46話
「醒さん。今度はお酒の力を借りずに、もう一度。お願いします。」
僕はアルコールでフラフラになった頭で考える。思い出せ、何があった…。
数時間前…
「そういえば、冴木さんから誕生日プレゼントをまだ貰っていません。その箱ですよね。開けていいですか?」
「もちろんいいよ。開封して。」
お店で綺麗にラッピングしてもらった箱の包装を、マヤさんは丁寧に剥がしていく。箱のパッケージにはロゴが書かれている。
「このロゴ、もしかして…。」
そう言って開封する。僕が中に入れたプレゼントは、ドライヤーだった。
「わあ、私ドライヤー欲しかったんです!どうしてわかったんですか?」
「たまたまだよ。その綺麗な髪を大事にするために必要。そう思って選んだんだ。」
ヴェリティさんは身の回りのものは会社の支給品で性能が良くない安物だと言っていた。なら、ドライヤーも例外ではない。風量の弱いドライヤーでは、マヤさんの長い髪を乾かすのは時間がかかるだろう。そう思ったからドライヤーを選んだ。
「嬉しいです!ずっと大切にしますね!」
マヤさんはドライヤーを抱きしめている。うまくいったようでよかった。
僕はドライヤーについては詳しくないが、これがいいものだと知っている。なぜなら、プロの美容師がこのドライヤーを使っているのをこの目で見て、自分で体験したからだ。
そう、前回美容室に行った時に、見たドライヤーのロゴを覚えて後から検索、その中でマヤさんに似合うと思ったデザインのものを考えて選んだからだ。
僕なりに、いいプレゼントを選べたのではないかと思う。
その後、僕たちはどんなお酒に合うかわからないが、とりあえずケーキを取り出した。どんなケーキが好きかわからなかったが、事前に聞くと用意していることがバレバレなので聞かなかった。とりあえずショートケーキだ。
ろうそくは2と0の数字の形をした2本で20歳を表現している。真ん中には『マヤさん、誕生日おめでとう!』と書かれたチョコレートのプレートが飾ってある。
僕はろうそくに火を灯して、マヤさんに差し出す。
「素敵で、食べるのがもったいないです…。とりあえず写真を撮って…。火を消さないと食べれないですよね。」
「うん。さあ、火を消して。」
マヤさんは息を吹きかけて火を消した。
「ハッピーバースデー!マヤさん!」
「ありがとうございます!さっそく切り分けて食べましよう!」
4号のケーキを4等分にする。僕はマヤさんが取ったケーキにチョコレートのプレートを乗せる。マヤさんは自分のケーキに2の数字のろうそくを乗せ、0のろうそくを僕のケーキに乗せる。
今日は主役なんだし自分のケーキに全部乗せればいいのにとは思った。だが、細かいことは言わなかった。
「それじゃあ…」
「「いただきます!」」
二人で声を合わせた。
「まずはこの、可愛いチョコレートからいただきます!」
そう言ってマヤさんが口に運んだのは、ろうそくだった。
「ちょっとマヤさん、それはチョコレートじゃ…」
「…まずい、というか味がしません。でも、食べちゃいけないものの味がします。」
「食べちゃいけないものだからね、毒はないけど吐き出して!」
マヤさんはケーキに付属していた紙ナプキンを数枚取り、こっそり吐き出した。
「失敗しました。今度こそチョコレートを食べます。…うん、おいしいです!」
気を取り直して僕たちはケーキを食べ始めた。小さなケーキはすぐに食べ終わった。
「残りは後日私が食べますね。甘いものを食べると、しょっぱいものが食べたくなりますね。」
そんな時に、ヴェリティさんのくれたおつまみは大活躍だった。それに合いそうな日本酒も開封する。
「これ、なんていう食べ物なのかは分かりませんが、とっても美味しいです!さすがヴェリティさんが選んでくれただけはあります。日本酒も、飲み比べると違いがわかります。うまみと甘みと香りのバランスがどれも違っていておいしいです。濁り酒、というんですか?これが一番好きです!」
マヤさんは結構ハイペースでお酒を飲んでいる。
心配だが全く酔っている様子は見えない。
「マヤさん、全然酔ってない?」
「いえ、酔いも理解しました。なんとも言えないこの感覚、この楽しさ。これが酔い、なんですね。」
自分では理解しているようだった。僕もマヤさんのペースにつられて結構飲んでしまった。このままだと酔いそうだ。
