43話
僕たちは朝のラッシュを乗り切り、次のシフトに入る主婦の二人にバトンタッチした。
「マヤちゃん、はたちの誕生日なんだってね。これ、私たち二人から。」
はたち?とマヤさんは疑問に思ったようだ。後で教えておこう。
「ありがとうございます!」
焼き菓子のセットをもらって、嬉しそうだ。
僕たち二人は帰り始めた。
「みんなから色々なものをもらって、荷物が多くて困っちゃいますが、とっても嬉しいです!」
この後僕の家に寄って荷物を受け取ってもらうから、荷物はさらに増える。
とりあえず、僕の家に着いた。
「ちょっと待ってて、マヤさんに持ってもらいたい、軽いものから先に出してくる。」
そう言って荷物を二つ持ってきて、マヤさんに渡す。
「こっちはケーキだから、横にしないようにお願い。こっちは、まだ秘密ね。」
そう言ってもう一度家の中に入る。仕事用のカバンを置いて冷蔵庫の大量の飲み物、冷凍庫の氷、大きなお酒の瓶が入ったビニール袋を手に取る。
忘れ物はないはずだ。
…と思ったがチャッカマンを忘れていた。ケーキのろうそくに火をつけるため、うっかり一緒の袋に入れたまま冷蔵庫に一度入れてしまったのだ。チャッカマンも30分くらい冷やしてしまったので、念のため台所の隅に置いて常温に戻しておいたのだ。
僕はチャッカマンをお酒の袋に入れる。
「お待たせ。」
「すごい荷物ですね。重そうです。」
「張り切って買いすぎちゃった。大丈夫、持てるよ。」
僕たちはマヤさんの家に向かって歩き始めた。
「そういえば、はたちってなんですか?」
「はたちは20年生きた人のこと。20歳のこと。」
「なるほどです。…あ、ここです。」
指を指した先には、僕から見ると明らかに異様な雰囲気を纏っているマンションがあった。
宇宙人の迷彩がゆらゆらと蠢いていて、一目で宇宙人のマンションだとわかる。
結構大きい。6階建てで、ひとつの階に8部屋くらいあるだろうか。ここに宇宙人がたくさん住んでいるのだろう。
エントランスに入ると清潔感のある白を基調にしたおしゃれな雰囲気が広がっていた。マヤさんが宅配ボックスの前に向かって行った。
「たくさん荷物が届いています。冴木さん。まずはこの箱を持ってくれませんか?」
僕はプレゼントが入った箱を受け取る。マヤさんは財布からカードキーを取り出して機械に通す。ガチャリと音が鳴って自動でドアが開いた。
「3箱もあります。冴木さん。私は玄関を開けるために片手を開けておきたいので、申し訳ないですが全部持ってくれませんか?」
幸い、そんなに重い箱はない。全部持ち切ることができた。
自動ドアのそばのセキュリティ装置にマヤさんはカードをかざす。自動ドアが開いて入れるようになった。
「私の部屋は5階です。ここには上司ばかり住んでいるので、すれ違ったら挨拶をお願いします。」
マヤさんに言われて、気を引き締める。
エントランスホールは特に異常はなかったが、廊下の異常にはすぐ気がついた。
全ての扉に猫用の通用口がついている。やはり猫も住んでいるのだろう。
エレベーターを待っていると、後ろに猫がやってきた。自動ドアをどうやって通り抜けてきたんだろう。
「「お疲れ様です。」」
二人で声を揃えて言う。猫はどうやってエレベーターを操作するのだろうと考えていたが、答えはエレベーターについていた。
ボタンがついている位置の真下の床に、上矢印の書かれたボタンがついていた。多分、猫が押す用だ。
ということは、この建物は前のアパートと違って人間用に作ったものではない。
あとから改造して猫が住めるようにしたわけではなく、最初から猫が住むことを想定して、ドアやエレベーターなどが設計されている。
誰が作ったのかは知らないが、この建物は間違いなく宇宙人のために作られた建物だった。少し恐ろしいと感じた。
エレベーターが到着し、マヤさん、僕、猫の順で入る。
「何階ですか?」
マヤさんが猫に聞くと、「ミャオ」と猫は答えた。マヤさんは3階のボタンを押す。
やっぱり、エレベーターの内側の床にも操作ボタンがついていた。
エレベーターの異質さに固まっていると、気がついたら5階に着いていた。
「たくさんの荷物を持ってくださって、お疲れ様でした。503号室。ここが私の部屋です。」
表札には日本語でも英語でもない言語の名前が記入されていた。マヤさんの宇宙での本名だろうか。
マヤさんは玄関の扉を開ける。玄関の壁にはフックにかけられた例のビニール傘が置いてある。靴箱の上には見たことない、何に使うかも良くわからないスプレーが置いてある。噂の宇宙人の支給品だろうか。
靴を脱いで玄関を通る。今のところ、普通の家だ。
リビングには二人くらい座れそうなソファとしっかりとしたローテーブル、大きなテレビが置かれている。
…そして、以前、写真で見せてもらった記憶データ転送装置もある。タコ足のような機械の腕の不気味さは、実物で見ると、いっそう恐ろしく感じた。
「とりあえず、届いていた3つの箱はテーブルの上に置いてください。冷蔵庫も、見られて困るものは入れていないので、冷やしておきたいものは入れちゃってください。」
言われた通りに荷物を置いて、冷蔵庫を開けさせてもらう。
…ほとんど何も入っておらず、数本飲み物が入っているだけだった。
生活感がない。
冷凍庫も同じような感じだった。謎の袋に入った小さいものが二つある。玄関の表札に書かれたのと同じ言語で、解読できない商品名が書かれていた。アイスかな?
「やっと二人とも両手が空きましたね。どうぞ座ってください。改めてようこそ、我が家へ。」




