38話
僕は電車で大きな街に移動して、百貨店に行った。マヤさんの誕生日プレゼントを買うためだ。
色々みて回ったが、かえってわからなくなってきた。マヤさんは、何に喜ぶんだろう。
「冴木くん、こんなところで会うなんて偶然だね。」
後ろから声をかけられた。ヴェリティさんだ。だが、前に会った時と話し方が全然違う。子供っぽくなった。
「こんにちは。ヴェリティさん。話し方、変えました?」
「もうとっくにマヤちゃんの上司じゃないことはバレてると思ったから、もう上司キャラ演じなくていいかなって。」
上司っぽい演技をしていたのか。油断ならない人だと再認識した。
「ねえ、時間あるよね。少しカフェで話していかない?」
「残念ですが、時間はありません。」
嘘をついた。今日はマヤさんに最高のプレゼントを用意するために時間に余裕を持って来ている。すると、すぐさまヴェリティさんは口を開く。
「嘘だよね。悪いけど君の買い物を途中から尾行させてもらったよ。特に何か買うわけでもなく、長時間ウィンドウショッピングしている。時間のない人がする行動じゃないよ。多分、マヤちゃんへの誕生日プレゼントを探している、とかじゃないかな。」
鋭い。当たっている。それに、尾行されていたことにも全く気が付かなかった。
「とりあえず行こうよ。私が奢る。前に嘘ついた分と、黙って尾行したお詫びに、ね。」
「そこまで言うなら、少しだけですよ。」
そう言って、百貨店のカフェに二人で入った。
「私はアイスコーヒー、トールサイズで。冴木くん。好きなの頼んでいいよ。」
「期間限定ラテ。追加で、クラシックシロップチョコレートチップキャラメルソースエスプレッソショットトリプルで。」
「何?その呪文みたいな、必殺技みたいな飲み物。お姉さん初めて知ったよ。」
「頼み方、教えましょうか?」
「じゃあ、連絡先交換しよ。テキストでお願い。一回で覚えられる気がしないよ。」
そう言ってヴェリティさんはQRコードを差し出してきた。あまり気は進まなかったが連絡先を交換した。そして、注文の品を受け取る。
「とりあえず座ろうか。ねえ、冴木くん。頼みがあるんだけど聞いてくれるかな?お礼は、マヤちゃんへのプレゼントのアドバイスでどう?」
欲しいものを見抜かれている。正直、アドバイスは欲しい。
「…とりあえず話だけは聞きます。引き受けるかどうかは、内容次第です。」
「ありがと!頼みってのは、マヤちゃんの誕生日に、一緒にお酒を飲んで欲しいんだ。」
20歳の誕生日といえば、確かにお酒だ。でも…。
「不安に思っていることを当ててあげようか。宇宙年齢で2歳のマヤちゃんにお酒を飲ませてもいいのか、だよね。宇宙人の変身能力や日本の法律の説明の話は省くけど、結論。大丈夫だよ。」
不安に思っていたことまで当てられた。
「ちなみに猫に変身できるからって心配しなくてもいいよ。猫にとって毒になるアルコールやカフェインが含まれるもの、チョコレート、ネギ、ニンニク、ニラ。全て人間の姿なら大丈夫。今度、一緒にご飯に行くときにも参考にしていいよ。」
今まで気にしていなかったが、確かにその情報はありがたかった。
「とりあえず、誕生日に一緒にお酒を飲めばいいんですね。それくらいなら大丈夫です。引き受けますよ。でも、どうしてです?」
「どうしてって?」
「わざわざ僕に頼む理由です。ヴェリティさんにはメリットがない。」
「メリット、デメリットの話じゃないんだよね。私が素敵だと思うから、かな。」
ずいぶん抽象的な話だった。
「だって、初めてのお酒だよ?初めては絶対に書き換えられない、永遠なんだよ。マヤちゃんは今後色々な人とお酒を飲むだろう。でも、どんなにたくさんの人とお酒を飲もうと、最初に一緒に飲んだ人は変わらない。それなら、大事なことだと思わない?」
「ヴェリティさんが最初になろうとは考えないんですか?話を聞く限り、お酒好きそうですし。」
「うん!お酒大好き!でも、最初が同じ会社の同僚って、ときめかないよね。ありがちだし。それよりかは、その時気になってる男の子と、の方が絶対素敵だよ!」
ヴェリティさんは熱を込めて語っている。
「…まあ、なんとなくわかりました。では、報酬のプレゼントのヒントをお願いします。」
「はいはい!お姉さんに任せて!まずはNGなもの、おすすめしないものから。まずはデバイス系。スマホ関連、イヤホンとかは会社から必要なものが支給されるし、地球のデバイスじゃ出来ないこともあるから。あとはブランド品。私たち宇宙人は、地球のブランドについてあまり興味がないんだ。高級なブランド品を渡されても、安物と区別がつかない。性能が同じなら、安いもののほうが、もらう側も気楽に使えてありがたいと思うよ。」
なるほど、参考になる。
「逆に欲しくなるもの。これは宇宙人にとって欲しいものというか、私たちの会社の問題なんだけどね。日常で使う身の回りのものも支給されてるんだけど、私たちの上司は人間の女性が欲しがるものが全然わかってない!タオルとかシャンプーとか、こだわって欲しいのに安物ばっかり。そういう、わざわざ捨てて自分のお金で買うほどじゃないけど生活するのに最低限困らない程度のもの。そういうものこそ、実はもっと性能がいいものが欲しいんだ。そういう願いを叶えてもらえたらすごく嬉しいと思う!」
「確かに身の回りのものが少しいいものだと、生活も楽しくなりますよね。参考になります。」
「あとは、冴木くんが自分の意思で選ぶことも大事!一生懸命考えて選ぶこともプレゼントの醍醐味だし、ヒントはこれくらいがちょうどいいんじゃないかな。」
「そうですね。ありがとうございました。」
「いい取引になったんじゃないかな。」
こちらが支払ったものはごくわずか、受け取ったものは非常に大きかった。それをいい取引といえるのかは少し怪しいと思った。
「さて、私はコーヒーも飲み終わったし行くとするよ。冴木くんはまだドリンク残ってるね。ごゆっくり楽しんで!」
そう言って、ヴェリティさんは店を出てどこかへ歩いて行った。僕は残ったドリンクを飲みながら、マヤさんへのプレゼントをどうするか考えることにした。




