17話
「狭いですが、どうぞ。」
マヤさんを家に入れる。キッチン兼廊下の先の扉を開けると僕の部屋だ。ワンルームの狭い部屋にパソコンデスクと普段食事をする折り畳みテーブルが置かれている。部屋の端には布団も折りたたんで置いてある。
いつも使っている座椅子にマヤさんを案内して、テーブルの上の卓上調味料を片付ける。
キッチンに戻り久しぶりに使う来客用グラスを洗って、キッチンペーパーで拭き冷蔵庫の中の緑茶を注ぐ。
「緑茶しかなかったけどいい?」
「飲んだことないですが、多分大丈夫です。」
…美味しそうに飲んでいる。問題なさそうだ。
僕も座布団になりそうなものを探して、ビーズクッションに腰掛ける。
「今日はありがとうございます。家に招待してくれて。いつも外での冴木さんしか見ていませんでしたが、今日は普段の冴木さんが見れらそうです。」
勢いで家に招待したが、そう言われて少し恥ずかしくなる。
「あ!こなもんのぬいぐるみ、可愛いです。」
「あれは高校の友達とこなもんショップ東京に行ったときに買ったものです。大学に入ってからは連絡とってないな。」
「触っていいですか?」
と確認してから抱きかかえている。ムニムニともんでいる。
「あれはテレビですか?…2枚ありますが。」
そう言って指をさしたのは、デスクの上に置かれたデュアルディスプレイだった。
「あれはパソコンのモニターです。据え置きゲーム機にもつなげていて、切り替えて使っています。」
マヤさんを椅子に座らせて横からモニターを操作、パソコンのデスクトップ画面には大量のゲームのショートカットとこなもんの壁紙。据え置きゲーム機のホーム画面には最近遊べていないゲームが並んでいる。どれも一人用でマヤさんと遊べるものはあったかなと考えたが、思い浮かばなかった。
「私、ゲームはスマホでやっています。冴木さんはスマホのゲームは何を遊んでいますか?」
「僕はスマホのゲームが苦手で遊んでいないな。課金要素が好きじゃなくて。暇なときは電子書籍を読んでいます。」
「じゃあこれおすすめですよ、『ことばパズル』。確かにランキングに載るためには課金が必要ですが…。パズル自体が面白いので!」
とりあえずアプリストアを開いて検索、インストールする。ゲームでも日本語の勉強をしていることに感心する。
「話は戻りますが、テレビはないんですね。不便じゃないですか?」
「好きなアニメのこなもんはネット配信でパソコンとスマホで見れますし、ニュースも天気予報もスマホで見てます。不便じゃないですよ。」
「私はテレビが好きです。スマホだと自分の好きな情報に偏りますが、テレビは自分の知らない情報まで勝手に入ってきます。地球の情報を知るのにとても役立ちます。あと、スマホよりも早くこなもんが見れます!」
ワンルームの今の部屋に置くスペースはないが、広い家に引っ越したら大画面で映画を見たりするのも悪くないと思った。
「冴木さん、料理はしないんですか?」
「…どうしてそう思ったの?」
「あそこのバスケットにプロテインバーやバランス栄養食、カップ麺がたくさん入っています。よく見ると、鍋や包丁が最近使われた形跡がありません。数回使っただけの調味料などもキッチンのラックに入っていました。その調味料の賞味期限から察するに、しばらく料理していないように見えます。」
掃除はするよう心掛けていたが、鍋にほこりがうっすらと被っていた。よく見ているな。
「そうですね。一人暮らしを始めた最初の頃は自炊をしていました。でも時間と手間がかかるし、キッチンが狭くて。作り置きとまとめ買いをすれば安く栄養あるものを食べられますが、冷凍室が小さい冷蔵庫を買ったのが失敗でした。保存できる量に限りがあって、結局辞めてしまいました。」
するとマヤさんは、意外そうな顔をしてこう言った。
「私の中では冴木さんは料理をしてそうなイメージを持っていました。仕事の手際がいいですし、洗い物をしながらほかの仕事を進めているのをコンビニで見ていましたから。」
やっぱり家はその人の人間性を表すな、そう思った。
「仕事向けの表の顔と誰にも見られない家の中の裏の顔は、全然違うものなんですよね。今日は家に来てもらってよかったです。少し恥ずかしい気持ちはありますが。」
「はい。冴木さんの裏の顔が見れてとても楽しいです。今日は冴木さんのことをたくさん知ることができました。招待してくれてありがとうございます!」
その時、スマホが通知音を鳴らす。どうやらことばパズルのインストールが終わったらしい。
「インストール、終わりましたか?では、フレンドになりましょう!」
僕はチュートリアルを飛ばし気味に進めてホーム画面にたどり着く。マヤさんのスマホの画面に表示されたフレンドIDを見ながら入力し、フレンドリクエストを送信した。リクエストは即座に承認されて、フレンド欄にマヤさんの名前が表示された。
「わからないことあったら何でも聞いてくださいね。ガチャの当たりキャラから効率的な進め方まで何でも答えられますよ!」
「このゲーム、リセマラとか必要ないの?」
「最初のガチャは何度でも引き直せます。」
など、他愛もない会話をして過ごした。
気が付けば、いい時間になっている。
「マヤさん、今日の夜も仕事ですけど寝なくて大丈夫ですか?」
「確かにそろそろ寝ないと仕事に支障が出ますね。今日が最後の仕事になるかもしれないのに、遅刻でもしたら大変です。」
そう言って、彼女はバッグを持って、帰る支度を始めた。最後の仕事。確かにそうかもしれない。そう考えると少しでも彼女といたいと思った。
「家まで送りましょうか?」
「じゃあ、途中までお願いします。私たち宇宙人は一つのアパートを貸し切って暮らしているんです。場所は企業秘密なんです。」
二人でアパートを出る。マヤさんの家は僕よりもコンビニから遠いらしく、その反対方向に向かって歩き出した。
「私もこなもんショップ東京、冴木さんと行ってみたいです。もしもまたここに戻ってくることができたら、ぜひ行きましょう。」
「そうだね。周りに美味しい料理の店もたくさんあるし、一日楽しめると思う。一緒に行こう。」
果たされるかわからない約束をして、僕たちは歩いて行った。




