37話
「この前、ヴェリティさんっていう宇宙人に会ったんだ。」
仕事中の手が空いた時間に、僕は正直にそう言った。
「ヴェリティさんですか。確かに彼女は冴木さんに接触するのに一番適した宇宙人と言えるかもしれません。」
怒っている様子もない。マヤさんは続ける。
「彼女は宇宙人の中では珍しい、嘘がつける宇宙人なんです。」
「それって珍しいの?」
「はい。とても珍しいです。私たち宇宙人は催眠によって相手の認識を直接操作するのが一般的で、嘘をつく必要がないのです。そのため嘘をつく能力が完全に衰えています。そんな中で彼女が優れた能力を持つことは誰もが認めますが、『役立たずの天才』なんて呼ぶ人たちもいますね。」
「役立たずの天才、か。僕はそうは思わないな。」
「はい。私もそう思います。宇宙人は便利な催眠に依存しすぎです。いつか彼女の能力が役に立つ、そんな時代が来る気がするんです。…それで彼女とはどんなことを話したんですか?」
「ヴェリティさんは少し話がしたいと持ちかけてきたんだ。最初は断ったんだけど、そうしたら自分はマヤさんの上司で配属を自由に決められる権利を持っている、と言われたんだ。そんな彼女の機嫌を損ねるのもまずいと思って、10分間だけって約束で話をしたんだ。」
「あ、それ嘘です。彼女は私と同じ階級です。」
やっぱり嘘だったのか。でも、上手い嘘だと思った。多分嘘だとは思っていたが、万が一のことを考えて、結局僕は彼女と話すことを選んだのだから。
「それで、僕がマヤさんのことをどう思っているのか聞かれて、それから恋とは何かって話をしたね。あと、マヤさんのことも教えてもらった。マヤさんと僕が一緒にいられるのは奇跡的なことなんだって。」
「確かに私と冴木さんが今一緒にいられるのは素敵なことで、ありがたいと思っています。…なんとなくですが、最初以外は嘘をついてなさそうですね。彼女は嘘が上手いですが、滅多に嘘をつきません。過剰に信頼するのは危険ですが、基本的には本当のことを言っていると思って大丈夫ですよ。」
「そうなんだ。嘘が上手いっていうことは頻繁に嘘をつくものだと思ってたけれど、そうでもないのか。…それで、そのあとは特に何もなく家を出て帰ったよ。」
「家を出て?」
ぴくり、とマヤさんが反応した。うわ、めちゃくちゃわかりやすく怒っている。頬を膨らませていた。
「冴木さん、ヴェリティさんの家に上がったんですか?まだ私の家には上がっていないのに。」
「で、でもマヤさんの家の場所は企業秘密なんだよね?」
「そうです。でも、私も家に冴木さんを招待したい気持ちはあります。…私より先に、上がっちゃったんですね。」
どうしよう。僕はなんとか説得する。
「今度、マヤさんの言うことをなんでも一つ聞くよ。それと、今度のこなもんの映画の鑑賞会、マヤさんの家でできないか、上司と相談してみたらどうかな?僕はUFOが見えたり宇宙人アパートの不自然な点が見えたりする能力もあるし、秘密にしてもどうせバレるなら、秘密にする理由も薄いんじゃないかな。」
そういうと、マヤさんは少し落ち着いた。
「確かに、冴木さんはUFOが見えていました。お察しの通り私の今の家にも宇宙人の迷彩が施されています。そのうちバレるなら秘密にする理由はないです。すみません。今から上司に確認をとってきてもいいですか?休憩を使います。」
「どうぞ、ごゆっくり。」
そういうとマヤさんはバックヤードに入っていった。10分もせずに戻ってきた。さっきとは一転、嬉しそうにしている。
「冴木さん。特別に許可が出ました。冴木さんが場所を秘密にしてくれるなら、家に入れてもいいそうです!」
よかった。それに機嫌も直っている。僕たちはバックヤードにあるカレンダーをレジに持ってきて日程の相談を始めた。
「配信開始日がこの日で…。その後のこの日はどうかな?仕事が終わった後そのままマヤさんの家に行けるよ。翌日以降も休みだし、のんびりできそう。」
「あ、その日、私の誕生日です。まあ、地球上のプロフィールに設定した、嘘の日付ですけど。」
え、結構近い。プレゼントとか何も考えていない。でも、とりあえず誕生日会を兼ねられるなら、ちょうどいい。
「じゃあ、その日にしよう。誕生日会も一緒にしよう。」
「わかりました。じゃあ、楽しみに待っていますね。」
突然の誕生日のカミングアウトには驚いたが、うまくまとまった。僕も当日が楽しみだ。




