12話
午前7時、仕事が終わって僕とマヤさんはバックヤードで身支度をしていた。
「じゃあ、お先失礼します。」
タイムカードを切って帰ろうとする僕を、マヤさんが引き止めた。
「あの、冴木さん。今日はこの後って用事はありますか?」
「いや、特にないよ」
「もし、良かったらなんですけど、私と一緒にハンバーガー屋さんに行きませんか?」
断る理由はない。
「うん、行こう。」
僕はそう答えた。バイト帰りに誰かと朝ご飯を食べに行くなんて、初めてだった。
少しだけ彼女の支度が終わるのを待って、僕たちはいつもの帰り道とは逆の方向に二人で歩き始めた。
彼女の歩幅は僕より小さく、それに合わせて自然とゆっくり歩いていた。マヤさんが口を開く。
「実は今日から、私の好きなアニメとハンバーガー屋さんのコラボが始まるんです。セットを頼むとキーホルダーが貰えるんです。それが欲しくて。」
「…もしかして、そのアニメって『こなもん』?」
「そうです、やっぱり冴木さんも好きなんですね!」
マヤさんのテンションが明らかに上がっている。
こなもんとは、SNS発の漫画、アニメだ。僕もその2つは欠かさず見ている。
「マヤさん、アニメ好きなの?」
「アニメには詳しくないですが、こなもんは好きです。地球に来てすぐに知りました。それ以来ずっと好きです!」
「僕も映画を見に行くくらい好きですよ、入場者特典で主人公のこなもんのチャームが当たった時は嬉しかったな。」
「映画を見に行けて羨ましいです。私が地球に来た時には既に映画の上映は終わっていました…。」
まあ、その時のチャームはもう持っていない。あの日、猫に譲った傘につけっぱなしだ。
…っと、そんな話をしていると、目的のハンバーガー屋に着いた。こなもんコラボの効果なのか、注文端末には普段より多くの客が並んでいる。店内も、いつもより少し混んでいる気がする。
「私、主人公のこなもんが大好きなんです。もし冴木さんが当たったら、私のと交換してくれませんか?」
「いいよ、僕はどのキャラも好きなので。」
マヤさんは嬉しそうにしている。僕は注文端末でこなもんセットを頼み、お会計を電子マネーで済ませてマヤさんに代わった。
マヤさんの注文後少し待つと、電光掲示板には僕たちの番号が映し出された。マフィンとハッシュドポテト、ドリンク、それと銀色のビニール包装に包まれたキーホルダーの乗ったトレイを受け取る。
2人用の席に向かい合って腰かけるとマヤさんはすぐにキーホルダーを手に取り、
「早速開けちゃいましょう!」
と言う。待ちきれない様子だ。それに僕もポテトの油で手が汚れる前に開けたい。
「せーの!」
2人で開封した銀の袋からキーホルダーを取り出す。僕はこなもん、マヤさんもこなもんが当たっていた。
「やった!やりました!」
マヤさんはキーホルダーを胸に当て、立ち上がって喜んでいる。
「良かったですね、こなもん当たって!」
「はい、ありがとうございます!それに、お揃いです!」
彼女が持っていたバッグにキーホルダーを付けるのを見て、僕も同じように自分のカバンにキーホルダーを付けた。
「じゃあ、食べちゃいましょうか。」
いただきます、と2人で言って食べ始める。
「そういえば、なんで日本人はいただきますって言うんですか?」
そんな事を話しながら、楽しい時間を過ごした。




