6話
僕とマヤさんの2日目の仕事が始まった。マヤさんは相変わらずテキパキと仕事をこなしている。時折、
「お客様が切手?というものが欲しいそうです。どこにありますか?」
と、分からないことはその都度聞いてくれる。勝手に判断したりしないのは一緒に働いていて安心感がある。
「休憩に行ってきます。」
「今日も外で休憩を取るんですか?」
「はい、星が見たいので。」
僕だって星は綺麗だと思う。でも、街の明かりで見えにくくなった星を、わざわざ休憩時間に見に行くのは正直変わってるなと思う。
マヤさんの休憩が終わり、レジに戻ってきた。
「戻りました。次は何の仕事をすればいいですか?」
「レジでゆっくりしていて大丈夫ですよ。やるべき仕事は終わったので。」
「わかりました。」
少しの沈黙のあと、マヤさんが口を開いた。
「冴木さん。欲しいと必要の違いってなんですか?」
急だな。なんて答えよう。欲しい…必要…。
その時スッと閃く。英語に置き換えればマヤさんには伝わるだろう。なんたってアメリカ人だし。
「欲しいはwant、必要はneedです。」
「…?」
あれ?通じていない?正直合っているか自信がなくなってきた。
「僕の英語、間違ってます?」
「私宇宙人なので、英語少ししか分からないです。」
宇宙人設定を続けるのか…。とりあえず、日本語を使って日本語の解説をしなきゃいけないのか。難しいな。
「…そうですね。例えば電気と水道。これがないと生活できないですよね。これは必要なもの。」
「はい、ないと困るものですね。」
僕は辺りを見渡す。スイーツコーナーが目に入った。
「そして例えば…お菓子とかスイーツとか。こういうものがなくても生活することは出来ます。でもあると嬉しいものです。それが、欲しいものです。」
「はい、違いがわかった気がします!」
彼女は目を輝かせている。どうやら伝わったようだ。
「じゃあ、冴木さんの必要なものって何ですか?」
「…お金、とかですかね?」
そう、お金が必要だからこうして今働いてるわけで、間違いではないはずだ。
「じゃあ、冴木さんの欲しいものって何ですか?」
欲しいもの、そう聞かれて僕は何も答えが出てこなかった。
趣味のゲームはセールで買ったソフトが、遊びきれずに山積みになっている。かといって他に欲しいものも思い浮かばなかった。それに特別生活で困っていることもない。
「…わからない、です。」
僕はなんとなく自分が情けなく思えた。一瞬止まった2人の会話のせいで、店内BGMが大きく聞こえた。
「…それなら、なんでお金が必要なんですか?」
「え…?」
「欲しいものが分からないのに、お金が必要なのは不思議です。」
確かにそうだ。普通は生活に必要だとか、欲しいものがあるからお金を稼ぐために働く。でも僕は親からの仕送りと奨学金で余裕はないが生活できている。そして明確に欲しいものもない。
ならどうして僕はここで働いているんだ…?
なんとなく、すぐ答えは出ない気がした。そしてヒントを求めるかのように、僕はマヤさんに聞いた。
「そう言うマヤさんはどう?何が欲しい?何が必要?」
「私は情報が欲しいです。」
「情報?それって日本の?」
日本文化とか日本語の勉強がしたいのかな?
「日本だけじゃないです。地球、世界、日本、そして冴木さん。色々な情報が欲しいです。」
僕の情報まで欲しいと言われると、少し困惑する。なにに使うんだ。
「…ずいぶんスケールの大きい話ですね。じゃあ、その為に必要なものって何ですか?」
「時間です。」
彼女ははっきりとそう答えた。
「私にはもっと時間が必要です。もっと長くここに居たいです。」
そういえば、店長がビザの期限の話をしていたのを思い出す。彼女はそう長くここにいられないのかもしれない。
はっきり自分の必要なものと欲しいものが答えられる彼女。ほぼ何も答えられなかった僕。
普段教える側の僕も、きっと彼女から学べることがあるのだろう。そんなことを考えていた。




