42話
みんなでマヤさんの誕生日を祝ったあと、すぐに別の納品が来たり、日付変更時の仕事を消化したりと少しドタバタした。だが4人いたためすぐに終わった。
「じゃあ、俺たち帰るから。あとは任せた。」
「マヤちゃん、気軽に連絡してね!」
「二人とも、お疲れ様です。」
「お疲れ様です。結愛ちゃんも気軽に連絡してくださいね!」
すると水瀬さんが僕の元へ来て耳打ちした。
「自分の気持ちに正直になってね!こんな時代に言うのもアレだけど、男は度胸、だよ!」
僕は、まだ意味がわからなかった。マヤさんも聞こえなかったのか、不思議そうな顔をしている。
二人は帰って行った。
僕とマヤさんは二人で仕事に戻った。とはいえ、さっきまで4人いたのでやることはあまり残っていない。
「こういうのんびりした仕事も、たまにはいいね。」
「私は毎日のんびりしたいです。そしたらもっと冴木さんとお話しできます。」
ふと、女子トークの内容が気になった。多分秘密だろうけど、聞いてみることにした。
「マヤさん、さっき水瀬さんと二人で内緒話してたよね。何話してたの?」
「知りたいですか?」
思っていた反応と違った。
「教えてくれるの?」
「少し考える時間をください。」
マヤさんは少し考えると、
「さっき冴木さんと結愛ちゃんが何を話していたのかを教えてくれたら、私も教えます。」
そう言った。僕は別に、秘密にするもんでもないと思ったので、正直に答えた。
「自分の気持ちに正直になって。男は度胸だよ。って言われたよ。」
「度胸ですか。確かにそう思います。結愛ちゃんはいいことを言いますね。」
そうなのだろうか。
「で、マヤさんは水瀬さんと何を話してたの?」
「冴木さんのことが好きなのかを聞かれました。好きだと答えたら、『どんどんその気持ちを伝えて!応援しているよ!』と言われました。」
好き。
その言葉を聞いてドキンと心臓が鳴る音がした。マヤさんは照れて俯いている。
僕は、軽々しくその言葉を言えない。好きと相手に伝えることには、覚悟が必要だと思っているからだ。でも、マヤさんは言える。好きと言われたのに、遠くに行ってしまったような錯覚がした。
「冴木さん?何か考え込んでいますか?」
その言葉で我に返り、マヤさんは近くにいると認識できた。
「ううん。大丈夫。好きって言ってくれて、嬉しい。」
「はい。私は冴木さんのこと、好きですからね。…こうして言えるのも、結愛ちゃんのおかげですけどね。」
「怖くないの?」
「怖いですか?そう考えたことはないですね。照れくさいとか、恥ずかしいとか、そういうことではなくて、ですか?」
僕は、怖い。難しくて言葉にできないが、相手を縛りそうで。自分を縛りそうで。
「冴木さんは難しく考えすぎるところがありますからね。とりあえず、今日は私の誕生日を楽しみましょう。24時間しかないんですからね!」
それもそうだ。とりあえず今を楽しもう。僕たちは雑談をしながら仕事に戻った。
午前4時半。今日くらいは許されると思って秘密の準備を始める。揚げ物を揚げておいて、5時ごろの仕事の負担を減らしておくのだ。本当は揚げ物の廃棄が増えるから、これは良くないことなのだけど。
「今日はずいぶん早く揚げ物を作ってますね。何かありましたっけ?」
「本当は毎日見られるんだけど、いつもは忙しくて見れないものを見たくてね。」
人気の揚げ物だけ揚げて、棚に陳列する。
「マヤさん。外に出よう。今ならお客さんもいないから。」
「珍しいですね。いつもなら揚げ物で忙しい時間ですが、今日は大丈夫ですもんね。」
僕が見たかったものは、きれいに見れた。
朝日と、それを浴びて目覚め始める街。その光景はなんとも言えない美しさをしていた。
「これが見たかったんだ。」
「わあ…。」
マヤさんの瞳は、朝日を反射してキラキラと輝いていた。




