とうとした刹那、その喉の奥からひどく濁った音がひねり出された。


 ごぼり。


 気道からせり上がった赤錆の匂いが、部屋の空気を喰らい尽くす。


 口元を覆った十本指の隙間から、痰まじりの命が溢れ出し、純白のシーツに滲んだ彼岸花を咲かせていく。


 彼の胸部が不規則に波打ち、空気(いき)を求めて唇が微かに開閉した。壊れたアコーディオンの軋み音が部屋を塗りつぶした。


 私は無我夢中で椅子を蹴り倒し、寝台へと駆け寄った。


 彼はひどく熱かった。


「本当に、寿命近かったんだね。この話、現実(ノンフィクション)になっちゃうじゃん」


 自分の声が、無様に掠れているのがわかった。


 彼は濡れた唇を無理やり歪めて、左右非対称(アシンメトリー)な笑みを浮かべた。


「人生の結末くらい私に決めさせてもらいたいものだね。最低でも、みんなが泣き喚くくらいの、人間喜劇(美しいラスト)にね」











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