14話
あの日の猫はマヤさんだった。その事実を何とか理解しようとしていると、マヤさんは話を続けた。
「私がここに来た理由は、地球人の情報収集、調査です。その仕事をこなす上で、猫はとても都合がよい生き物です。飼い猫になれれば食べ物と快適な住居を、働かずに手に入れられます。どんな所にも静かに移動できます。そして可愛くて警戒されません。」
「だからあの日あの場所で、あの姿で、拾ってくれる人間を探していたってことか。」
少しずつ理解してきた。
「でも、冴木さんを見て考えが変わりました。私は冴木さんについて調査する。そう決めました。」
「それは、傘を渡して助けてくれたから?」
「いいえ。実は冴木さんは、私たち宇宙人の催眠が効かない特殊な遺伝子を生まれつき持っているんです。」
催眠が効かない。そう聞いて思い出した。最初にマヤさんが宇宙人と名乗った日のことを。
『本当に効かないんですね。』
彼女はそう言っていた。
「私たちの催眠は、地球人のほとんどに通用します。でも、冴木さんのような人は今まで確認されたことがありませんでした。睡眠中の脳波が、一般的な地球人とは大きく異なっているんです。」
「それで僕には宇宙人を名乗って、ほかの人には催眠でアメリカ人だと思い込ませて生活しているんですね。」
「はい。そういうことです。私は冴木さんには催眠が通じないので、正体を隠すこともできません。」
なるほど。マヤさんほど正直な人がどうやって宇宙人ということを隠し通せたのかという疑問は解消された。
「じゃあ、今ここで一緒に働いているのも、宇宙人としての仕事の一環ってこと?」
「半分あたりで、半分は違います。実は冴木さんの貴重な脳波のデータは既に十分集めさせてもらいました。」
まあ、取られて困るようなものでもないので気にしていない。
「私が今ここにいるのは、私個人の意思です。私が冴木さんの隣にいたいから、ここにいます。…冴木さん。私が宇宙人だって、完全に理解できましたか?」
「うん、理解した。マヤさんは宇宙人で、最初からずっと本当のことを言っていたって。」
するとマヤさんは少し間をおいて、こう言った。
「冴木さん、本当の私を知ってもなお、友達でい続けてくれますか?」
マヤさんの声が少し震えている。手は力強く握られている。
「友達に条件付きのものなんてないと思う。マヤさんが宇宙人だろうとなんであろうと、友達であることに変わりはない。それでいいんだよね。」
それを聞くと、マヤさんの頬に涙が伝った。
「私、本当は怖かったんです。本当の自分を知られたら、友達じゃいられないんじゃないかって。離れていってしまうんじゃないかって。」
ぽろぽろと涙がこぼれた。僕はどうすればいいのか悩んだが、すぐに答えは出た。
僕はマヤさんに小指を差し出し、こう言った。
「約束しよう、何があっても、いつまでも、友達でいようって。」
そう言うと、彼女はゆっくりと小指を絡め、握った。
もう涙はこぼれていない。
「ありがとうございます、約束です!」
太陽のような笑顔を浮かべて、マヤさんはそう言った。




