48話
僕は大学の講義をリモートで受けている。ノートパソコンを折りたたみテーブルに乗せて、画面に映った教授の顔と板書を見ながらノートをとっている。
スマホがバイブレーションで震えた。チラリと画面を見るとマヤからの連絡だったので確認する。
『街で今、偶然出会って結愛ちゃんとカフェに来てます。醒さんと一緒に行くよりも先に、結愛ちゃんと来ちゃいました。ごめんなさいね!』
画像が添付されている。自撮りしているマヤの表情は、謝っている文面とは正反対の笑顔だった。後ろには、楽しそうに笑っている水瀬さんと美味しそうなドリンクが映っている。
講義中なのでとりあえずスタンプだけ返して講義に集中する。
講義も終盤に差し掛かったところでまたスマホが通知を鳴らす。マヤからの追加の連絡があったと思い確認すると、ヴェリティさんだった。以前僕のドリンクの注文方法を教えて欲しいと言われた時に、解説の文章を送ったきり連絡がなかったので、意外だった。
『冴木くんのオススメ美味しいね。注文するときは緊張したけど、買ってよかったよ。ありがとうね!』
添付された画像は、すぐに削除された。だが、マヤと水瀬さんと同じカフェにいることは分かった。
『SNSに上げる写真だから削除させてもらったよ。』
それだけ追記の連絡が来た。僕はまたスタンプを送って講義に戻る。その後すぐに講義は終わった。
マヤに連絡する。
『外のテラス席見て。ヴェリティさん、いるんじゃない?』
それだけ送信するとすぐに返信が来た。
『今、合流しました!醒さんも来てください。急いで!』
スタンプでさらに急かされる。なぜ招待されているのかはわからない。女子3人で楽しめばいいと思って連絡したが、なぜか僕も参加することになっている。
僕は講義に使ったノートパソコンとノートをしまって、服を着替えて準備する。髪をセットする前にモバイルオーダーで注文を済ませておく。
そしてマヤに
『サエキの名前のモバイルオーダーの注文、僕のだから受け取っておいて』
そう連絡した。急いで、と言われているので髪のセットはこの前買ったスプレータイプのワックスと手ぐしで軽く整えるだけにした。
カフェまでは結構距離がある。到着までは時間がかかったが、3人とも残っていた。僕の分の椅子まで、きちんと確保してある。
「お待たせ。マヤさん。」
「醒さん、遅いです!」
「冴木くん?マヤさん、じゃないよね?」
水瀬さんが怒っているような、それでいて楽しそうな声でそう言う。
マヤは「醒さん」と僕のことを呼んで、隠す様子がない。
「もしかして…。」
「はい。話しました。結愛ちゃんはもう友達。隠し事はなしです。」
「聞かせてもらったよ。もう一度言うね。マヤさん、じゃなくて?」
「…マヤ、お待たせ。」
「はい!醒さん。待ってました!」
水瀬さんのテンションが上がっている。
「きゃー!いいねいいね!」
と一人で興奮している。
「楽しそうだね。若いっていいね〜。」
ヴェリティさんも楽しそうだ。
「それで、僕を呼んだのはどうして?大学の講義中だったから遅れたけど、何かあった?」
「醒さん!大ニュースです!実は私たち、付き合ってないらしいです!お互いに好きって言ったのに!」
マヤは真剣な顔でいった。
「ねえ冴木くん。どうして好きって伝えた流れで、告白しなかったの?」
水瀬さんは怒っている。楽しそうにしたり、怒ったりで忙しそうだ。
「なぜって、僕にはまだマヤを一生幸せにする覚悟と準備がなかったから。」
「…なんか重くない?」
「重いですよね。」
水瀬さんとマヤが小声で話している。全部聞こえている。
「やっぱり冴木くんは恋と愛を混同してるよね。告白とプロポーズの違い、なんだかわかる?」
「告白が前で、プロポーズはその後にする物ですよね。」
「前後だけじゃなくて意味が全く違うの!告白は付き合う意思表示で、プロポーズは結婚の意思表示。」
「似たようなものじゃないですか。」
僕の回答に、マヤ以外は呆れている。マヤは、
「なるほどです。そういう違いがあるんですね〜。」
と頷いている。僕も今まで深く考えていなかったが、そういう違いがあるのか。
「でもやっぱり、似たようなものじゃないんですか?結婚するために付き合うんだから。」
僕がそういうと、
「冴木くん重いよ、重すぎ!もっと気軽に恋しようよ。っていうかしてよ!」
水瀬さんは言う。
「醒さん。わかりやすいからまた同じ例え話をしますけど、小さい子供…10歳くらいの子供を想像してください。できましたか?その子供同士は、結婚を前提に付き合いますか?」
マヤの問いに、僕は答える。
「結婚が前提じゃない、と思う。お互いが好きだから。それだけの感情で付き合うね。」
「そうだよね!だからお互いが好きって最初に伝え合ったタイミングが、一番告白に向いてるんだよ!」
水瀬さんが熱弁している。恋愛を観察するのが好きって言ってたけど、ここまで性格変わるんだな、と思う。
「で、冴木くん。1番いいタイミングを逃したけど、君はいつマヤちゃんに告白するの?」
ヴェリティさんに聞かれて少し考えてこういう。
「マヤを一生大事にできる覚悟と準備ができた時です。」
「それっていつになるんですか!私、いつまで待てばいいんですか!ヤダヤダヤダ、早く醒さんと付き合いたいです!」
「だよね!早く付き合いたいし、こんな時代に言うのもアレだけど、男の子から告白して欲しいよね!」
マヤは駄々をこね、水瀬さんは完全にマヤの味方だ。ヴェリティさんも僕の味方をする雰囲気は…。
「冴木くん。チャンスの提案なんだけど。聞くかい?」
味方をしてくれそうだ。よかった。
「お願いします。ヴェリティさん。」
「マヤちゃんを最高のデートに誘って、一番盛り上がったタイミングで告白をする。最初で最高のチャンスを逃した以上、これくらいしないとダメじゃない?」
「「ですよね〜!」」
マヤと水瀬さんが綺麗にハモっている。それに助け舟かと思ったら泥舟だった気分だ。告白の難易度が、さらに上がってしまった。
「じゃあ決まり!冴木くん、準備ができたらマヤちゃんを最高のデートに誘ってね!」
「醒さん、待っていますね!じゃあ、みんなドリンクも飲み終わったし話も綺麗にまとまりました!そろそろ解散にしましょう!」
「楽しかったよ。解散の前に水瀬ちゃん。私とも連絡先交換しよ。今度は奢るよ、お姉さんとして。」
水瀬さん、マヤ、ヴェリティさんの3人で勝手に話が進んでいった。
最高のデートってなんだ。僕は考えたが、すぐに答えが出るはずもなかった。




