49話
「私、雑誌の取材とかで出かけることになりました。『歌舞伎町の帝王』を飲み勝負で倒して、その後にスポンサーの肝臓サポート飲料の宣伝をする。そんなお仕事です。」
令和の時代に、そんな仕事を引き受けるな、と思った。
だが、マヤは仕事を選ばず夜の街へと行ってしまった。なので今日のバイトは最初だけ店長と二人。その後ワンオペだ。
店長も戸惑っている。
「マヤさん大丈夫かな?お酒強いように見えないけど。」
「その心配はないんですが、それ以外の全部が心配です。」
マヤのお酒の強さは宇宙レベルだ。新宿・歌舞伎町という街の帝王など、相手にもならないだろう。むしろ、相手のほうが可哀想だ。
僕は洗い物をし、店長はレジで発注をしている。
僕はあれからずっと考えている。最高のデートとは何か。朝起きたらまずマヤのことを考え、どうしたら最高のデートになるのか考えてしまうほどに。でも、全く答えは出なかった。
頼れる人もなかなかいない。まず、水瀬さんとヴェリティさんは頼れない。
『自分で考えなさい!』
『私に聞く前に少しでもマヤちゃんと話したほうが有益だよ。』
…言われる前から想像できる。
前田くんは、彼女ができてもすぐに別れてしまうらしい。頼れない。
唯一頼れるとしたら、目の前にいる店長しかいなかった。
「店長、最高のデートって、なんだと思います?」
「なんだいきなり、藪から棒に。」
「僕…の友人が、最高のデートがしたいけど、それがわからないって言ってるんです。僕もわからなくて。」
店長は発注の手を止めない。それでも答え始めた。
「まず、人に聞く時点でダメだな。二人には二人だけの世界がある。それを知らないことには、アドバイスのしようもない。」
そうだよな。答えに一番近いのは、常に自分なんだ。他の人は頼れない。
「それでも、定番みたいなのはあるよな。みんながみんな定番を好きな訳じゃないが、たとえば夜景の見える店で花束を持ってプロポーズ、なんてベタだがいいんじゃないか?」
確かによく見る気がする。
「あ〜でも、金かかりそうだよな。お前…の友人だって大学生だろ。相手も大学生ってところだろ?あんまり高い店に連れて行くのも、重いんじゃないかな。」
重い、か。最近よく言われている気がする。
「店長は奥さんにどんなプロポーズをしたんですか?」
「俺か?あんまり自慢できるもんじゃない。酒の力を借りちまった。あいつが大好きな居酒屋で、『一生一緒にいてくれ』って言った。それだけだ。」
酒の力を使っても、本気で愛する気持ちがなければその言葉は出てこなかったと思う。
別に恥じることでもなんでもないと感じた。
お互いが大好きな居酒屋で、お互いに一生支え合う約束をする。そんな二人の世界は、とても美しく思えた。
「お前はどうしたいんだ。」
「え…。」
「それが一番大事なんじゃないかな。」
僕がどうしたいか、か。僕はマヤとどうしたい?
「まあ、それがわかれば苦労はしてない、か。洗い物、終わってるだろ。休憩行ってきな。」
僕は休憩に入った。でも、気持ちは一切休まらない。常に動き続けている。僕はどうしたい?その気持ちが消えない。
今までマヤと訪れた場所を振り返る。チェーンのハンバーガー屋からお互いの家まで、いろいろなところに行ってきた。どれも楽しかった。マヤもそう思ってくれているといいな。
そんなことを考えていると、あっという間に休憩は終わっていた。レジに戻る。
「おかえり、これ終わったら俺は帰るな。後よろしく。」
「はい、任せてください。」
10分もせずに店長は帰る準備のためにバックヤードに入った。僕はずっと仕事以外のことを考えるのも良くないと思い、両手で頬をバチンと叩く。気合いを入れ直した。
店長が出てきた。
「ああ、最後に一つ。いつだって頼れるのは自分だが、応援してくれる人はたくさんいるもんだ。」
「え…。」
「俺だって応援している。お前…の友人だっけ?そいつがうまく行くよう祈ってるよ。」
そう言って店長は帰って行った。
確かに頼れるのは自分だが、周りの人が応援してくれている。それに気がついていなかった。水瀬さんやヴェリティさんだって、いつも応援してくれているように思う。そう思うと視野が広がったような気がした。
「すみません、レジお願いします。」
そう言われてレジを打つ。そのレジを打つ手は、少し軽くなったように感じた。




