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8話

午後11時半。日付が変わる前で、終電が近づくにつれてお客さんが少し増える時間帯だ。そんな中でも、やるべき仕事はいろいろある。

僕は日付変更と同時に廃棄になる商品をチェックしている。

マヤさんはレジでお客さんの対応をしながら洗い物をやっている。

「ナナツボシボックスワンカートン」

レジ前に来た中年男性のお客さんが呪文のように唱える。あ、これは助けに入らないといけないやつだ。そう思った。

案の定、マヤさんは

「すみません、もう一度お願いします。」

と困っている。僕はお客さんの後ろから、

「ナナツボシのボックス、ワンカートンですね。今すぐご用意します。少々お待ちください。」

そう言ってレジに入りタバコを保管している棚から、目当ての商品を取り出して、マヤさんのレジに持っていく。

「こちらでお間違いないですね。」

コクリとうなずく男性。むすっとした表情だが怒っている様子はない。商品さえ分かれば、あとはレジで打つだけだ。マヤさんはバーコードの場所を探してスキャンし、

「年齢確認ボタンのタッチをお願いします。」

と適切に対応して、お客さんからクレジットカードで代金を受け取る。

「「ありがとうございました。」」

二人で声をそろえてお客さんを見送る。

「冴木さん。助かりました。ありがとうございます!」

「あのお客さん、常連なんだ。いつもは番号で言ってくれるんだけど、今日はカートンだったからね。」

「カートン…?」

「タバコは10箱で1カートン。まとめ買いってことだね。」

「それで開封していない状態で販売したんですね。なるほどです。」

「よく売れるタバコは名前を覚えておくと、たまに役に立つよ。例えばさっきのナナツボシは、店長が吸っている銘柄の一つなんだ。」

「そうやって教えてもらえるとわかりやすいですね。もう覚えました!」

そんな話をして、お互いの仕事に戻った。僕の廃棄商品のチェックが終わり、レジで廃棄の登録をしていると、マヤさんが話しかけてきた。

「冴木さん。どうして人はタバコを吸うんでしょうか。タバコは毒だと聞いたことがあります。」

難しい話だ。

「人によって全然違うと思います。例えばうちの店長は、『純粋に美味しいから』と言っていました。でも本当は、ただのニコチン依存だからかもしれない。」

「店長はよく吸っていましたね。私が最初に会った日に店長からトレーニングを受けましたが、何回か抜け出してタバコを吸いに行っていました。」

新人ほったらかして吸いに行ってたのか…。

「…まあそれは置いておいて。他にも友達や上司が吸っているから一緒に吸わないといけないとか、カッコいい自分を演出したいから吸うとか、いろいろあります。」

僕は廃棄の登録を終え、時計を確認した。日付が変わったのを確かめてレジの日付印を今日の日付に直す。

「なるほどです。冴木さんはタバコ吸わないんですか?」

「僕は吸いませんね。吸いたいと思ったこともないです。人付き合いもないし、美味しいものは他にもたくさんありますから。」

「じゃあ、私も吸いません。まだ19歳ってことになってるので、吸うわけにはいきませんが。」

「吸わなくていいなら、吸わないのが一番だと思いますよ。体に毒なのは確かですから。」

話していて気がついた。仕事中にこんなに長く話すことは、マヤさんが来るまであまりなかった。それに、楽しかった。

こんな時間を過ごすのもいいかもしれない。そう思った。


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