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15話

午前1時、今日も2人で勤務している。僕はレジの中で洗い物、マヤさんは入荷した雑誌を立ち読み防止テープを貼りながら棚に並べている。

突然、マヤさんがレジに入ってくる。

「テープ、なくなりました?在庫ならそこの棚に…」

「いえ、冴木さん。私、少し話をしてきます。」

そう言うと彼女は自動ドアをくぐって外へ出てしまった。

誰とだろう、と僕も外を覗いてみる。話し相手は猫だった。屈んで真剣な顔で猫と話しているマヤさんは、なんだか絵面が少し面白かった。

相手の猫には見覚えがあった。前にもあの猫とマヤさんが話しているのを見たことがある。出勤前に駐車場の端で話してたのと同じ猫だ。

『さっきの彼女はこの辺りを管理しているんですよ。』

マヤさんはそう言っていた。メスのボス猫だ。

少しして、マヤさんが焦った様子で戻ってきた。

「どうしましょう冴木さん。上司命令で集会に参加しなくてはいけなくなりました。他の皆さんも待たせているみたいで…。でも私にはコンビニの仕事も…。」

何やら急用らしい。宇宙人も集会やるもんなんだな。そう思った。

「大事な用事なんだよね、こっちの仕事は僕に任せて大丈夫。店長には、体調が悪そうなので帰しましたって伝えておくから、口裏合わせてね。」

「口裏…?ええっと、私は体調不良で帰ったことになってるってことですね。わかりました。」

「ああ、行く前にタイムカード切って行ってね。」

彼女はバックヤードに入った。猫と二人でマヤさんを待つ。猫は全く動かずこちらをじっと見ている。僕とは話してくれないみたいで、一切鳴かない。

「お待たせしました、課長。行きましょうか。」

課長?と疑問を持つと、猫がミャオ、と鳴いた。

…もしかしてこの猫が宇宙人の上司?この辺りを管理してるって、そういう事?

そんな事を考えていると、猫とマヤさんは走ってどこかへ行ってしまった。

さて、まずは店長に連絡だ。

僕はバックヤードでショートメールで連絡して、仕事に戻った。すると戻った直後に電話がなった。

「お電話ありがとうございます。」

「ああ、俺だ。マヤさん帰ったんだって?」

店長からだった。

「はい、体調悪そうだったので。」

「お前休憩は?」

「まだ取れていないですが、お客さんがいない時間に取ろうかと。」

「それじゃ休憩になんないだろ。…すぐには行けないが、なるべく早く向かう。ちょっと待ってろ。」

そう言い残して、電話は切れてしまった。

「すみません店員さん、会計お願いしまーす。」

ふと我に返り店の中を見てみると、レジには5人ほど並んでいた。集団の客だろうか、みんなお酒を持っている。お酒はセルフレジを使えない。なのでみんな並んで待っている。

「すみませんマヤさん、レジお願いしま…」

そうだ、いないんだった。僕は急いでレジを打ち、客を捌いた。最後の客が居なくなると、店内は途端に静かになった。広告の店内放送がやけに大きな音に感じられる。

僕は久しぶりにワンオペの静かさを実感した。マヤさんが来る前はこれが当たり前だったが、今はより孤独を感じる。僕はそれを誤魔化すように仕事に打ち込むことにした。忙しさは夜の孤独を誤魔化してくれる。

電話から30分くらい経っただろうか。店長が出勤してきた。

「店長お疲れ様です。夜遅くにすみません。」

「まあ明日もあるし長くは居れないけどな。それにマヤさんやお前が悪いわけじゃない。体調悪い時は誰だってある。」

嘘をついてることに罪悪感を覚えてきた。

「とりあえず、この洗い物が終わったら休憩に入らせてもらいますね。」

「何かやっておこうか?」

「いや、夜の仕事は僕だけで終わらせられるので、店長には、店長にしかできない仕事をお願いします。」

じゃあ発注済ませておくか、と店長はバックヤードに着替えと備品を取りに行った。

店長はすぐ戻ってきて発注を始めた。発注用タブレット端末のピッピ、という音が大きく感じられる。

「店長、こんな時間まで起きてたんですか?」

「んや、寝てた。ふとタバコ吸いたくなって起きたタイミングでお前からメールが来たんだ。」

「タバコ吸いたくなって夜起きることあるんですね。」

「ああ、あるぞ。朝も起きたらすぐ吸わないと起きた気がしない。」

ニコチン依存って大変だな。そう考えていると、店長は言った。

「なんかお前、前より表情柔らかくなったか?タバコ中毒者は大変ですね、って顔してるぞ。」

当たっている。自覚はなかったが顔に出てたのか。

「なんか話し方も明るくなったし、いい意味で変わったな。なんかあったか?」

「多分、マヤさんからいい影響を受けてるんじゃないですかね?彼女、よく話しますし明るいですし。」

「確かにな、いい子だよな。面接で見抜いた俺の目は間違ってなかったんだな。」

そんな事を話してると僕の仕事が一段落した。

「それじゃあ、休憩入ります。」

「おう、ゆっくり休めよ!」

バックヤードのロッカーの中には出勤前に買った菓子パンがある。それとバイトだけに販売している凹んで激安になった缶コーヒー。僕はそれを食べながら思い出す。

『いい意味で変わったな』

そう言われる前の僕って、どんな感じだったっけ。店長と初めて会った時の僕ってどんな感じだったっけ。

ここで働くことを決めたのは、夜中にこのコンビニを使った時だった。僕は睡眠時間が短くて、10時に寝たら2時くらいに目が覚めてしまう。家にいても1人だし、誰かと遊ぶにしてもみんな寝ている。どこかに行くとしたら、コンビニくらいしかなかったのだ。

それならここで働けば深夜帯ならお金も多く手にはいる。そう考えていた。

でも、思い返すと本心では違ったのかもしれない。本当は寂しさを紛らわすことが目的だったんじゃないか。そのために接客業を選んだんじゃないか。そんな事を考えていた。菓子パンの袋を小さく結んで缶コーヒーを飲み干す。モニターには店長が1人で発注しており、客は誰もいない。呼ばれる気配もないし、仮眠でも取ろう。

…アラームの音で目が覚める。店長は相変わらず発注をしており、客は誰もいなかった。

レジに戻り、

「店長、仕事に戻ります。休憩対応ありがとうございました。」

「おう、俺はこれ終わったら帰るわ。」

店長はその後10分くらい発注をして、

「んじゃ、後はよろしくな!」

と言って帰っていった。

ふたたびレジで1人になる。だが孤独を感じて感傷に浸る暇はない。やるべき仕事が残っている。僕は朝のラッシュまでにやるべきことを済ませ、そのラッシュも1人で乗り切った。

午前7時、退勤の時間になった。主婦のアルバイト2人に引き継ぎ事項を手短に伝えて僕は帰った。

帰り道、マヤさんと猫(宇宙人?)が話していた駐車場を通ると…。そこには10匹くらいいるだろうか。とにかくたくさんの猫と、マヤさんが居た。…なんだろう。マヤさんの表情が暗い気がする。

僕が一歩踏み出すと、一匹の猫がミャオっと鳴き、猫たちは蜘蛛の子を散らすようにバラバラに走り出した。

マヤさんと目が合う。

「…冴木さん。」

「おはようマヤさん。仕事の事は心配ないよ。無事終わったから。」

すると彼女は目に涙を浮かべこう言った。

「…冴木さん。私、近いうちに宇宙に帰ることになりました。」


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