20話
仕事が終わり、僕たちはハンバーガー屋に向かうため外に出る。すると店の前には猫がいた。マヤさんの上司の猫だ。
「課長、お疲れ様です。私たちは、朝ご飯を済ませたら電車で近くの街まで行ってきます。時間までには戻ります。」
マヤさんがそう言うと、猫はニャーと短く鳴いて、どこかへ歩いていった。
「『時間に気をつけて早めに戻るように』だそうです。」
ニャーの一言でそこまで通じるのか。そう思った。
二人でハンバーガー屋に向かって歩き出した。途中で、マヤさんが訪ねてきた。
「あのハンバーガー屋さんはなんで朝はマフィンを売っているのでしょうか?」
「僕も店員じゃないから分からないけど、朝の少ない人数で作れて、ハンバーガーよりも軽い食事だからじゃないかな。」
とか、そんな事を話しながら歩いた。
ハンバーガー屋ではこなもんのコラボは既に終わっていた。僕は一番人気のベーシックなマフィンのセットを注文した。マヤさんも同じものを頼んでいた。
すぐに注文の品が用意され、カウンターに並べられた。二人で受け取り、向かい合った席に座った。
「この店は朝早くからたくさんのお客さんが入っていますね。」
「駅前だし、ここで朝ご飯を食べてから出勤したり通学したりする人が多いんだろうね。」
「私も働く前にご飯を食べます。」
「そういえば、マヤさんは自炊してるの?」
聞いた後気が付いた。僕はマヤさんの生活をほとんど知らない。外国人留学生だというのがウソなら、日中はなにをしているのか。どんなものを食べているのか。深夜働いているならいつ寝ているのか。
「実は私も冴木さんと同じように自炊はしていません。スーパーで買ってきたものと、炊いたご飯を食べることが多い、気がしますね。」
「やっぱり一人で暮らしていると、自炊って難しいですよね。」
知りたいと思った。もっと、マヤさんのことを。
…二人ともマフィンとハッシュドポテトを食べ終わって、ドリンクのみが残っている。
ちらっと時間を見る。まだ8時だ。
「この後は冴木さんの思い出の街に行くんですよね。」
「そうなんだけど…。今気が付いたんだけど、電車に乗って街に行ってもどこの店も開いてないんじゃないかな…。」
「確かに、そうですね。大体10時くらいからですよね。お店が開くの。」
「…ちょっと調べていい?」
そう言ってスマホを取り出して地図を開く。開いている店がないなら…。
「マヤさん、予定変更です。とりあえず、電車に乗りましょう。」
そう言って、僕はテーブルの上を片付け始めた。
「わかりました。電車って初めて乗ります!」
「そうか、マヤさん電車初めてなのか。ICカード持ってる?」
「いえ、持っていません。」
それじゃあ切符を使うのか。どう使うんだっけ。小学生以来使っていなかった気がする。そんなことを考えながら僕たちは店を出た。
駅は近くにあり、すぐに到着した。券売機を見るとなんとなく買い方を思い出したので行き先の料金を確認して乗車券を購入する。
「この券を改札の機械に入れて、出てきた券を回収して。」
そういうとマヤさんは恐る恐る言われた通りに券を改札に通した。勢い良く反対側から出てきた券に少し驚いている。僕がICカードで改札を通ると、ちょうど乗る電車がやってきた。朝の通勤時間帯だけあって混んでいる。座れそうにはなかった。マヤさんと二人で扉のそばに立つことになった。
電車が走り出す。
マヤさんは外を見ている。
「景色がどんどん変わっていきます。こんなに速いのに、そこまで揺れないんですね。」
「僕も最初は不思議だったな。慣れるとそういうもんだってなるけど。」
しばらくして僕の思い出の街の駅に着いた。
「本当はここで降りようかと思っていたんだけど
、次の駅で降りよう。」
「わかりました。たくさんの人が降りますね、座れそうです。」
僕たちは隣同士の席に座った。マヤさんの手には乗車券が握られている。ずっと持ってたのか。
「帰りに余裕があったらICカード買いましょうか。便利ですよ。」
「どこで買えるんですか?」
「…どこだっけ。僕も小さい頃に親に買ってもらったからな。調べてみる。」
どうやら、券売機でも買えるらしい。なら、切符を買うよりいいかもしれない。
そんな事を考えていると、すぐに次の駅に到着した。
「そこの改札に切符を入れれば出られます。」
マヤさんは入った時と同じように恐る恐る通っている。本当に初めてなんだ。
外に出ると、広いロータリーに着いた。
「マヤさん、ちょっとコンビニ寄っていかない?」
「はい、わかりました。」
二人で駅前のコンビニに入る。
「この駅に降りたのは、近くに大きな公園があるからなんだ。」
この公園なら24時間開いていていつでも楽しめる。この時間にぴったりだと思ったのだ。広さは東京ドーム10個分、と言っても伝わらないだろうな。まあいいか。
「このコンビニ、私たちの店では見たことないものが売っています!…これは何ですか?」
「これはバドミントンのラケットとシャトルだね。公園で遊ぶのにぴったりだから、店長が独自に仕入れてるんじゃないかな。」
「どう使うのか、全然わかりません。」
「試しに買って、遊んでみる?」
「はい!」
僕はバドミントンのセットと近くにあったシャボン玉を購入して、店を出た。
公園の並木道を通りながらマヤさんは言った。
「木がたくさんありますね。ここは森ですか?林ですか?」
「…公園です。」
「じゃあ、森と林って何が違うんですか?」
「…。ええっと、森のほうが木がたくさんある場所で、林はそれよりも小さい場所、かな。
僕は自信がないなりに、そう答えた。




