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64話

「冴木、ちょっと頼みがあるんだけど、聞いてくれないか?」

前田くんと僕は昼食を食べている。なるほど、今日奢ってくれたのはそれが理由か。

「奢ってくれたし、とりあえず話は聞くよ。」

「ありがとう。頼みってのは、気になっている子がいて、その子を紹介して欲しいんだ。」

「気になっている子?」

「話は変わるけど、最近お前噂になってるぞ。水瀬さんを含めた美女3人とお前の4人グループでカフェによく行ってるだろ。」

「ああ、『マヤちゃんズ』だね。」

僕は絶対に伝わらないのに、その名前を出した。水瀬さんがつけたその名前はダサすぎて、僕は一周回って好きになっていたのだ。

「その『マヤちゃんズ』?その中のメガネで小さいスラっとしたお姉さん。お前とどういう関係なのかは知らないけど、気になってて。よかったら紹介してくれないかな?」

「ああ、ヴェリティさんか。僕たちと違って社会人だから忙しいだろうし、どうしようかな…。じゃあこうしよう。僕が前田くんの写真をヴェリティさんに見せるから、それでアリかナシか判断してもらおう。それでいい?」

「ありがとう、嬉しいよ。」

「じゃあ撮るよ、はい、チーズ。」

「見せて。…前髪が気になる。もう一回。」

その後、テイク4でようやくOKが出た。僕もご飯を食べ終わった。この後は『マヤちゃんズ』のメンバーでカフェに行くことになっている。

「じゃあ、行くね。ごちそうさまでした。」

「よろしく頼んだ!」

僕はカフェに到着すると、すでに3人とも集まっているのに気がついた。レジは空いている。これなら並んだほうがモバイルオーダーよりも早い。僕は並ぶことにしたが…。

「ええ〜!結愛ちゃん付き合い始めたんですか!?」

マヤの叫び声が聞こえた。その話題に乗り遅れるわけにはいかない。僕は列を抜け出した。モバイルオーダーのアプリを起動して、3人の席に駆け寄る。

「ちょっとマヤちゃん声が大きい!それに、付き合ってるんじゃなくて、付き合ってるフリをしてくれる人が見つかっただけ!」

「遅れてごめん。楽しそうな話をしてるね。」

「おお、冴木くん。確かに面白い話をしているよ。水瀬ちゃん、詳しく聞かせて!」

僕は席に座って水瀬さんの話を聞く。

「そんなに面白い話じゃないよ。とりあえず相手の写真はこれ。ナンパとかを断るのに彼氏がいるって設定が都合がいいから利用しているだけで、好きとかそういう気持ちは一切ないから!」

そう言って、写真を見せてもらう。

顔立ちは整っているが、髪がボサボサ、服はボロボロの男が写っている。身長も日本人離れしている。バスケ選手か?そう思うくらい高い。マヤが少し呆れた顔で口を開く。

「…なんか思っていたのと違います。結愛ちゃん、男を見る目ないですよ。身長高い人が好きなんですか?」

「だから、好きとか一切ない!誰でもよかっただけ!」

そういうと、ヴェリティさんの目の色が変わる。僕を問い詰めた時と同じ目だ。それよりはもう少し優しいけど。

「嘘だよね。誰でもいいなら、マッチングアプリで高年収の社会人でも引っ掛けておけばいい。それができるくらい水瀬ちゃんは綺麗だよ。それにナンパを断るだけなら、嘘をつくだけでいい。そうじゃなくて、こんなダメ男感丸出しの男を選んだのには、何か理由があるはずなんだ。」

水瀬さんは、答える。

「う、確かにそうです。でも、自分でも、なんでこんなやつ選んだのかわからなくて…。そういえばヴェリティさん!ヴェリティさんの好きな人とかの話を全然聞きません。教えてくださいよ!」

話を無理やり逸らしているのがバレバレだ。だが、僕にとって都合が良かったので、話を合わせることにした。

「ヴェリティさん。今から見せる男がヴェリティさんのこと気になっているみたいで。とりあえず写真だけ見て、アリかナシか教えてくれませんか?」

そう言って、僕は前田くんの写真を見せた。ヴェリティさんは即答した。

「ナシ。チャラそう。私は年上が好き。付き合っては別れるのを繰り返してそうな顔をしている。」

ボロクソに言われている…。それに付き合っては別れるのを繰り返しているのも当たっている。この人、エスパーか?

とりあえず僕は尋ねる。

「でも聞きましたよ。ヴェリティさんの会社、産休の間も給料が出るし、子供を作ると二階級特進する制度があるくらい既婚女性に優しい会社だって。そこまで優しいと、未婚の女性って周りにいないんじゃないですか?」

「え、何その超ホワイト企業。私も応募したいんだけど。」

水瀬さんが答えると、マヤが尋ねる。

「子供を作ることが昇進の条件ですけど、結愛ちゃんは子供を作るつもりがあるんですか?あんなダメ男と子供作っちゃダメですよ。」

「そういえば子供作るつもりなかった…。若くして昇進のチャンスがある優良企業と思ったけど、私には無理か〜。」

ヴェリティさんが口を開く。

「確かに私の周りは既婚女性ばかりだ。でも、私は今のところ昇進に興味がない。今の仕事が好き!それに、私に見合う男が地球上にいないんだ。結婚できないのもしょうがないって話さ!」

後半はともかく、今の仕事が好きだと断言するヴェリティさんの姿勢は、素敵だと思った。

その後も他愛のない話をして、僕たちは解散した。この後のシフトではマヤと一緒に働く。そのため、出勤時間までは二人で僕の家で過ごすことにしている。マヤと一緒に遊べるパズルゲームとコントローラーのセットを最近買ったのだ。

「楽しみですね、パズルゲーム!私、スマホゲームの『ことばパズル』は毎日欠かさずやっているので、負ける気がしません!」

「それは僕も同じ。マヤより期間は短いけど、毎日ログインしている。負けるつもりはないよ。」

通り道の塀の上に猫課長がいる。久しぶりに見た気がする。

「課長!家が離れて最近文書でのやり取りしかしてなかったので、寂しかったんですよ!」

猫も文書とか作るんだな。そう思った。

マヤは課長の顎を撫でている。気持ちよさそうだ。僕も撫でようと指を近づけると、逃げられた。

「そりゃあ関係を築いていないのに、撫でられるわけないじゃないですか。噛まれなかっただけ、ありがたいと思ったほうがいいですよ。」

マヤの言う通りだった。よく知らない相手の、しかも彼女の上司の顎を撫でるなんて、失礼にもほどがある。

とりあえず僕の家に着いた。マヤが椅子に座り、僕はビーズクッションに腰掛ける。二人でゲームを始めた。

そこからはお互いに白熱した激闘だった。勝って負けてを繰り返して、時間はどんどん過ぎていった。

「ちょうど100戦50勝50敗。今日のところは引き分けですね。一旦休憩しましょう。」

マヤは勝手に布団を広げて横になった。僕も横になる。二人の顔が近くなる。

時間の流れがゆっくりになる。そんな錯覚がした。

マヤの顎に指で触れると、彼女は顔を赤くして小さく頷いた。僕は彼女にキスをした。


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