57話
自分で決めた時間だが、10分は短い。一番早く伝わる、直接的な方法でマヤに理由を伝える。
「僕がマヤの好きな花を知っていたのは、これが理由だよ。」
僕はチャットアプリを起動して、『マヤちゃんへの告白を成功させようの会』のグループチャットを見せた。
「これは、グループチャット?メンバーは、醒さんと結愛ちゃん、ヴェリティさんの3人です。私がいません。」
「僕が事前に二人に頼んだんだ。マヤと一緒に服を選んで、好きな花も調べてほしいって。」
「あの日の買い物、醒さんが計画していたんですね。」
「その計画を伝えたときに水瀬さんが作ったのが、このグループチャットだ。自由に見ていいよ。」
僕はスマホを渡す。マヤはスクロールして全部のチャットを確認した。
「女の子の秘密の買い物以外、全部知られていたんですね。」
「僕もそれはさっき初めて知った。マヤがその時が来たら教えてくれるって言ってたから、僕はその時まで待つよ。今ここでは聞かない。」
「はい。今ここでは話せませんし、見せられません。」
僕は、全部を打ち明けることにした。
「計画を立てたのは全部僕だけど、たくさんの人に助けてもらった。水瀬さん、ヴェリティさんには特にお世話になった。指輪の選び方だって、僕一人じゃ無理だった。店長に相談したんだ。」
「店長に相談したんですか?じゃあ、私たちの関係も…。」
「あ、いや、相手がマヤってことは伝えてない。もしかしたら、察してるかもしれないけど。」
「良かったです。あの店長なら大丈夫だとは思いますけど、職場の居心地が悪くなるのは、正直嫌です。」
「指輪とネックレス、花束。全部助けてもらったから今日用意できた。髪型だって美容師におまかせした。使ったワックスと服装は、前田くんの影響を強く受けてる。」
「…。」
「全部はマヤに少しでも楽しんでもらうためだ。でも、僕一人じゃ情けない、何も出来ないダメな人間だと思われても仕方のないことをした。あと少しで花束が届く。もしこんな僕じゃ嫌だったら、荷物だけ持ってこのまま帰ってほしい。」
マヤは考え、口を開く。
「私は、帰りません。花束を受け取るまで帰りません。私は醒さんを情けないなんて思いません。確かに秘密にされていたことはあります。でも、全部見せてくれました。正直に話してくれました。なら、残っているのは、私のために全力で楽しませようとしてくれた、その気持ちです。」
「…。」
「醒さん。約束、覚えていますか?なんでも言うことひとつ聞くって。今、約束を使います。今度は秘密にせず、私になんでも話してください。サプライズしたい時でも、事前に言ってください。今、私に誓ってください。それが、なんでもひとつ言うことを聞く約束の使い道です。」
「…ああ、誓うよ。例えサプライズで喜ばせたい時でも、事前に言う。他のことも、なんでもマヤに話す。本当に今度こそ、隠し事はなし。誓うよ。」
僕たちは小指を交わして、指切りをした。
花束を持った店員が近づく。二人は席から立ち上がる。僕は花束を受け取って、マヤに誓う。
「そして、もう一つ誓う。いつか、一生マヤを支えられるだけの立派な人間になる。その時まで、一緒にいるために告白をする。マヤ、大好きだ。結婚を前提に、僕と付き合ってください。」
マヤは花束を受け取り、笑顔で涙を流している。
「はい。こちらこそ、付き合ってください。」
それだけいうと、マヤは泣き崩れてしまった。
「あれ、おかしいな。嬉しいはずなのに、涙が止まりません。」
僕はハンカチでマヤの顔を拭く。落ち着くまでずっと拭いていた。




