魔王(完全体)
ミアがワーガルに戻ってきたのはちょうど私が槍の材料の使い方のコツをホルスト先生の巻物から読み取った頃だった。
戻ってきてからは今まで以上に材料を取りに行ってもらっている。
「セリナ、持ってきたぞ。」
「おー。ありがとう。じゃあ次は……。」
「す、少し休みを……。」
「冗談よ。」
「はあ。」
「はい。ジョゼさんのところで買ってきたお茶。」
「あ、イスラか。ありがとう。」
「ぷはぁ」という声を上げてお茶を飲む。
将来英雄になる王家の人間ならもっと気品を持つべきではと思ったが、そういえば今の英雄もこんなもんかと思い注意するのはやめた。
「けど、こうして三人で集まるのも久しぶりな気がするわね。」
「確かにな。学校に居た頃は常に三人でいたからな。」
「そうだねぇ。てか私と違って二人は色々と用事がありすぎなんだよ。」
「「あはは。」」
「で、コウキ君の槍はどうなの? 直りそう?」
「うん。多分ね。今から作業を始めるつもり。」
「そうか。では私たちは邪魔をしない方がいいな。」
「そうね。じゃあ、私とミアは宿屋に居るから、何かあったら声かけてね。」
「うん。わかったわ。」
二人を見送ると、作業に取り掛かる。
さてさて。
緊張するけど、頑張るか。
幸い、元々槍だったものも手元にあるし。
最初から作るのと違って私でもなんとかなるだろう。
そう思って作業を始めて数時間がしたころ。
「大変よセリナ!」
突然大声で呼ばれる。
「ど、どうしたの?」
声の方を見るとイスラが肩で息をしながら、立っていた。
「魔王が! 魔王がついに王国に攻めてきたのよ!」
「なんですって!」
―――――――
「フハハハハハ! ハハハハハ! グハハハハハ! 弱い! 弱すぎるわ!」
魔王はフードの男を従えて、王国を王都ではなくワーガルに向けて突き進んでいた。
狙いは単純である。
聖剣を作れるような鍛冶屋をとっとと始末すればあとは、こちらのものである。
「23年前よりも一般兵卒の力は上のようですが、魔王様の敵ではありませんね。」
「本来のわしはこうなのだ! 23年前がおかしかったのだ!」
「では、このまま突き進んでいきましょう。」
「当然だ。あの鍛冶屋だけは必ず私の手で始末せねばならない。私に屈辱を与えたあの鍛冶屋だけは。」
―――――――
ワーガルでは23年前と同じように迎撃態勢が整えられていた。
そのための会議の議長はエリカである。
「魔王がワーガルに向かって居るわ。街のみんなは家から絶対出ないように。騎士団のみんなは街の見回りをお願いします。」
「「「「了解!」」」」
「私も見回りとか、治療とか、補給とかのお手伝いはできます。」
「じゃあ、イスラちゃんにはそれをお願いするわね。」
「はい!」
「次に、ギルドには魔王迎撃のためにアベル君とジョゼさんの出動を要請します。」
「エリカ! 俺もまだ戦えるぞ!」
「フランクさんは前線ではなく、街の最後の守りをお願いします。」
「しかし!」
「あなた。エリカちゃんに従いましょう。なにより、仮にアベル君達がやられてしまってもルクレスちゃんが到着するまでの時間を稼ぐ人がいないと。」
「ぐ、了解した。」
「ミアちゃん。その言いにくいのだけど……。」
「ええ。私も戦います。これでも王家の端くれ。戦う力がある以上、戦います。」
「ありがとう。それとコウキ!」
「わかってるよ。適当になんか武器を見繕って、戦うよ。」
「そう。わかってくれてありがとう。今現在王都に早馬を出しています。耐えれば必ずルクレスが来てくれます。信じて待ちましょう。」
「「「「はい!」」」」
「では、解散。」
こうして、ワーガル防衛戦が開戦しようとしていた。
―――――――
街のなかでも戦っている人物が一人居た。
やばいやばいやばいやばい!
急いで槍を仕上げないと!
コウキが死んじゃう!
今から数分前、コウキが鍛冶屋に来たかと思ったら、近場にあったバケツを持って魔王に戦いを挑みに行ってしまった。
あのバケツはここ最近では一番の傑作ではあるけど、魔王に敵うわけないよ!
だって、聖剣と同じ素材のお母さんの指輪が壊れるくらいの瘴気をまとってる相手なんて、聞いたことない!
ともかく早く槍を作り上げないと!
