55話
ディナーの時間を計算して、僕たちはダーツ屋を後にした。
「実は、この後ディナーを予約してるんだ。お店に向かおう。」
「わかりました、醒さ…。ちょっと待ってください!あれは…!」
マヤは一人で走り始めてしまう。追いかけるとゲームセンターに入っていった。クレーンゲームのコーナーにいる。
「いいですね、この、こなもんのぬいぐるみ!眠そうな顔が可愛いです!ねえ醒さん、1回でいいのでやりましょう!」
まあ、1回くらいなら、時間は別に問題ないだろう。
「いいよ、やってみて。」
ICカードを機械にかざして決済している。もう使い慣れているな。
マヤが操作するクレーンはちょうどいい位置に止まってがっちりとこなもんを掴んだ。…アームが強い。もしかしたら取れるかも。
そう思ったが、ギリギリのところで落としてしまう。出口に引っかかって少し押せば取れそうな位置まで来た。
「惜しいですが、これは絶対取れるやつです!もう1回やります!」
マヤは続けて決済してもう一度挑戦する。今度は少し位置が悪かった。だが、ぬいぐるみの位置は、より出口に近くなった。
「そろそろ行こう。時間になるよ。」
「何言ってるんですか、醒さん!あとちょっとです!ここでやめるのは、バカです!」
普段だったら、僕も取れるまでやっていただろう。だってこんなチャンスは滅多にない。マヤが夢中になるのもわかる。だが、予約の時間はどんどん迫ってきている。僕は焦る。
その後、マヤの最初の調子の良さはどんどん失速していった。
「ああ、少し狙いが甘かったですね。もう一回です。」
「いや!今のは取れてました!私のせいじゃないです!機械の不調です!」
「そう、そのまま…。だー!でも後一回で確実に落ちます!」
マヤは夢中になって何回もお金を支払った。途中からICカードにチャージした金額がなくなり、現金に切り替えていた。
「ふー、ふー、あ、醒さん台に触れないでください。感覚が狂います。…そのまま…。」
…目が怖くなっている。クレーンはこなもんのぬいぐるみのお尻を引っ掛けて、やっと出口に押し込んでいった。
「やったー!やりました!ついに取れました!いやー、お金かかっちゃいましたね。」
「普通に買った方が安かったね。」
「確かにそうですね。でも、それを言うのは野暮ってもんです。楽しかったんですから!」
マヤは笑顔だ。時計を確認する。予約の時間は過ぎていた。
「あ、マヤ。ちょっと失礼。店に電話してくる。」
僕はそう言ってゲームセンターを出る。
「はい、予約の冴木です。ちょっと遅れます。キャンセルじゃないです。はい、よろしくお願いします。」
電話を終え、ゲームセンターの中の方を見ると、マヤがいなくなっている。焦って辺りを見渡すと、マヤは既にぬいぐるみを袋に入れて、おしゃれなバーを外から見ている。
「マヤ、おまたせ。何見てるの?」
「醒さん、夕飯ここにしませんか?スピリタスが置いてある店らしいです。新宿で飲んだ時は途中でなくなっちゃいましたが、実はもっと飲みたかったんです。」
「いや、また今度にしよう。今日はレストラン!」
「ちぇー。」
全然予定通りに行かなかったが、マヤといる時間は楽しかった。焦る気持ちはいつの間にか消えていた。
道中で色々ありつつも、僕たちはレストランに到着した。
「予約している冴木です。荷物のお預かりをお願いします。…あ、このカバンだけは僕が持ちます。」
さっきトイレで指輪を移しておいたカバンだ。危ない危ない。渡すときにさっと取り出せるよう最初は服の中に隠していたが、落としそうだし、何かにぶつかった時の音でバレるのが嫌で移していたんだった。
その他の荷物やこなもんのぬいぐるみは店に預かってもらった。
席に案内されると、マヤはガラスの壁に手をついて外を眺めている。
「醒さん、すごいです!街が全部見えます!お店の光が星みたいで、上にも下にも星空です!」
マヤがガラスについた手を離すと、僕はさりげなくその跡を拭き取った。汚れひとつない、綺麗なガラスに戻った。
確かに綺麗だった。前に一人で眺めた時とは全然違った。改めて思う。この店に来て良かった。
「醒さん。食べ物のメニューがありません。お酒のみのメニューです。みんな料理を自分でとっています。私たちはどれを食べればいいんですか?」
「ビュッフェは初めてだよね。実は僕も初めてなんだ。」
「ブッフェ?」
「好きな食べ物を自分で盛り付けて食べるんだ。楽しそうでしょ?」
「はい!隣の人みたいに、綺麗で可愛いお皿を作りたいです!」
声が大きい。隣の人に聞こえている。笑われている…。
僕たちは先にお酒を注文し、料理の盛られた皿から好きなように取る。マヤは、サラダや前菜のエリアまでは綺麗な盛り付けだったが、肉料理のコーナーで欲望のままに取り、皿の上がアンバランスになっていた。
「食べ切れる分だけ取るのがマナーだよ。大丈夫そう?」
「そういう醒さんもサラダだけで2皿、多すぎです。人のことを言えません。」
「しょうがないでしょ、初めてでペース配分わからないんだから。」
最終的に、二人とも個性的な皿に仕上がった。マヤの皿は見るだけでしょっぱくなりそうだ。肉と味の濃いものが多く、デザートがない。逆に僕は大量のサラダとほんの少しの肉料理、デザートだけになった。
「醒さん、真面目にやってます?」
「マヤも人のこと言えないよ。でも、二人らしいかもね。」
二人で笑った。
飲み物も到着して、食べる準備は出来た。
「なんか思っていたのとは違いますが、これも思い出です。写真に残しておきます。…じゃあ、いただきましょうか。」
僕たちはスパークリングワインのグラスを手に取り、軽く合わせた。
「「乾杯!」」




