60話
僕たちはお互いの家に向かって歩く。まだマヤの顔は赤い。さっきよりも赤くなっていないか?
「マヤ、顔が赤いよ。大丈夫?」
「あはは、そうですか?確かに顔が熱いです。手を繋いでいるからでしょうか?」
さっき飲んだお酒は、マヤの体質上問題ない量のはず。僕は心配になる。周りを見渡して人がいないことを確認してから、マヤのおでこに手を当てる。熱がありそうだ。もう少し詳しく知りたい。
「ちょっと失礼。」
マヤの前髪を上げて、自分のおでこをマヤのおでこに当てた。僕よりも少し熱い。熱があるかもしれない。
「醒さん、それ、顔が近くてドキドキします。もういいでしょうか?」
僕はおでこを離す。そろそろ僕の家。誰でも使える解熱剤があったはずだ。
「マヤ、家まで送るつもりだったけど、一旦僕の家に寄ろう。たくさんの水と薬を飲んで、ゆっくり休むといいよ。」
「いや、この熱は…。でも、わかりました。醒さんの家、お邪魔しますね。」
僕たちは家に入る。布団を敷いてマヤを寝かせる。冷蔵庫から水も出した。
「醒さんの布団、すごく安心する、でも、ドキドキする匂いがします。」
僕は解熱剤の写真を撮ってヴェリティさんに電話をかける。さっきコンビニに行くと言っていた。時間はあるだろう。緊急の要件だからチャットではなく電話にした。
「冴木くん。マヤちゃんと一緒にいるのに他の女に電話するなんて、もう一度殴って欲しいのかい?」
「そんなこと言ってる場合じゃないんです。マヤが熱を出したみたいで、今家で休ませてるんです。顔が真っ赤で…。…今送信した写真を見てください。この薬、宇宙人のマヤに飲ませて大丈夫ですか?」
すると、返ってきた答えは意外なものだった。
「ああ、その熱の理由はさっき水瀬ちゃんと話したからわかる。結論、地球人の薬は用法・用量を正しく守れば、宇宙人に飲ませても問題はない。だが、今のマヤちゃんには必要ない。」
僕には意味がわからなかった。
「二人でもっと話し合うんだ。冴木くん、マヤちゃんの覚悟を無駄にしたら、宇宙に強制連行、かつ脳データ強制スキャンの刑にしてやるぞ。」
「水瀬さんにも似たようなことを言われました。何か知っているんですか?」
「だから、それをマヤちゃんと話し合えと言っているの!一つだけヒントをあげるけど、マヤちゃんの体は、宇宙年齢の2歳じゃなくて20歳の人間として接してね。それで法的にも問題ない。じゃ、切るよ。」
電話は切れてしまった。
マヤと話し合え、か。マヤの体力を使わせるのは気が引けるが、他にできることもない。僕はおでこに貼る冷却シートを棚から出してマヤに持っていく。
「これ使って、楽になるよ。」
「なんですか、これ?」
「こうやってシートを剥がして…。前髪あげるよ。」
「うわ!冷たいです。でも、心地いいですね。」
マヤの顔色が良くなった気がする。まだ少し赤いけど。
「このシート、気に入りました。ありがとうございます。…醒さん、私たちの秘密の買い物で何を買ったか、見たいですか?」
急に別の話になって困惑したが、正直に答えた。
「うん、知りたい。マヤはよく言っているよね。友達に隠し事はなし、って。そんなマヤがここまで秘密にするのは珍しい。気になっているよ。」
そういうと、マヤは真っ赤な顔で言った。
「じゃあ、今から見せます。私から目を離さないでくださいね。」
そういうと、マヤは服を脱ぎ始めた。僕は目を離すなと言われたのに、目を逸らしてしまった。
「私たちが買ったのは、これです。可愛い下着です。会社支給の服装には、こんなに可愛いものはなかったので。」
僕は逸らしていた目線をマヤに戻す。白い肌に可愛い黒の下着、それに金髪。
恥ずかしいけれど、見惚れて目が離せなかった。
「可愛いよ。」
「そう言ってもらうために勇気を出して買いました。」
どうしよう。気まずい。この状況で何を話せばいいのかわからない。
「醒さん、私が熱を出した理由の半分、理解できましたか?」
そう言われて、気がついた。マヤはこれを見せるために準備をしてきた。でも、心の準備はいくらしても足りないものだ。恥ずかしかったに違いない。だから顔が赤くなった。
「もう半分は、私のバッグの中に入っています。さっき買った、私の覚悟の証です。開けていいですよ。というか、開けてください。」
覚悟。
その言葉を聞いて、二人の言葉が蘇る。マヤと一緒に下着を買いに行った、水瀬さんとヴェリティさんの言葉だ。
『マヤちゃんの覚悟を無駄にしたら、絶交だからね。』
『マヤちゃんの覚悟を無駄にしたら、宇宙に強制連行、かつ脳データ強制スキャンの刑にしてやるぞ。』
僕はマヤのバッグを開ける。そこに入っていたのは、あの日僕がマヤに使い方を説明した、男性用の精力剤だった。
マヤの覚悟の意味、僕はそれを全部理解した。
「受け取るね。」
それだけ言って、僕は精力剤を開封して飲む。甘ったるい液体の中にスパイスの辛味がある、飲んだことのない不思議な味がした。
僕はマヤに近づき、キスをした。唇を離すとマヤが口を開く。
「醒さんの口の中、不思議な味がします。でも、初めてのキスの味。私、忘れません。」
ゆっくりマヤを押し倒す。マヤの目をまっすぐ見つめる。
「いい?始めるよ。」
マヤはゆっくり頷いた。
この後の僕は、流れに身を任せた。




