51話
僕は店長にチャットを送った。完全に業務に関係ない、個人的な話で少し緊張する。
『店長は結婚する時、どこのブランドの指輪を渡しましたか?あと、勤務中は着用禁止の指輪をどのように保管していますか?』
送信して既読がつく。しばらくすると…。店長から電話がかかってきた。
「はい、冴木です。」
「俺だ。チャット見たぞ。また友だちの話か?」
察しが良くて助かる。
「はい、そうです。」
「いい加減、この茶番やめないか。お前の話だろ。」
ばれている。そこまで言われてしまったら、もう隠すこともできない。僕は正直に白状することにした。
「すみません。嘘をつきました。全部僕の話です。」
「余計な気を使わなくて良くなって、楽になったよ。」
怒っている様子はない。
「で、なんだ。指輪のブランドか?もしかしてお前、買おうとしてるのか?」
「まだ、考えています。値段のこともありますし。参考にしようと思って。」
「まず、俺は指輪のブランドを知らねぇ。今持っているのは二人で選んだ。というより、俺がやったことは、『好きなものを選べ、金は出す』って言っただけだ。カードで決済したから、値札も見てねぇ。」
男気を感じる買い物だ。色々な意味で真似できそうにない。
「でも、二十万、三十万する買い物だ。金はどうする気だ?」
「ローンを組んででも、彼女の欲しいものを買ってあげたいです。」
「バカ言ってんじゃねえよ。お前は大学生。相手も大学生ってところだろ。そんな買い物しても彼女は喜ばねえよ。」
怒られた。それに、正論だと思った。
僕は少し冷静じゃないのかもしれない。
僕は付き合う以上結婚を前提に考えている。なら、早く買ったほうが長く使えていいと思ったのだが、必ずしもそうとは限らないかもしれない。
「大学生の指輪ってんなら、シルバーがいいんじゃないか?」
「それって、二千円から、高いと四万円くらいのやつですよね?」
「もちろん、それを一生使えって意味じゃない。お前がウチを辞めて就職して、給料もらって親孝行も済ませて、ちゃんとした値段の指輪が買えるようになったら、好きな指輪を二人で買いに行けばいい。それまでの繋ぎの、約束の指輪だ。」
確かにそれはいいアイデアだと思った。
「はい、それで行こうと思います。」
「それと、保管方法だっけ。確かに指輪はコンビニで働く時に付けちゃいかん。うちのチェーンのルールだからな。落としたりするリスクもある仕事だし、衛生面での問題もある。俺が知ってる範囲でやってるのが多いのは、ネックレスに通して身につけて、服の下に隠すやつだ。」
「店長もやってるんですか?」
「外から見てもばれにくいからやる奴は多い。だが、ルールでネックレスも禁止だ。俺はやってねぇ。でもネックレスにしておくと、指輪をなくしにくいだろ。だから俺も出勤する時はそうしてる。勤務中は専用のケースに入れて、ロッカーに鍵をかけておく。」
確かに指輪をそのまま持ち歩くより、なくしにくいかもしれない。仕事の前後でつけたり外したりするなら、その方法はいいかもしれない。
「わかりました。安い指輪とネックレス。両方買おうと思います。」
「ルール破って勤務中につけてたら、没収するからな。俺を騙せると思うなよ。」
釘を刺された。指輪を渡すときには、マヤにも十分気をつけるよう伝えなくちゃ。
「もういいか、一応勤務中だったんだ。」
「え、勤務中だったんですか?個人的な用事なのにすみません。」
「気にするな。うまくやれよ。」
そう言って、電話は切れた。勤務中に僕個人の相談に付き合わせた罪悪感と、助言をもらえたことへの感謝が混じった、不思議な気分だった。
僕はスマホで近所の指輪ショップを検索して調べた。シルバーの指輪とネックレスを買うために、着替え始めた。