―――――――
「む!」
「どうしました、魔王様?」
「感じたことのある気を感じた。いや、かつてより鋭さを増している。フフ、楽しめそうだ。行くぞ。」
「はっ。」
魔王とフードの男が数分空を飛んでいると遂にワーガル近郊にたどり着く。
「おう。23年前と同じで悪趣味な恰好してるな。」
「ちょっと、アベル君。いくら魔王相手でも失礼だよ。」
「いや、相手は魔王なんだ。これくらいでいいのではないか?」
「お、ミアちゃん。わかってるね。」
「おい! 私を差し置いて盛り上がるんじゃない!」
アベル、ジョゼ、ミア、コウキの前に魔王とフードの男が降り立つ。
「しかし、アーネストとムナカタ以外には魔族の生き残りはいねぇと思ってたのに、まだ居たのか。」
「ああ、いや。それについてはわしも復活するまで知らなかったのだ。」
「あ、そうなんだ。」
「いや、なにちょっと魔王と仲良く会話してるんですか。」
「ごめん、ごめん。」
「フードを取る気はないのか?」
ミアが雷虎でフードの男を指す。
「申し訳ございません。取る気はありません。」
「ほー。なら、剥ぎ取ればいいわけだな。」
「ふふふ。アベルさんは聞きしに勝る過激さですね。ではそろそろ始めましょうか。あんまり時間を取られて英雄に来られても困りますし。」
「そうだな。それでは、行くぞ。魔王の本気、受けてみるがいい。」
―――――――
「アベルさん達が魔王と戦闘状態に入ったぞ!」
斥候の騎士団員からの知らせがワーガルにもたらされる。
だが、街の人々に動揺はない。
何せ、23年前も返り討ちにしているのである。
ビビる要素がなかった。
「さてさて。アベル、ジョゼ、ミアちゃん、コウキ、頼むぞ。」
そういいながら、俺はセリナの鍛冶屋へと足を運ぶ。
「セリナ、どうだ?」
「お、おどうざん!」
セリナが泣きながら俺にしがみつく。
「おいおい! どうしたんだ?」
「できないの! 槍ができないのよ! このままじゃコウキが死んじゃう!」
「あー、よしよし。」
セリナはセリナでプレッシャーの中で戦ってたんだな。
「大丈夫、大丈夫。アベルとジョゼがいるんだから。それに、ルクレスがもうすぐ来るさ。」
「けど、けど!」
「落ち着いて、落ち着いて。まあ、こんな感じになってるんじゃないかと思って、お父さんも手伝いに来たんだよ。」
「え!」
「実はな、23年前もお父さんはギリギリまで聖剣を作っていてな。前線ではエリカが戦っていた。ちょうど今のセリナと一緒さ。」
「そ、そうだったんだ。」
「けど、なんてことはない。お父さんが聖剣を完成させていざ届けに行ったら、魔王はすでにフランクさん達に拘束されてたんだ。」
「なにそれ。」
「つまり、聖剣なんてなくても何とかなったんだ。だから、きっと今回もそんなもんさ。ともかく今は全力で槍を作ることだけ考えよう。」
「うん……。」
「さて、今はどこまでできてるんだ。」
「えっと、今はここまでできてて。」
「おう、なかなかできてるじゃないか。」
「けど、ここがちょっと難しくて。」
「なるほど。そこはお父さんも手こずったんだよなぁ。」
こうして、父娘の共同戦線が始まった。
―――――――
「おいおいおい。こいつ、23年前より強いじゃねぇか。」
「アベルさん、しっかり決めて下さいよ。俺今バケツなんですから。」
「うるせい。わかってるわ。」
「フハハハハハ。そうではない。23年前が弱すぎたのだ。」
アベルとコウキが魔王の相手をしている。
が、魔王に有効打を与えることができていなかった。
「それに、こっちのフードの男もなかなかやるね。」
「いえいえ。流石『紫電』のジョゼさんですね。油断すると一突きされそうです。」
「それはどうも。ミアちゃん、大丈夫?」
「え、ええ。」
フードの男にはジョゼとミアが対応している。
「どうしたの?」
「いや。その、フードの男よ。」
「なんでしょうか?」
「一つ尋ねたいことがある。」
「ほう。」
「そなたの魔法、以前見たことがある。まさかあなたは。」
「おやおや。流石ミアちゃん。バレちゃったか。」
そういうと、フードを取る。
「やはりそうでしたか。コート先輩。」
「ミアちゃん、知り合い?」
「ええ。貴族学校の先輩です。」
「ええっ!」
フードの男は紛れもなく貴族学校で融和派を束ねていたコートであった。
「おい。お前の姉貴の学校どうなってんだよ。帝国に侵攻する奴がいたり、魔王の部下が居たり。」
「いや、俺に聞かれてもわからないですよ。」
「まあ、ともかくこっちはこっちの仕事をするか。」
「了解です。」
魔王と男性陣の戦いが再開される。
魔王が魔法を打てば、コウキがバケツを振り回して打ち返したり、アベルが切り込めば魔王が結界を張って防いだり、相変わらず決め手に欠いた戦いを繰り広げていた。
「ええと、ミアちゃん。あのコートって人、斬ってもいいのかな?」
「ええ。魔王の手下である以上斬ってもいいでしょう。」
「けど、セリナちゃんとかどうなのかな?」
「セリナもうっとうしがってたので、むしろ喜ばれるかと思います。」
「ミアちゃんもセリナちゃんに負けず劣らず厳しいなあ。そうか。僕はセリナちゃんにうっとうしいと思われてたのか。」
「ええ。それもかなり。」
「そうかぁ。まあ、今後そのへんは改善していけばいいかな。」
「今後?」
「ああ。魔王様に頼んで、人間でもセリナちゃんだけは生かしてもいいって許可をもらったからね。時間ならたっぷりあるさ。」
「ミアちゃん。こいつ斬っていい奴だね。女の敵だよ。」
「じゃあ、斬りましょう。」
それを合図に、ミアは雷虎を振りぬく。
コートはロイスとの決闘と同様に壁を展開してそれを防ぐ。
「ふふふ。私のレイピアにはその壁は通じないことはわかってるよね。」
そういいながら、ジョゼはレイピアを素早く突き出す。
コートは身をよじって突きをかわすと、後ろに大きく飛ぶ。
「ふう。厄介なコンビですね。」
こちらも一進一退の攻防を繰り広げていた。




