62話
マヤと一緒に朝日に照らされた街を歩く。外に出ると、もういつも通りの二人だった。
「醒さんは、子供は何人欲しいですか?」
…話題以外は。
「急だね。いや、急でもないし、今だからこそ話すことなのかな。…そうだね、何人ってより、男の子と女の子、両方の親になってみたい。だから二人くらいかな。」
「少ないですね、私はドーンと十人くらい欲しいです!」
それは現実的に可能なのか…?
とりあえず喫茶店に着いたので中に入る。案内された席に座り、メニューを眺める。
「あ、新しいメニューがいつの間にか増えていますね!私、これにします。」
「じゃあ僕も。飲み物はいつものでいいかな。…すみません、注文をお願いします。」
やってきた店員に注文を伝えて、話に戻る。
「昨日の夜も言ったけど、僕がマヤと子供を支えられるようになるまでは、子供は作らないよ。」
「不安症ですね、醒さんは。そんな醒さんに、今日は私の会社の福利厚生がどれだけ優れているかを教えたいと思います!」
「福利厚生?それって、産休が取りやすいとか、そういう話?」
「私の会社の女性の働きやすさは、日本のそれとは段違いに優れています!まず一つ目!産休中も通常通りに給料が出ます!」
おお、確かに魅力的だ。
「じゃあ、収入が途絶えることはないんだ。それは安心だね。」
「こんなのは序の口です!醒さん、産休を取る上でキャリアのことが心配になることはありませんか?日本の職場だと、昇進が難しくなったりしますよね。」
「確かに、しばらく仕事を離れるわけだから、大きな仕事を任せられなくなるんじゃないかって不安はあるよね。」
「そこで二つ目!これが最大の目玉です!その名も、『二階級特進制度』!」
それって、軍隊とかであるやつか?
「地球にも二階級特進はあるよ。殉職、つまり仕事中に死んだ人を二つ上の階級に昇進させる制度だね。」
「地球にもあるんですか。でも、死んじゃった人の階級をあげて、何になるんですか?」
僕は詳しくないが、知っている範囲で説明する。
「遺族の人が貰える遺族年金、死亡退職金。つまりもらえるお金が増えたりするんだ。あとは命を落としてまで任務を遂行した人をたたえる、名誉のためでもあるかな。」
「なるほどです。でも、私の会社の条件は違います。それは、地球人との子供を産むことです!」
「え、子供を産むことで昇進するの?じゃあ、産休中にもらえる給料は、産休前よりも多くなるの?」
「そういうことです!だんだん凄さがわかってきたんじゃないですか?」
確かにそれはすごい。キャリアの心配どころか、子供を育てることが直接キャリアアップにつながるなんて。
まあ、地球の感覚だと、子供を産んだ人が、殉職した人と同じように二階級特進することには違和感を覚えるが。
「この制度の恐ろしい点、気がついていますか?」
「いいところばかりじゃないの?」
「まあ、デメリットは後で話します。この制度、地球と違って回数制限がないんです!人間は1回しか死ねませんが、子供は健康な限り何度でも産めます!」
確かに人は1回しか死ねない。当たり前だがそうだ。
「現に、今の社長は出産による二階級特進を繰り返して社長の座についています。敏腕女社長です!女性が働きやすい理由、三つ目!社長が女性なので、女性にとって都合のいいルールが出来やすいです!」
それはまずくないか?
社長には、リーダーシップとか他に必要なものが色々あるだろうに。
「それって、仕事ができない人でも出産さえすれば上司になっちゃうってこと?まずくない?」
「う、そこに気が付きましたか。確かに、仕事が出来ないくせに、子供を産んだだけで偉そうな態度をとってくる上司に、イライラすることもあります…。」
マヤから珍しく仕事の愚痴が出た。
「それに、未婚の女性や男性社員の中から、快く思わない人が出てくるんじゃないかな?あと、子供を育てるための給料をもらうために、子供を産むっていうループに入るとキリがないよね。」
「確かにそうですね。まあ、デメリットの話はこれくらいにしておきましょう。本題に入ります。私の会社は子供を産む人にとっても優しいんです。なので、一人で支えようとしないでください。共働きで、二人で支え合っていきましょう。それが言いたかったんです。」
確かにそうだ。
僕はお金を稼いでマヤを支えられるよう頑張ることしか頭になかった。
「それに、私の会社のルールだけじゃないです。社会には、知っていると得をするルールや、助けてくれる人や制度が色々あります。そういうものと、うまく付き合っていきましょう。そうすれば、子供を持つことに対するプレッシャーも和らぐんじゃないでしょうか?」
マヤのいうことは正しい。僕の視野の狭さを実感した。
「ありがとうマヤ。思ったよりも近いうちに、僕たちは夫婦になって、親になるのかもしれないね。」
「夫婦ですか。いいですね〜!日本では妻は夫のことを『あなた』って呼んだりするんですよね。醒さん、もいいですが、あなたも素敵な響きです!一回呼んでみていいですか?あなた!」
あなた、か。そう呼ばれるのも嬉しいかもしれない。
それと、助けてくれる人について、僕には一つ心当たりがあった。
「ねえ、マヤ。よかったらなんだけど…。」
「お待たせしました。モーニングのセットです。」
「わあ、レタスとベーコンのサンドイッチ、美味しそうです!食べながら話を聞きますね!じゃあ、いただきます!」
数十分後…
僕は両親に連絡した。
『父さん、母さん。結婚を前提に付き合っている人が、子供が早く欲しいと言っています。もし子供が生まれたら、実家の近くに住んだり、実家に帰ったりするかもしれないので、子育てを手伝ってくれませんか?今度、彼女の紹介も兼ねて相談に行きたいです。』




