56話
料理はどれも美味しかった。地元の野菜や肉を使うことにこだわりを持っていると聞いていた。鮮度というものはここまで料理を美味しくするんだな。そう実感した。
「醒さん!この肉料理、すごく美味しいです!でも醒さん、取りませんでしたよね。はい、あーん。」
恥ずかしかったが口を開けて食べた。確かに美味しい。でも、恥ずかしさの方が上だった。
「美味しいでしょう?醒さんも、もっとお肉を取れば良かったのに。」
そんな時間を過ごしているうちに、あっという間に料理はなくなっていった。
「私、ちょっとお手洗いに行ってきます。」
チャンスだと思った。
僕は店員を呼んでお会計を済ませる。カバンから指輪とネックレスのセットを取り出し、服の中に隠し直す。カバンはそのまま店員に預かってもらった。これで告白の準備はバッチリだ。
「そろそろ料理がなくなりますよね。目くばせやハンドサインなどでお呼びくだされば、花束を持って席までお持ちします。」
「はい。よろしくお願いします。」
僕は店員と段取りを確認し、マヤを待つ。マヤはしばらくして帰ってきた。
「料理も残りわずかですね。最後まで楽しみましょう!」
僕たちは残った料理を食べ終わった。
「今日は楽しかったです。こんな時間が、いつまでも続けばいいのに。醒さんも、そう思いませんか?」
「今日のデートは、もうすぐ終わってしまう。でも、二人でこれからも、大事な思い出を作り続けよう。そうすれば、楽しい時間は永遠と言っても、いいんじゃないかな。」
マヤは、嬉し涙を浮かべているが、笑顔を見せていた。
そろそろだ、そう思った。近くの店員に見えるよう、ハンドサインを出す。少しして、店員が花束を僕に渡した。
「僕の気持ちを伝える。マヤ、大好きだ。一生大切にするから、どうか受け取ってほしい。」
まずは指輪とネックレスの箱を開いて見せる。
「これは…?」
「地球の人が結婚を申し出るときには指輪を渡す。ただ、これは結婚を申し込むための指輪じゃない。結婚を前提に付き合ってほしい。その気持ちを形にした、僕なりの告白だ。受け取ってほしい。」
マヤは、指輪とネックレスを受け取った。僕は続けて、花束を渡そうとした。十二本の白いユリの花束だ。
「これも本当は結婚するときに渡すものだけど、付き合い始める今日にも、受け取ってほしいものなんだ。」
マヤは白いユリの花束を見て、口を開く。
「醒さん。なぜ、私がこの花を好きだと知っているんですか?」
「え…。」
「この花が好きだって知っているのは、世界に二人だけのはずなんです。結愛ちゃんと、ヴェリティさんです。」
マヤはまっすぐこちらを見ている。理由を話すまで、受け取るつもりはないらしい。僕は店員をハンドサインで呼んで、花束を預ける。
「10分後、また持ってきてください。それまでに、彼女に誠実に話さなければいけないことが出来ました。」
店員は何かのトラブルかと少し慌てていたが、事情を察したのか、了承して花束を持っていった。
僕たちの、一番長い10分間が始まった。




