いい迷惑
大陸中で異変が観測されてから、2か月が経過した。
先の戦いで国力をさらにすり減らした帝国ではモンスターの侵攻に耐え切れなくなっており、帝都が遷都する事態に陥っていた。
共和国はというと、なんとかモンスターの襲撃に耐えていたところ、遂に数日前に魔王自身が現れ、攻撃を開始した。
これにより、共和国は大混乱に陥り、王国との国境沿いには人々が殺到する事態となっていた。
この魔王の出現によって、魔王の復活が全世界に知れ渡ることとなった。
―――――――
「国境沿いの町は大変そうだな。」
「けど、共和国も勝手よ。ルクレスさんを派遣しようとしたら、内政干渉だとか言ってたのに、今では政府を亡命させてほしいとか言ってるんだから。」
「正直、早いとこルクレスさんを突っ込ませて魔王を狩ってしまえば早いのにな。」
「その魔王が王国には一切近づこうとしないんだから仕方ないわよねぇ。」
「だよなぁ。」
Sランク冒険者夫婦はギルドの酒場でお酒を飲みながら愚痴を漏らす。
かくいう彼らも共和国入りを拒否された一員である。
人道支援目的でもなぜか拒否されたのである。
おそらく、今回の魔王騒動を独力で切り抜けのちの世で王国に後れを取りたくないという国家の考えがあるのだろう。
「私たちもご一緒していいかしら?」
「もちろんですよ。リセさん、フランクさん。」
「すまんな。」
さらにギルド長夫婦が参加する。
「ギルド長、どうでした?」
「ああ、帝国方面は冒険者の派遣だけ始まったそうだ。王国軍の兵士を何人か冒険者の身分で送り込むことになる。」
「そうっすか。ひとまずいいニュースっすね。」
「そうね。けど、アベル君もジョゼちゃんももう少し休まないと倒れちゃうわよ?」
「いえいえ。あんなガキどもでも頑張ってるんですから、俺たち大人がへばるわけにはいかないでしょ。」
「そうだね。私も頑張らないと!」
四人の大人が視線を向けた先には、疲れて寝ている黒髪の男の子と茶髪の女の子が居た。
「確かにな。全く、この家系にはいつも助けられるな。」
「うふふ。そうですね。」
ワーガルの夜は更けていく。
―――――――
大人たちの静かな宴会が開かれる2日前。
「な、なんなのこの大量の注文は!」
私は驚きの声を上げた。
なんせ、朝鍛冶屋にやってくると店の前に大量の箱がおいてあり、その中には大量の注文書が入っていたのだ。
「姉ちゃんどうしたんだよ?」
「コウキ、これ見て!」
「なに……、ってこれはすげぇな。まあ、魔王が復活してあんだけ暴れてりゃ、強い武器も欲しくなるだろうなぁ。」
「いつの間にうちの評判が知れ渡ったのよ!」
「あー。多分ミアさんじゃないかな。」
「ミア?」
「昨日の新聞読んでないの?」
「最近は新聞読む暇なんてないわよ。てかなんならあんたの槍を直す暇もないわよ。」
「おい、まじかよ。頼むぞ。まあいいや。とりあえず、鍛冶屋を開けててよ。新聞をもってくるから。」
コウキが新聞を取りに行く間に鍛冶屋を開けて注文書をとりあえず家の中に入れる。
ミアのやつ。
この前突然王都に戻ったと思ったら、何をやらかしたんだ。
「よいっしょ。ふう。これで全部か。」
「姉ちゃん。ほい、新聞。」
「ありがとう。」
早速新聞を広げる。
『王国政府、魔王撃退に自信満々』
「遂に復活し、世界中に災厄をもたらしている魔王について、王国政府は撃退に自信を示した。それもそのはずで、23年前に魔王を撃退したメンバーは健在である。王国政府としては今すぐにでも魔王討伐に乗り出したいところであるが、共和国政府が応じず、なかなか上手くいってはいない。だが、悲しいニュースだけではない。ルクレス姫の姪でトレビノ公爵家の長女ミア様が正式に英雄の後継者となることが発表された。腰にはかつてルクレス姫がさしていた雷虎とものさしが差されていた。そのものさしはなにかという記者の問いに対して、ミア様は『これはワーガルにいる我が友セリナの作品である。セリナの作品はおそらく父上であるトウキ製品に迫る作品である。』と答えてくれた。」
「あー。なるほど。」
「な。このご時世、父さんに迫る作品ならそりゃ欲しがるさ。しかもほぼ王家御用達みたいなもんだしな。」
「ミアめ。覚悟しとけよ。」
「しかしどうするかね。この注文書。」
「うーん。仕方ない。とりあえず一家庭一つ何か作ることにしましょ。」
「どうせ槍ができるまで俺もやることないから手伝うぜ。」
「んじゃ、注文書の仕分けとか素材・完成品の運搬とかお願いしていい?」
「はいよ。」
こうしてエルス家姉弟の仕事が始まったのであった。
―――――――
「で、やっとひと段落して打ち上げしてたらそのまま寝ちゃったわけか。」
「ふふふ。おかげで王国の多くの人が魔王におびえなくて済んだみたいね。」
「アトルもこれくらいの男になってくれたらな。」
「アベル君の子供なんだから大丈夫だよ。」
「あらあら、若いっていいわね。」
「そうだな。」
ギルド長夫婦にからかわれて、顔を真っ赤にするSランク冒険者夫婦であった。
―――――――
「ちょっと、私どのタイミングで出ればいいのよ……。」
「いや、それは俺もですよ。」
たまたま目が覚めたイスラとアトルは完全に出るタイミングを失い、トボトボと自室へと戻るのだった。




