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9話

深夜3時半、店内にはカップルが居た。お酒にジュース、お弁当などを買い物かごに楽しそうに詰めている。

それを見てマヤさんが口を開く。

「あの二人は友達ですか?」

「カップルですね。」

「カップル?」

「恋人同士ってことです。」

「恋人…。」

そんな会話をしていると、例のカップルがマヤさんのレジにかごを置いた。

「レジ袋は必要ですか?」

マヤさんはそう聞きながらジュースやお酒など重いものからバーコードを通していく。

「お願いします。」

マヤさんはお酒の年齢確認のタッチボタンを押していただくようお客様に案内して、丁度いいサイズのレジ袋を取り、素早くパネルを操作する。

「それと、タバコの17番2個」

男性客の声を聞いたマヤさんは迷いなく17番のタバコに手を伸ばす。

「あわせて3480円です。ポイントカードはお持ちですか?」

「持ってないです」

お客様がパスケースに手を伸ばしたのを見て、マヤさんは迷うことなくパネルを操作、交通系電子マネー支払いのパネルに指を置いて待っている。

「お会計、電子マネーで。」

ピピッと音が鳴り、マヤさんは商品と2膳の割り箸を入れた袋をお客様に手渡す。

2人で「ありがとうごいました」と声をそろえると、店内はふたたび静けさを取り戻した。

「マヤさん、すっかりレジ慣れましたね。」

「はい、冴木さんが教えてくれたおかげです。」

明らかに僕が教えたこと以上に上手くなっている。僕の接客を見て学んだんだろう。

「冴木さん、友達と恋人って何が違いますか?」

難しいことを聞かれた。なんて答えよう。

「まず、友達も恋人もお互いを大切に思い合う関係なのは変わりません。」

「私にとって冴木さんは大切です。私と冴木さんは友達ですか?恋人ですか?」

唐突だな!

「友達でお願いします。」

「じゃあ、冴木さんは今から地球で最初の私の友達ですね。」

彼女は嬉しそうに微笑む。友達…か。そう呼べる相手なんて、最近はいなかった気がする。

「恋人は基本的に一対一で、深く愛し合っていて、お互いが付き合うって合意した特別な関係…です。」

僕は恋人がいた事がない。なんなら人を恋愛的に好きになった経験がない。上手く説明できているか分からない。大丈夫だろうか…。

「友達から恋人に変化することもありますか?」

「普通はそういう感じで段階を踏むと思いますね。」

「今、冴木さんに恋人はいますか?」

「いませんね。」

「欲しいって思うこと、ありますか?」

「友達すら少ないのに、恋人なんてとても…。」

「友達、少ないんですか?」

「あまり人と積極的に話したりしないので…。」

「でも、私とはたくさん話してくれます。色々教えてくれます。」

「それはマヤさんが話しかけてくれるからです。きっかけがあれば僕も話せます。」

「なるほどです」

と言ってマヤさんは小さくうなずいた。

マヤさんみたいに積極的に話しかければ、きっかけさえ作れれば、僕も友達を作れたりするのかな。でも、それが苦手なんだよな…。

「マヤさんは、どうして僕にたくさん話しかけてくれるんですか?」

「私が冴木さんのことを詳しく知りたいからです。」

彼女はそう答えた。まっすぐ僕の目を見て。

「…それだけ?」

「それ以外に何か必要ですか?」

確かに、要らないのかもしれない。僕は無意識に人との間に壁を作って、遠慮したり配慮したりしすぎていたのかもしれないと思った。

「…マヤさん、ありがとうございます。いつも話しかけてくれて。友達と言ってくれて。」

「はい!こちらこそ、いつも色々教えてくれてありがとうございます!」

人生で一番不思議な、友達が出来た瞬間だった。


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