異変
『大陸各地でモンスターの狂暴化! 王国政府は対応を協議』
「ここ数日、大陸各地でモンスターの狂暴化が報告されている。内容としては単にモンスターの気性が荒くなっただけでなく、モンスターの能力上昇や集団での人里への攻撃などである。この事態に23年前の魔王復活を連想する人々は多く、魔王がまたしても復活したのではないかと噂になっている。王国政府は、今のところ魔王についての発表はしていないものの、モンスターの対策の協議を開始したようである。」
「朝からなんとも言えない記事だなぁ。」
「まあ、また魔王が出てきたらみんなで倒しちゃえばいいでしょ。」
「それもそうだな。それにこの前と違って既に聖剣はあるしな。」
「そそ。じゃあ、片づけたいからちゃっちゃと食べちゃって。」
「はいはい。」
鍛冶屋夫婦は世間が騒いでいようといつもの朝食風景を繰り広げていた。
というより、ワーガルだけは騒ぎとは無縁であった。
セリナが作る日用品はもはやトウキのそれと遜色なく、ワーガルの安全は完全に担保されていたからである。
トウキとしては悲しいやら嬉しいやらである。
まあ、あれだけ鍛冶屋は継がないと言っていた娘が継いでくれたこと自体は嬉しいことであるが。
コウキはコウキでご飯をかきこむと宿屋へと消えた。
「しかし、血は争えないわねぇ。」
「何が?」
「何がじゃないわよ。あんたと一緒で興味本位で物を解体しちゃうんだから。まあ、聖剣じゃなくて弟の武器なだけましか。」
「いやー。まさかセリナまで同じことをするとは思ってなかったけどな。」
「ところで、セリナはどうなってるの?」
「ああ、日々の製作の合間を縫って試行錯誤してるみたいだぞ。今日も朝からこもってるさ。」
「教えてあげたらいいのに。」
「どうしようもなくなって助けを求めてきたらね。それに、セリナの性格からして俺が全部教えてあげるのも嫌がるだろうし。」
「それもそうね。さて、洗い物してくるわ。」
「ああ。今日もおいしかったよ。ごちそうさま。」
「ふふ。」
エリカが食器類を洗い場へ持って行って少ししたときだった。
「きゃあ!」
エリカの声が響く。
「どうした!」
「ゆ、指輪が……。」
「指輪が?」
「指輪が壊れたのよぉぉぉぉ!」
「なんですとぉぉぉぉ!」
―――――――
「はぁ。全くあのバカ夫婦は何を朝から騒いでるのやら。」
鍛冶屋で忙しくしていると、突然家の方から両親の叫び声が聞こえてきた。
大したことはないだろうが、念のため確認しに行くことにした。
「お父さん、お母さん。一体どうし……どうしたの!?」
家に帰ると、泣いているお母さんをお父さんが抱きかかえていた。
「セリナぁ……、聞いてよぉ……。」
「ど、どうしたのお母さん。」
「トウキが、トウキが作ってくれた指輪が。」
「指輪が?」
「指輪が壊れちゃったのよぉ!」
「うそでしょ!?」
「ほんとなんだよ……。」
そういってお父さんがこっちに掌を向けてくる。
その上にはキラキラと光る奇麗な破片が数個置いてあった。
「うわぁ。ほんとだ……。けど、なんで?」
「知らないわよ! 洗い物してたら急にびりって来て気が付いたら壊れたのよ!」
「そんな……。」
お父さんの作ったものが壊れたなんてほとんど聞いたことがない。
それもお母さんに贈った指輪である。
それはそれは丹精込めて作った逸品のはずだ。
一番壊れる可能性がない。
「できれば直してやりたいんだが……。」
「あ、お父さんは鍛冶禁止されてるもんね。」
「いや、そんなことはどうでもいいんだ。そんなもん破ってしまえば。問題は材料がないんだよ。」
「そうなの?」
「正確には王国政府に備蓄はあるだろうけど、俺に分けてくれるわけないだろうし。」
「え、あの指輪何でできてるのよ。」
「ん? まあ、端的に言えば聖剣と同じかなぁ……。」
「はいぃ!?」
頭がくらくらしてきた。
まさか、うちの親の結婚指輪って聖剣と同じ材料でできてたのか。
「ぐすん。もういいわ。壊れたものは仕方ないし。別にこれで家族が居なくなるわけじゃないし。」
「エリカ……。」
「お母さん。」
しばらく、泣いたあと、お母さんは落ち着きを取り戻した。
「それよりも、壊れる前のびりって感覚は何だったのかしら。」
「うむ。魔王の復活となにか関係があるのかもしれないな。」
「え、はい? 魔王復活? お父さん何言ってるの?」
「ああ。巷では噂とされてるけどな、ある程度の人間からしたらこりゃ完全に復活したなってわかるぞ。」
「すごい!」
「……ごめんなさい。嘘つきました。さっきルクレスから手紙があってそれで知りました。」
「なぜ嘘ついたし。」
「いや、ちょっとカッコ付けたくて。」
「はあ。お母さんも何か言ってよ。ってお母さん?」
お母さんが何やら静かだ。
「魔王め。覚えてやがれ。指輪の仕返しは必ずしてやるからな。」
あ、これは関わらない方がいいやつだ。
そっとしとこ。
「じゃあ、私は工房に戻るから。」
「はいよ。」
―――――――
「なんだか最近、ミアさんの髪ボサボサですね。」
「コウキ君、女の子相手にもうちょっと言い方があるような。」
「ああ! すいません。自分の周りにそんなことを気にするような若い女性が居なかったものですから。」
その言葉に、リセとジョゼが反応してコウキを睨みつけるが、コウキは気にしない。
「ははは。全く流石はセリナの弟君だ。そうなんだ。なんだか最近髪の毛が逆立ってしまってな。それになんだかこうピリピリした感覚があるんだ。」
「そうなんですか。」
「今までもこんなことあったの?」
「ないさ。だから不思議なんだ。」
「へえ。案外魔王が復活したとかいう噂と関係あったりするかもしれないですね。」
「……うむ。確かに。関係があるかもしれないな。伯母上に確認してみないといけないな。コウキ君、イスラ、少し失礼するぞ。」
そういうとミアは駆け出して行った。
「「は、早い!」」
―――――――
「よし! いったん休憩!」
ワーガル騎士団長カデンの声が訓練所に響き渡る。
ここのところ出現するモンスターの質が上がっている。
セリナのおかげで装備はまともになったものの、どんな強敵がいつ現れるともしれない。
訓練は厳しさを増していた。
「だ、団長……。キツ過ぎますって……。」
「モンスターはお前の体力なんて考えてはくれないんだぞ。」
「そうですけど。」
すると、文句を言っていた団員の真横にズドーンと鉄の板が食い込む。
「ひっ!」
「……すまん。」
鉄板の主であるフランはそれだけ言うと、ランニングに戻っていった。
「副団長すげぇ。」
「いや、俺殺されるところだったんだけど。」
「良く言うぜ。見てみろよ副団長がまな板を置いたところ。」
「うん?」
そこには小型のネズミのようなモンスターが死んでいた。
「うわ、なんだこいつ! 全然気が付かなかったぞ……。」
「俺も初めて見るタイプのモンスターだ。」
「こりゃ団長の言う通りモンスターの方は俺たちのことを全く考えてくれてないな。」
「ああ。行くか。」
「団長! 訓練再開しましょう!」
「なんだお前ら、急にやる気出して。まあいい。全員フランに続け!」
ワーガル騎士団は今日もアツい。