「僕は少し休憩するよ。」
冷蔵庫で冷やしている水が飲みたい気分だった。
だが、マヤさんは僕の腕を掴んで止める。
「何言ってるんですか!もっと飲みましょう!楽しみましょう!」
だめだ。完全にアルハラモードに入っている。
そこから、僕はマヤさんにお酒を飲まされた。
「このリキュール?っていうお酒も果実を感じて美味しいです。でも、少し薄いですね。本当に薄めて飲むお酒なんですか?」
リキュールをロックで飲みながらマヤさんはそう言った。
マヤさんは度数の高いお酒が好みらしい。一番気に入っていたのはウイスキーのロックだった。
700mlの瓶はほぼマヤさん一人で全部飲み干された。
僕はそのペースに乗せられまいと抵抗した。
飲むふりをして口に当てるだけ、などの小細工をして誤魔化していた。
だが途中でマヤさんに気が付かれて
「それ、次やったらなんでもいうこと聞く約束、2回に増やします。」
などと言われて出来なくなった。
飲む前は買いすぎたと思っていたお酒はどんどん減り、ヴェリティさんが追加でくれた分まで完全になくなった。僕はフラフラだった。
「まだまだ飲み足りない気分です!…調べてみたら酒屋さんがもう開いている時間です。一緒に買いにいきましょう!ウイスキーの瓶は、最低でもあと3本は欲しいです!」
「そんなに飲んだら…。もうダメ…。」
僕は完全に酔ってしまった。
酔うと、僕はなんでも思ったことを口に出してしまう性格になる。マヤさんの前で、そんな状態になりたくなかった。
だが、もう遅かった。
僕は自分でバランスを保てなくなり、マヤさんのほうへ倒れこんだ。
「わ、冴木さん。大丈夫ですか?」
マヤさんが受け止めてくれた。
「大丈夫じゃないです…。」
柔らかい感触が僕の頭に触れる。
「おっぱいが当たってドキドキします…。」
「うひゃあ、冴木さんのエッチ!!」
ゴチン!
派手な音と共に僕の頭はローテーブルに突っ込んだ。
「わ、ごめんなさい!…冴木さん、言ってましたね。酔っ払うと、思ったことを全部口に出しちゃうって。」
マヤさんは僕の上半身を自分の方へ引き寄せ、膝枕をしてくれた。
「…膝枕、安心します。」
僕の口から、言いたくない恥ずかしい言葉がどんどん出てくる。
「本当に、思ったことを全部口に出しちゃうんですね。」
その時、マヤさんがニヤリと笑った。
「冴木さん、私、今だけ悪い子になってもいいですか?」
「…?」
「まずは勝手に私のおっぱいを堪能した罰として、何してもらおうかな〜。」
マヤさんは楽しそうに考えた後、
「じゃあ冴木さん。私のこと、マヤって呼び捨てにしてください。言わないと、冴木さんが勝手に私のおっぱい触ったって店長に言います。」
判断力を失った僕の脳みそに、拒否権はなかった。
「…マヤ。これでいい…?」
「んん〜!なんか一気に距離が縮まった感じがしてドキドキします!二人きりの時は、今後もずっとそう呼んでくださいね!私も、醒って、いや。ちょっと呼びづらいですね。醒さん。うん。しっくりきます。今後は醒さんと呼びます。」
マヤさんは楽しそうにしている。僕は会話を覚えるだけで精一杯だった。
「じゃあ、醒さん。私のこと、どう思っていますか?」
「大切な親友。仕事仲間。一緒にいると安心するし、ドキドキする。」
「嬉しいですけど、今言って欲しい言葉は違います。わかりますか?」
「好きって、言ってほしい?」
「そうです。わかってるじゃないですか。言ってください!」
「無責任に言えない…。」
「無責任?詳しく聞かせてください。醒さんが好きって言えない理由が知りたいです。」
「マヤの一生を支える覚悟が、まだない。僕は学生で働いてない。支えられるだけのお金はまだない。マヤを一生支えられる男になってから、好きって言いたい。」
「…重いですね。それだと子供は全員好きって言えないことになりますよ。そんなの嫌です。私は今、好きって言って欲しいです。無責任でいいので、好きって言ってください。」
僕は考える能力がなくなっている。勢いで言ってしまった。
「マヤ、好きだよ。」
「はい。私も好きです。って醒さん?寝ようとしていませんか?目を閉じないでください。醒さん!」
寝ようとしているのではない。
僕は眠りに落ちてしまったのだ。




