30話
「なあ、冴木。ちょっと頼みたいことがあるんだけど。」
大学の授業が終わって昼食を一緒にとっている時、前田くんはそう切り出した。
前田くんとは一緒に授業を受けて一緒に昼食を取るのがルーティンになっている。以前、同じタイミングで今僕が働いているコンビニのアルバイトに応募し、一緒に働いたこともある。友達というより仲間みたいな関係だ。
「頼み?とりあえず聞くだけ聞くけど。」
「サークルで一緒の子がバイト始めたいっていってるんだけど、初めてのバイトで不安だから誰かと一緒に働きたいっていってるんだ。」
「それで、僕に?」
「そう。冴木この前相方のバイトが辞めて一人になったって言ってたから丁度いいと思って。」
「ああ、その枠はもう埋まってるんだ。戻ってきたから。」
「そうなのか…。でも紹介できるって言っちゃったんだよな。とりあえず、その子と会ってくれないか?彼女に課題を手伝ってもらう約束をしてるんだ。だから俺もバイトの紹介くらいはしておきたくて。」
「まあ、一緒には働けないけど、足りてないシフトの時間とかなら話せるから。会って僕に話せることを話すだけならできるけど。」
「ありがとう、それで大丈夫。このあと平気?」
「急だね。空いてるけど。」
そういうと、前田くんは電話で連絡をとり始めた。しばらくして、電話を切ると、
「30分後に近くのカフェに集合でよろしく。俺は別で用事があるから行けないけど。…ほら、この子ね。」
前田くんはスマホの画面をこちらに向ける。画面には黒髪の女性が写っていた。
「一緒に来ないんだ。前田くんも、深夜じゃなくていいからまた働けばいいのにって店長言ってたよ。」
「いやー、一度辞めてる以上気まずいから。課題とかで忙しいし、俺には規則正しくて長い睡眠時間が必要だって嫌というほど学んだし。」
まあ、無理にとは言わない。とりあえず急だが初対面の女性とカフェで話すことになった。僕は「ごちそうさま」と呟き、食器を片付けるために立ち上がった。
「ありがとう。急で悪いけど頼む。」
「今度何か奢ってね。」
それだけ言って、僕はカフェに向かうことにした。
カフェに着いて時計を確認する。集合時間の10分以上前だが、僕はテラス席で待つことにした。モバイルオーダーで先に自分の飲み物だけ注文する。期間限定のラテにホイップ、ソース、チョコチップ、シロップなど追加できるものは全部追加した。スマホから顔を上げると先ほど写真で見た女性を見つけたので手を振る。
「冴木さんですか?私、水瀬と言います。今日はよろしくお願いします。」
「冴木です。こちらこそよろしく。」
それから僕は軽くバイトの説明をして水瀬さんのスケジュールと人手が足りていない時間帯を照らし合わせた。そしていい感じの勤務時間を提案した。水瀬さんはすぐにでも応募したいとのことだったのでお店の電話番号を伝えてあとは店長と話すように、と案内した。30分もかからなかったと思う。水瀬さんは
「ありがとうございました。もしかしたらまたコンビニで会うかもしれませんね。」
と言って、帰って行った。僕は甘くしすぎたラテをのんびり楽しむことにしたので残った。
そんなことがあった日の夜、僕はバイトに出勤する。今日は早めに着いたが、マヤさんのほうが先に着いていた。バックヤードでバッタリと会った。
「マヤさん、おはよう。今日もよろしく。」
「冴木さん…。」
なんだか表情が暗い。というより、読めない。何を考えているのか分からない、低めのトーンでマヤさんは言った。
「今日、楽しそうにカフェで女性と話していましたよね。それについて、いろいろお話ししたいです。」




