65話
「醒さん!何回チューしてるんですか!遅れそうですよ!」
「マヤ、声が大きい!それに、マヤからだってしてきたじゃないか!」
僕たちはとんでもなくバカな理由で仕事に遅れそうになっている。このままじゃ、バカップルだ。
僕たちはコンビニまで駆け込み、タイムカードを押す。ギリギリ遅刻にはならなかった。
「セーフですね。とりあえず前のシフトの人たちがレジで待ってるはずです。急ぎましょう!」
「今日誰だっけ。レジを見る余裕もなかった。」
準備を急いで終わらせてレジに向かう。そこにいたのは最悪の人選だった。店長が一人で立っていた…。
「お前たち、仲良く遅刻するところだったな。今回はギリギリセーフだが、次からは余裕を持ってこいよ。」
「「はい、気をつけます…。」」
僕たち二人は声を揃えてそう言った。
「そういえば冴木くん、あれからうまくいったか?」
「あれから?」
「指輪がどうの、言ってたろ。」
「ああ、上手くいきました。完璧です。」
それを聞いて、店長の顔から先ほどの怒りが綺麗に吹き飛び、笑顔になった。
「やったじゃないか!今日は祝いだ!ちょっと待ってろ、財布とってくる。」
店長はそういうとバックヤードに入って、制服を脱いで戻ってきた。
「お前たち。好きな飲み物を選んでいいぞ。今日は俺の奢りだ!」
「なんでもいいんですか!」
マヤが目を輝かせて言う。
「好きなの選べって言ってんだ。どれでもいい!男に二言はねぇ。」
「今日の店長はかっこいいですね!じゃあ私、一番高いの選んじゃいます!」
そう言ってマヤが手に取ったのは、男性用の精力剤の一番グレードの高い商品だった。三千円もするやつだ。
「お前、それは俺を困らせたいだけだろ!ナシナシ!こっちの棚から選べ!」
「二言はないはずなのに、おかしいですね〜。なら、こっちの棚で一番高いのを選んじゃいます!」
マヤはエナジードリンクの大きい缶、三百円くらいするやつを選んだ。僕はゼロカロリーのコーラにした。
「俺はもう仕事が終わったから、お酒飲んじゃうもんね〜。じゃあ、冴木の告白?まあよくわからんが、とりあえず成功を祝って!」
「「「乾杯!」」」
僕たちは一斉に飲み物の封を開け、みんなで飲んだ。
「っか〜!こういう時に飲む酒が一番美味いんだよ!じゃあ後の仕事は頼んだぞ。俺はこのまま帰らせてもらう。困ったら呼べよ。じゃあな!」
「「お疲れ様です!」」
二人で声を揃えて言った。
「みんなで乾杯するのって、楽しいですね〜。毎日やりたいです。」
「たまにだからいいんだよ。マヤ、カフェインは大丈夫なの?」
「カフェイン?確かになんだかこの飲み物、不思議な味がしますね。」
知らずに買ったのか。
「眠くなりにくくなる成分が入っているんだ。少しふわふわするかもね。」
「あ〜、言われてみるとふわふわする感覚、わかる気がします。まあ、仕事に問題はないです。そろそろ始めましょうか!」
僕たちはさっきの乾杯で元気をもらったのか、楽しく働くことができた。あっという間に休憩の時間になった。
「醒さん、休憩の時間ですね。今日はどうします?どちらからいきましょうか?」
「ねえ、たまには一緒にとってみるってのはどう?店長には内緒だよ。」
「醒さんも悪いこと覚えてきましたね〜!じゃあ、一緒に星を見ましょう!」
僕たちは制服のまま二人でコンビニを出た。とは言っても、お客さんが来るとまずいので、コンビニの入り口の近くだ。
「…星、あまり見えないね。コンビニの明かりが強すぎる。」
僕がそういうと、マヤは意外なことを言った。
「実は、見えてなくてもいいんです。私もほとんど見えていません。」
「じゃあ、なんで空を見上げるの?」
「目に見えなくても、星は常に光り輝いているものだからです。私の目には見えていないだけで、ずっと輝いている。実際に見えたら、どんなに素敵だろう。そう想像するだけで楽しいんです。」
僕は、中秋の名月の話を思い出した。
「聞いたことがある。中秋の名月は、必ずしも満月とは限らないらしい。そもそも、曇りや雨も多い時期だ。全く見えないこともあっただろう。それでも、人は月に見立てた丸い団子を作って、月を楽しんできた。実際に見えているものだけが、楽しみの全てじゃないのかもしれないよね。」
「素敵な話ですね。あ!今日の月は満月に近いですよ!あそこ!」
マヤが指さす方を見ると、ほんの少しだけかけた月が見えた。満月ではなかったけれど、とても美しく感じた。
二人の休憩は終わった。幸い、お客さんは一人も来なかったので、僕たちは時間いっぱいに夜空を楽しんだ。
僕たちは二人でレジに立つ。いつも通りに。
「醒さん。私、この時間が好きです。いつまでも、というわけにはいかないのはわかっています。だから、今を楽しみたい。そう思うんです。」
「いや、いつまでも、はあるかもしれないよ。時間の形が変わろうと、楽しい時間を二人で見つけ続ければ、それっていつまでも続いていることにならない?」
「ちょっと屁理屈っぽいですが、好きな考え方です。いつまでも続けていきましょう!」
僕たちは、いつまでもこの時間が続いていくことを願った。
同じシフトの宇宙人 完




