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祈りが最期に織り上げるのは  作者: 小織
2:運命の姫君
11/12

問題発言

2014/08/12 大幅改稿

 瞼の裏を明るくする光が収まるのを待って、わたしは目を開いた。

 ――部屋に戻ってきている。

 幸いにもまだ誰も部屋にはいなかった。

 よかったあ、と胸をなでおろす。


「……おい。いつまで手を握っているつもりだ」

「あっ、ごめんなさい!」


 そういえば、セイカの手を握ったままだった。

 こんなことにも気付けないとは、わたしも少々動揺していたようだ。

 あわてて手を離す。


「あの、送ってくれてありがとうございました」

「構わん。……それより、先ほどから思っていたのだが、その気持ち悪い敬語はやめろ」

「え?」

「俺への敬意を持ち合わせない奴に、形だけの敬語を使われるのは不愉快だ。ふつうに話せ」

「はあ。じゃあ、遠慮なく」


 あからさまに年上然としたひとにタメ口というのは気が引けるが、セイカの場合、へたに遠慮した方が逆効果っぽいしなあ。

 怒らせてまた殺されそうになったらたまらない。


「――それと、お前、もう少し気を引き締めて生活することだな」

「なあに、それ。わたしが注意力散漫ってこと?」


 少々むっとしながら言えば、セイカは無言で部屋の片隅に視線を投げた。

 つられてそちらを見れば、床にひっかき傷のような跡がついている。

 見覚えがないなあと首を傾げると、隣でセイカが人を小馬鹿にするように鼻で笑う。


「言っただろう、“死にたいのか”と」

「ああ、転移する前の。でも、それがどうしたの?」

「お前が大人しくしていなかったら、床をああした原因がお前に直撃しただろうな」

「……?」

「まだ分からないのか。――攻撃魔法だ」


 そう言って、セイカはおもむろに肩の高さのあたりで手を広げた。

 すると、彼の手の上にたちまち光の球が形成されていく。


「わああ……! すごい、これも魔法?」

「ああ。これを投げると――」


 彼はすばやく手首にスナップをかけてボールを投げるようなしぐさをした。

 すると、魔法を前にしてはしゃぐわたしの顔のすぐ横を、光の玉が超速球で駆け抜けていく。

 悲鳴をもらす暇もなく、背後の壁がいやな音を立てる。

 おそるおそる振り向いてみると、壁が見事にめりこんでいた。くっきりとボール型だ。


「この形でも壁がああなるんだ。もし、もっと鋭利な形のものがつくられたら――」


 セイカが指を振ると、今度は矢状の光が形成される。

 切っ先はまっすぐ、わたしにむいていた。

 怯えきって後ずさると、彼はくちびるを嫌な形に歪ませた。


「この後、お前がどうなるかなんて……言うまでもないだろう?」

「……ハイ」


 真っ青になってうなずくと、セイカはふんと鼻を鳴らして軽く手を振った。

 それが合図だったのか、矢状の光は一瞬にして霧散する。


「そういうわけだ。わかったらせいぜい用心することだな」

「無理だと思うけどね……」


 あんな摩訶不思議パワーをどうやって防げばいいのか、わたしにはちっとも見当がつかない。


「同感だ。防御魔法と結界にまみれたこの神殿に傷をつけられる腕前の人間にとっては、非力で貧相なお前を殺すことなど赤子の手を捻るよりも容易いだろうな」

「……」


 全面的に同意だけれども、貧相は余計だっつーの。

 まったく、この男は本当に一言多い。

 じろりと睨み上げると、彼はやれやれという風に肩をすくめた。

 その扱いがまた気にくわない。

 文句のひとつでも言ってやろうと口を開きかけた寸前、彼が動いた。


「じっとしていろ」


 命令とともに、セイカの手がわたしの胸元に伸びる。

 位置的には、鎖骨の下、胸のふくらみのちょっと上あたりだ。

 何だ変態か!? と身構えるわたしの内心を知ってか知らずか、彼はやけに真面目ったらしい言葉で祝詞めいた言葉をたれる。残念ながら意味はよく分からない。

 しかし、それの効果は顕著で、彼の指先が触れているあたりがじんわりと温かくなったかと思うと、ドレスの布の奥が淡く輝いた。

 思わず息をのむ。


「う、わ……!」


 なんかよくわからないけど、なんかされた!

 魔法? 魔法なのかな?

 呪いだったらぶちのめすぞ! ――出来る気がしないけども!!


「祝福だ。有り難く思え、俺直々の加護はめったに受けられるものではないぞ」

「ふぅん、そう、すごいんだ。よくわからないけど、ありがと」

「お前な……」


 呆れたような視線を向けられても、困る。

 祝福とか加護とか言われても、その価値が分からないのだからどうしようもない。


「――まあ、いい。とにかく、死にたくなければこのことは他言するなよ」

「わかった」

「なにかあれば呼ぶといい」

「うん――でも、どうやって?」

「だから“呼ぶ”んだ。そんなこともわからないのか」

「わからないから聞いてるの」


 少し剣呑な物言いが癪に障ったのか、セイカが不愉快そうに目を細めた。

 しまった、機嫌を損ねてしまったらしい。

 罵倒が飛んでくるかもしれないと思って身構えるけれど、予想に反して彼はほんの少し口元を緩めただけだった。


「それでいい」

「え?」


 なにが? と首をかしげるわたしに、彼は言う。


「その不遜な態度だ。やっとお綺麗なだけの上辺がはがれてきた」

「え、不遜て……」


 まあたしかに、外面はそれなりでも、中身は真っ黒ですけども。


「お気に触ったなら、すみません」

「いや、いい傾向だ。小娘、お前はもう少し己を主張する方がいいぞ。周りに迎合してばかりでは、やがて喰われるだけだ」

「喰、わ……れる?」

「世の中はそんなに甘くないという話だ――まあ、わからないならそれまでだ、ただびとの小娘よ。せいぜい死期が伸びるようにあがくといい」


 言うが早いか、セイカの足元に例の陣が輝く。

 どうやら言い逃げするつもりらしい。


「ちょ、ちょっと待ってセイカ! それってどういう、」

「いずれ分かる。ではな」

「待っ!」


 わたしの手がセイカの肩に触れようとした寸前、彼の姿が光に包まれて掻き消える。


「結局何も分からないし……」


 魔法の名残のような光の粒子が輝く部屋に、一人残されたわたしの脳内では、セイカの残した謎めいた言葉がいつまでも反響していた。

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