32話
「冴木さん。これは何ですか?」
「それは眠い時に眠らないようにするための眠気覚ましのドリンク。棚のここから…ここまでが眠気覚まし。全部、使い方は同じ商品だよ。」
僕とマヤさんは栄養ドリンク売り場の前にいる。マヤさんが栄養ドリンクを知らなくて、興味を持ったので説明しているところだ。
「同じ使い方なのにたくさんの商品を揃えているんですね。何が違うんですか?」
「値段、味、効果の強さ、作ってる会社。使い方は同じでも少しずつ違うんだよ。」
「なるほどです。じゃあ、これは何ですか?」
マヤさんは肝臓サポート飲料を指差して聞いてきた。
「それはお酒を飲む前や飲んだ後に飲むドリンク。肝臓の働きをサポートすると言われているよ。」
「カンゾウ…。」
「お酒のアルコール…。毒を分解する体の中にある臓器だね。」
「なるほどです。これも似たような見た目のものがたくさんあります。」
「ここからここまで、全部同じ使い方。」
僕は棚を指差しながら言った。
「冴木さんはお酒を飲みますか?20歳でしたよね。」
「僕は飲まないかな。お酒を飲むと、酔って思っていること全部口に出しちゃうから恥ずかしいんだ。」
「そんな冴木さんも、見てみたい気がします。」
マヤさんは笑ってそう言った。
「冴木さん。棚の上に置いてある箱も、中に栄養ドリンクが入っていますか?」
そう言ってマヤさんが手に取ったのは…。男性向けの精力剤の箱だった。
「…うん。中に栄養ドリンクが入ってる商品なんだ。」
僕は祈った。それについては聞かないでほしい。
「これはどんな栄養ドリンクですか?」
…祈りは届かなかった。さて、なんて答えよう…。
「元気になりたい時に使う栄養ドリンクだよ。」
嘘はついてない。
「冴木さん、なんでさっきから私の方を見ないようにしているんですか?」
「そんなことないよ。気のせいだよ。」
少し声がうわずってしまった。
「いえ、気のせいではありません。それに冴木さん、なんだか顔も少し赤いです。」
過去一番のピンチかもしれない。どうすればいいのかわからない。
「冴木さん。私に何か隠していませんか?」
僕は何も言えず固まってしまった。マヤさんは続けて言う。
「友達に隠し事はなし、です。正直に答えてください。これはどんな商品なんですか?」
マヤさんは少し、だが確実に、怒っている。
隠し事はなし、か。それを言われると弱い。苦しいけれど、僕は正直に答えることにした。
「それは主に男性が使う栄養ドリンクで…。精力を高める効果があるんだ。」
「セイリョク…。」
「つまり、その…。えっちなことをする前に飲むやつ、です。」
マヤさんの方をチラリと見る。マヤさんは箱を持ったまま固まっていた。どんどん顔が赤くなっていく。
「あの、マヤさん…?」
「つ、つつ、つまり、性行為をする前に飲むドリンク、と言うことですか?」
「売ってる会社が、そこまで言ってるわけではないよ。だけど、そういう目的に使われていることは、確かです…。」
完全に伝わったらしい。マヤさんは耳の先まで真っ赤だ。
「ち、地球の男性はみんな、そ、そういうことをする前に必ず飲むんですか?一体飲むと、な、なにが変わるんですか?そもそもこのドリンク、なにで出来てるんですか?」
し、質問が多い…。それに早口だ。完全に声がうわずっている。
「みんながみんな飲むわけじゃないよ。商品によって成分も違うからなんとも言えないけど、あそこが元気になったりならなかったり?飲んだことないから、詳しいことはわからないけど。中に入っているのは、高麗人参とかスッポンっていうカメの仲間のエキスとか。」
マヤさんは真っ赤な顔のまま棚に箱を戻した。
「あは、あはは…。答えてくれてありがとうございます。全部分かりました。冴木さんがなんで隠し事をしようとしたのかも…。」
どうしよう。気まずい…。マヤさんも気まずいようで、もじもじとしている。
「なんか、ごめんね。」
「いえ、私の方こそ。それに、ありがとうございます。こんな状況でも正直に答えてくれて。」
マヤさんは少し落ち着いたのか、そう言った。僕は空気を変えることにした。
「箱に入ってるドリンク全部が同じわけじゃないよ。例えば、ここからここまでの商品は風邪とかで弱っている時の栄養補給にぴったりなんだ。ちょっと高いけど。」
「わあ、本当にいい値段ですね。でも、家に一つあると安心できるかもしれません。」
さっきまでの空気はどこかへ行き、いつもの二人に戻れた気がする。終わってみたら、普段は絶対に見れないマヤさんの姿を見れて良かったかもしれない。こんなこと考えてることがバレたら、マヤさんは怒るだろうけど。
「冴木さん!こっちの商品についても教えてください!」
僕は商品の説明を再開した。頼むからコンドームが置いてある棚にだけは行かないでほしい。そう願いながら。




